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  • date:2024.11.7
  • author:ギサブ キリコ

仏教界のめくるめく脇役ワールド!龍谷ミュージアム特別展「眷属(けんぞく)」をレポート

「眷属(けんぞく)」ってことば、聞いたことありますか?

 

ちょっとなじみの薄い言葉かもしれませんが、仏さまやお釈迦様にお仕えする者たち、すなわち「主役」の主尊に対して「脇役」になる皆さんのこと。といっても、主役を引き立てる控えめな姿を想像したらびっくりするほど、主役顔負けな顔ぶれが勢ぞろい。それを実感できるのが、龍谷ミュージアム(京都市)で開催されている特別展「眷属(けんぞく)」です。

武道に長けた精悍な漢(おとこ)たちから十二単の女性たち、ひょうきんで愛らしいこどもから動物まで…、本展のリサーチアシスタントを務める見学知都世さんに連れられ、総勢80もの名・珍脇役たちからなる、めくるめく「眷属」の世界へ、いってきました。

そもそも眷属(けんぞく)ってなあに?

入口でお出迎えしてくれたのは、本展のナビゲーターも務めるこのおふたり。

<矜羯羅童子・制吒迦童子坐像>(大阪・四天王寺)

 

不動明王に仕える、矜羯羅童子(こんがらどうじ)と制吒迦童子(せいたかどうじ)の木彫り像。その左下に写っているイラストは、かれらをモデルに仏像イラストレーター・マシュロバさんにより描き下ろされた本展オリジナルキャラクター「こんがらさん」と「せいたかさん」。

ぱっと見ただけでも、なんとなく対照的な性格がみえてきませんか。おっとりタイプな「こんがらさん」と、喧嘩っぱやそうな「せいたかさん」。そんな凸凹コンビに挨拶をして先へ進みましょう。本記事では、多数の展示のなかでもとりわけ印象的な眷属さんをご紹介しながら、展示の魅力をレポートしていきます。

 

……と、その前に。

そもそもあまり身近な言葉ではない「眷属(けんぞく)」とは、古くは中国語で「親族」のことを意味していたそうです。それが仏教用語としても使われるうちに、弟子や信奉者、お世話役など、ひろく主尊の周りに仕える者たちを示すようになりました。

そんな言葉の示す範囲の拡がりは、仏教美術における眷属の表象とも重なるかのようです。主尊の権威を高め布教に寄与する「引き立て役」にとどまらない、独自の多彩な世界観を本展の随所に見ることができます。

ボディガードな武闘派眷属

国宝〈安底羅大将立像〉(奈良・興福寺)

 

まずは武闘派のかっこいい眷属さん。いかめしい表情に隆々とした身体、精巧かつダイナミックな表現は今にも動きだしそう。上の〈安底羅(あんてら)大将立像〉は、しっかりと主尊をお守りするボディガードのような眷属で、主尊である薬師如来とそれを信仰する人々を守ります。

鬼も眷属⁉

重要文化財〈千手観音二十八部衆像〉(滋賀・大清寺)の一部

 

こちらは千手観音に仕える眷属さんたち。見ると、女性や男性など人間の姿をした者から……おや、真っ赤なお顔や緑のお顔、目を見開いて髪を逆立てた異形の姿もありますね。鬼神すらも従えてしまう千手観音の凄さが伝わってきます。

こどももいれば、お狐さんまで

国宝〈指徳童子立像〉(左)、〈阿耨達童子坐像〉(右)(和歌山・金剛峯寺)

 

大人や鬼もいるとなれば、こどもたちだっています。こちらは国宝の〈指徳童子(しとくどうじ)立像〉(左)と、〈阿耨達童子(あのくたどうじ)坐像〉(右)。「童子」といっても、今でいうこどもとは異なり、仏の手足となって働くお小姓さんのような立場を指しているそう。凛々しくもどこかふくふくした頬に、こどもっぽい愛らしさが覗きますね。

岡山で最近発見された対の白狐〈神狐像〉(岡山・木山神社)

 

