大学の研究には、普段の生活ではまず思いつかないような面白い視点や発想、ハッとする発見や知識が詰まっています。そんな研究に関わる、さまざまなテーマが貼り出され、付箋を使って、ざっくばらんに意見交換ができるイベントが京都大学で開催されました。その名も「京大100人論文」。このユニークなイベントの魅力を知るべく、京大に行ってきましたのでご紹介します。
付箋でコメントのアナログ感も魅力。
「京大100人論文」は、学際融合を目指す京都大学学際融合教育研究推進センターが主催し、異なる分野の研究者が良縁を結んで、新領域の研究を生み出すことを目的に2014年にスタートしました。立案したのは、同センター准教授、宮野公樹先生です。
内容は、京大の教員、研究者、学生、院生、職員約100名が「私の研究テーマはこんな感じです」、「こんなコラボがしたい」、「私、こんなことができます」という3項目について、それぞれ120文字程度の文章にまとめて、学会でよく行われるポスター発表のように掲示。そこに、来場者が付箋にコメントを書いて貼りつけていくのが「100人論文」の最大の特長です。
リラックスできる空間で、誰もが思い思いに研究内容を読みふける
今年からは、もう少し詳しく研究内容を語るために「私の研究内容はこんな感じ」を300文字に増やし、研究を表すタイトルとビジュアルを追加。さらに、コラボだけでなく、もっと広く意見を聞いたり、述べたりできるよう、2つ目、3つ目の設問が「こんなことを話し合いたい、教えて欲しい」、「このことなら私に聞いて」にリニューアルされました。
会場に入ると、新たに生まれ変わった研究紹介が壁一面に掲示されているのですが、名前や組織名、専門分野はなく、大きく番号のみが研究紹介の上に書かれています。宮野先生いわく、これは「来場者がバイアスをかけずに、本音でコメントできるように」という配慮から。付箋を使うのも「キーボードやスマホで簡単に打たれた言葉の軽さとは違って、肉筆によるリアルさと、わざわざ書いて放つ言葉には重みがある」という狙いがあってのことだと言います。
参加者は思い思いに付箋にコメントを書き込む
研究紹介を理解するのは大変だろうと思いつつ、いざ読んでみると、どれもわかりやすい!文章は簡潔で、難しいグラフや図形などはありません。『ノドの進化:歌うサル、しゃべるヒト』『社会主義でも民主主義でもない、やりがいを引き出す「楽しさ主義」』など、タイトルもキャッチーで、これに添えられたビジュアルも興味を刺激します。また、それぞれの研究紹介に貼られた、色とりどりの付箋に目を向けると、素朴な意見から示唆に富んだアドバイスまであり、こちらはこちらでかなり面白い。「こんな捉え方もあるのか」と、感心するものがたくさんありました。
来場者に話をうかがうと「ボードのデザインも展示位置も読みやすい」「どれも面白くて、つい読み込んでしまった」と好評。出展した研究者は「たくさんの付箋が貼られていてびっくり。私の研究に興味を持つ人の存在を視覚的に感じられた」と喜んでいました。
研究内容を表現したビジュアルとキャッチが興味を刺激する
良縁の場より「研鑽の場」の創出を。
「京大100人論文」は、今年で5回目。昨年度のイベントからは40件以上の共同研究が生まれました。たくさんの実績をつくってきているものの、宮野先生はこの結果に満足していません。それどころか、イベントの一番の目的は、共同研究の創出よりも、「研鑽の場を創出すること」だと言います。「イベントでは匿名だからこそ偏見も忖度もない本音の意見を知ることができます。さらに出展者と発言者は、専用の掲示板でイベント後も活発な意見交換を続けることができます。研究者は、異分野と接することで、知らない世界を知り、新しい知識や考え方を得られる。これは自らの先入観や偏見を破壊し、再構築していくことにつながります。時には自分の考えは狭くないかと内省したり、真っ向から議論を挑んだり、分野を超えた学術対話が生まれる。それこそが学問であり、研究や研究者は、これによってこそ磨かれる」と、宮野先生は語ります。
話し出すと、とにかく熱い宮野先生
東京ドームで『10,000人論文』を。クラウドファンディングも推進!
「京大100人論文」は、宮野先生が運営ノウハウをオープンにしていることもあり、共同研究や異分野融合を図るモデルとして全国の大学に広がりつつあります。
「茨城大学や横浜国立大学、関西大学などでは同様のイベントが開催されています。今後は大学だけでなく、自治体や企業なども巻き込んで、いつかは東京ドームで『10,000人論文』を開催したいですね」と、宮野先生は楽しそうに夢を語ってくれました。
最後になりましたが、「京大100人論文」では、研究内容や付箋コメントを掲載した冊子制作のためのクラウドファンディングを実施しています。出資すると金額ごとに、支援者として冊子への名前掲載や冊子の贈呈など、さまざまなリターンが得られます。本記事を書いた9月15日段階で、すでに目標金額500,000円を達成しているのですが、興味のある方はぜひご支援ください。
来年の「京大100人論文」はどんな進化をするのか、今から楽しみです。興味のある方はぜひ来年、京大に足を運んで、忌憚のない意見を「貼り付け」てください。
今年の来場者は5日間で534名。短期間ながら多くの人が押し寄せた。当日の様子をまとめた動画はこちら