写真提供:早稲田大学演劇博物館
年2回、春季と秋季に開催される早稲田大学演劇博物館(通称:エンパク)の企画展がスゴい!演劇文化におけるさまざまな分野のトップランナーが協力しています。今回は2019年1月20日に終了した企画展「現代日本演劇のダイナミズム」をご案内します。
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空間全体を展示スペースとして演出、
五感を使い“現代演劇”を感じる。
「現代日本演劇のダイナミズム」は、演劇の広がりとつながりを、展示空間全体を使って大胆に演出した企画展。演劇ジャーナリストである徳永京子さん、佐々木敦さん協力のもと、60年代から現代までの劇団・演出家などの作品が、大小さまざまなモニター映像や舞台写真、チラシとともに紹介されていました。
「現代演劇は複雑化しているので、その壮大な見取り図を提示したいと考えました」と話すのは岡室美奈子館長。
「もとを辿ると60年代につながることを表現したかったので、演劇を11のジャンルにわけ、そのジャンルを超えたつながりをゴム紐で表しています。空間デザインは舞台芸術家の杉山至さんに協力をお願いしました。ゴム紐が張り巡らされた空間から、複雑で多様なつながりを感じていただければと思います。そして、おもしろいと思った方が劇場にまで足を運んでくださるとうれしいですね」。
レトロな建物に不思議な空間が広がる
ゴム紐をたどりさまざまなつながりを知ることができる(写真提供:早稲田大学演劇博物館)
なかなか演劇を観る機会が少ない私も「この時代にこんなことやっていたのだ」「こんな劇団があるんだ」とじっくり展示や映像に見入ってしました。展示室には所々「頭上注意」の札が吊されています。集中しすぎると…頭にゴム紐がひっかかるためご注意を。
見学を進めていくとゴム紐の色とジャンルがわかってきて、あの作品はこことつながっているんだという発見に変わってきました。なんとなくですが、視覚を通して演劇がわかったような気に。
大小さまざまな劇団がたくさん!
新しい演劇ジャンルも誕生している。
今回、83にのぼる劇団や演劇人が協力しているそう。岡室館長は「最近、徳永京子さんが新しく提唱されている考え方に“弱いい派”というものがあります。弱者のことを考えるというよりも弱者側に立つ。そんな演劇が最近増えているということがおもしろい」とのこと。
その流れを受けて、介護福祉士でもあり、OiBokkeShiを主宰する菅原直樹さんを招き、認知症ケアに演劇的手法を活用した「老いと演劇のワークショップ」を行うなど、イベントにも発展させたそうです。
“弱いい派”のコーナー。「私たち弱いですけど、何か?」と静かに権利を主張しているそう
ゴム紐はまだまだ伸びて、階段の下へ。辿った先に待っていたのは同時開催されている特別展「演劇評論家 扇田昭彦の仕事 ―舞台に寄り添う言葉―」でした。エンパクは、扇田さんが残した膨大な舞台映像のデジタル化を進めており、今回の特別展を開催するにあたり扇田家より数々の貴重な資料を提供いただいたそうです。
特別展について岡室館長は「扇田さんはまだ知られていない劇作家に注目し、寄り添い、そして成長させていった方でした。多くの人に愛され、およそ半世紀の現代日本演劇に伴走された方であり、扇田さんに全部つながっていますよ、ということを1階から2階の展示室へと伸びるゴム紐で可視化したかったんです」。
扇田さんの残したものは、日本の演劇研究にとってかなり重要な資料だという
人間国宝、映画監督、人気役者…
企画展の関連イベントがハンパなく豪華!
エンパクの企画展で大きく注目したいのが、その関連イベント。「現代日本演劇のダイナミズム」では先に紹介した老いと演劇のワークショップの他、岩松了×風間杜夫×坂井真紀トークショー、ゲッコーパレード演劇公演、遊歩型ツアープロジェクト「演劇クエスト」などが開催されました。
過去の企画展記念イベントには高麗屋(二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎、八代目市川染五郎)三代襲名スペシャルトークショー、人間国宝の柳家小三治師匠の一門会、劇団東京乾電池の演劇公演、“逃げ恥”の脚本家の野木亜紀子さんとドラマプロデューサーの磯山晶さんによるトークショーなど、出演者が豪華!しかも無料というのがたまりません。
「過去に開催した脚本家の坂元裕二さんと映画監督の是枝裕和さんのトークショーは、大学の回線がパンクする程たくさんの方にお申し込みいただきましたね」とおっしゃる岡室館長。人気のイベントはインターネットでの申し込みが必要となっています。詳細はエンパクのSNSやWebサイトで要チェック!
残念ですが、2019年度春季の企画展はバリアフリー化にともなう工事のためにお休み(2019年2月1日~9月27日)です。期待高まる2019年度秋季の企画展は「コドモノミライ展-現代演劇とこどもたち」(仮)。岡室館長から「児童演劇と大人の観る演劇の垣根を取り除きたい。演劇が子どものために何が可能なのかを考えていきたいと思います」と意気込みをうかがいました。
現代日本演劇がわかる一冊『現代日本演劇のダイナミズム』は1000円(税込)。増補改訂版を刊行予定。詳しくはこちらへ。
演劇を作る人たちの熱量がそのまま伝わってきた「現代日本演劇のダイナミズム」展は、過去を振り返る懐かしさとともに、とても斬新なものでした。エンパクの今後の企画展を楽しみにしています!