人の範疇も超えた、こちらのお狐さんも立派な眷属さん。鍵と珠(たま)をそれぞれ咥えた一対の白狐さんは狛犬を彷彿とさせますが、「守護獣」というよりも福を授ける「神の使い」としての性格が強く、「御眷属」「眷属さん」と呼ばれ、今日まで信仰を集めてきたそう。

 

人間にちかい存在から、鬼、動物まで、多様な眷属と出会ってきましたが、かれらの姿から浮かびあがってくるのは、お仕えする主尊の権威や威容だけではありません。眷属の姿をすこしふみこんで読みとくことで、主尊の背負う属性や物語が浮かびあがってきます。

主尊と眷属、関係性から見えてくる

文殊菩薩の化身とされる〈大威徳明王像〉(東京・霊雲寺)※展示は前期(~10月20日)で終了

 

たとえばこちら。まんなかの大威徳明王(だいいとくみょうおう)の周りで、童子たちが元気よく駆けています。よーくこどもたちの姿を見ると……、なんと獅子のかぶりものをしています。

よーく見ると、額のうえに、歯をむきだした獅子の顔が見えます

 

なんともかわいい恰好ですが、なぜ獅子の面を? 秘密は主尊の大威徳明王に潜んでいます。大威徳明王は文殊菩薩の化身とも考えられていて、文殊菩薩の乗り物として知られる獅子を眷属である童子がまとうことで、主尊の文殊菩薩としての側面が暗示されているんですねぇ。眷属のありようによって主尊が立体的に立ちあがっていく。まるで、その者が誰であるかを持ち物などで表現する、美術のアトリビュートを連想させるような方法です。

 

実は最初に見た「せいたかさん」と「こんがらさん」の対の性格も、ふたりがお仕えしているお不動さんの「慈悲」と「忿怒」の両極の表現でもありました。眷属は、主尊をめぐる物語や世界観を表す役割も担っているのです。

習合の存在としての眷属

眷属の奥深い魅力は、仏教伝来の軌跡が凝縮されている点にもあります。

眷属や仏をはじめとした仏教はインドで生まれ、中国大陸を経由して日本に伝来しました。多種多様な眷属たちの幅の広さは、その長い道ゆきのなかで、混ざりあいながら継承されてきたともいえるでしょう。先ほど見てきた眷属の面々に異形が多いのも、象や鳥などしばしば人からほど遠い姿で表されるインドの神様の名残と思えば妙に納得がいきます。また、「主尊と鬼形の眷属」という外来の形式が、荒神さまという日本独自の神様にも波及し、いつのまにか眷属らしき存在を連れていたりすることも。様々な文化が習合した存在として、眷属が浮かびあがっていきます。

〈普賢十羅刹女(ふげんじゅうらせつにょぞう)像〉(東京藝術大学大学美術館)。十二単の女性たちは、元は人を食らう鬼。改心して眷属になりました ※展示は前期(~10月20日)で終了

人と神をつなぐ、あいだの存在

さて、充実した展示をまわりおえてとりわけ印象に残ったのは、眷属と、かれらがお仕えする主尊にたいする親近感でした。

尊い主尊は恐れ多くとも、主尊を慕う周りの眷属たちはとっても人間くさく、“ほとけ”の範疇におさまりきらないものたちまで多種多様です。そんなユニークな眷属に囲まれて、主尊もなぜだか優し気に見えてくる…。思わず自分もその輪に入りたくなってしまうように、眷属は仏様とわたしたちとをつないでくれるあいだの存在でもあったのですね。

 

そんな茶目っ気たっぷりな眷属たちに連れられ、仏教にも仏教美術にも詳しくない筆者も、いつのまにか夢中になってしまう充実した展示「眷属(けんぞく)」。会期は11月24日(日)まで。ふだんは主尊にお仕えする「脇役」な眷属たちが一堂に介してスポットライトを浴びるこの機会をどうぞお見逃しなく。

展示風景

 

参考文献:龍谷大学 龍谷ミュージアム『特別展「眷属」』2024年

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