新聞の視認性をめいっぱい活用
2019年12月31日、朝日新聞、神戸新聞の読者は、ある面にくぎ付けになったかもしれない。真ん中で聴衆に語りかける人物の姿と星条旗を振りつつ歓迎する観衆。どこかで目にしたことのある風景、ある種おなじみのアメリカらしいシーンでありながら、その人物自身はもしかしたらアジア系の人? と思わせるような風貌なのがまた「これはどういうことだろう」と思わせる。
このビジュアルのイメージと、「立命館から、アメリカ大統領を。」というコピーが一度で完全に腑に落ちた人は多くないかもしれない。日本にある大学に通っている学生で、将来の進路をアメリカ大統領に定めている人はまずいないだろうし、一目見て、驚きやギモンが湧いてくる。そんな破天荒なことを言うのって誰? と視線を右下に落とすと、立命館大学の文字が映る。『突き抜けたグローバル教育で、まだ日本が辿りついていない「世界」へ。』というキャッチコピー、そしてボディコピーを読んで納得した。
「新聞は視認性が高いメディア。読者は、見たことをしっかりと読み込んでくれる。だから伝えたいことを伝え、夢を語ることができると思いました。2020年は、5Gの幕開けなど、これからの可能性を感じさせてくれる年と考えていました。そのタイミングで、いろんな人たちが本学に夢を描いてもらえるような広告をめざしました」と広報担当者は語る。
新聞2面ぶち抜き広告に加え、大学広報初の試みとして日米でTwitter広告の配信を行った。ネットには専用サイトをつくり、共通テーマの動画もアップ(1カ月の期間限定キャンペーンのため、現在は掲載終了)。「初夢」だからこそ、表現に凝ったともいえそう。花火のように強烈な印象を残した後は、実際にグローバルってどういうことなのか興味を持った人に情報にアクセスしてもらえばいいわけだ。
ダイバーシティな大学でありたい
多くの大学がグローバル人材の育成をうたうようになったが、立命館大学は80年代の後半にいち早く国際関係学部を開設したパイオニアの一つ。2017年には、以前当サイトでも取材したグローバル人材育成広告キャンペーン「RPG」を発信した。
常識は、とことんまで越えていける、そんなメッセージを感じる広告。夢を感じた、グローバルな教育をしていることがよくわかったという反応があり、この広告を打ったあと、大学のホームページを見る人の人数が増え、滞在時間も長かったという。
しかし、インパクトのある広告の常で、SNSを中心に、なぜアメリカ大統領なのかというネガティブな反応もあった。「もちろん、アメリカ大統領を生み出す教育をしたい、と言っているのではありません。アジア系の男性の外見をイメージとして使っていますが、限定するつもりはありません。それに、国籍や性別の自認は外見と異なるのは今以上に当たり前になっているはずですしね。西洋、東洋と二項対立的(あるいは二分法的)に捉えるのではなく、北と南の関係も含めて地球は相補的(もしくは相補う)な世界になっていることでしょう。そういうことまで読み込んでもらえるとうれしかったですね」。
そのような可能性をつくるのが立命館のグローバルな教育、ということを伝えるというのがねらい。見た人がいろいろな捉え方をして、想像力をインスパイアされたのだとしたら、広告の意図は達せられたと言えるのかもしれない。2019年度神戸新聞広告賞では、広告主部門で金賞を受賞した。
また、全国紙では、西日本は「立命館から、アメリカ大統領を。」だが、東日本では「日本から、アメリカ大統領を。」と別のキャッチフレーズにした。大学の知名度の点で劣る東日本向けには、知らない大学だということでスルーされてしまわないような表現にしたのだという。
広報担当者は、「全国型の旗を降ろしたくない」と、全国紙に大々的に広告を打つ意味を語る。大学にとっては、グローバルも大事なのだが、全国さまざまな地域から学生が集まりいろんな人と出会うことのできる環境であるということが、教育の場として大きなアドバンテージになる。多様な価値観を育み認め合うことができる、ダイバーシティの観点からだ。
今後の展開は未定だが、グローバルは今後もメインテーマの一つとなることは確かだとのこと。次はどのような表現で驚かせてくれるのだろうか。