平安女学院大学京都キャンパスにある有栖館は、裁判所所長官舎だった有栖川宮旧邸の建物で、国登録有形文化財でもあります。京都御所を取り囲む公家町の邸宅の一つであったことから、毎年、春と秋の京都御所一般公開に合わせて公開していると聞き、訪ねてみました。格式のある書院造の建物を季節の風情の中で味わう、贅沢なひと時になりました。
勉強になるガイド付き見学
平安女学院大学京都キャンパスは、京都御苑の西隣という絶好のロケーションにあります。明治館、昭和館(いずれも国登録有形文化財)、聖アグネス教会(京都市指定有形文化財)などキャンパス内には多くの貴重な文化財があります。なかでも、京都文化の研究・教育の発信拠点として活用するため2008年に取得した有栖館は、元は有栖川宮邸だった建物で国登録有形文化財でもある文化的価値の高い施設です。
烏丸通りに面した「青天門」
烏丸通りと下立売通りの一角に建つ650坪の広大なお屋敷。烏丸通りに面した「青天門」はとても風格があります。1912年に三井総家邸宅の門として建てられたものを裁判所が購入して1952年に所長邸の門に据えました。当時の所長であった石田寿氏は文化人で、親交のあった歌人吉井勇氏が李白の詩から青天門と名前をつけたそうです。ケヤキの一枚板を曲げ木にした唐門は、大正時代の門建築としても価値が高いものです。
門を入ると立派な庭に2本の立派な枝垂桜。塀を越えて烏丸通りに張り出した枝は、毎春、道行く人に桜の景観を楽しませているそう。この桜は、日本画家・堂本印象の発案で醍醐三宝院から移植したもので、秀吉が花見をした醍醐の桜の孫にあたります。
桜の時期も見事です
と、いかにも知ったような顔して書けるのは、こんなさまざまなエピソードをガイドさんから教えてもらったから。公開中は、専属ガイドさんに解説していただきながら、邸内をぐるっと一巡りできます。有料だけど、お得感あり。
書院造りで楽しむ歴史時間
お屋敷は伝統的な書院造りで、中庭を囲んで玄関棟、客間棟、住居棟の3つで構成。玄関棟から最初に導かれる客間棟は、板間と和室の間仕切りが取っ払われてひとつながりの大空間になっています。縁側の向こうには、日本庭園の風情ある眺め。ここでガイドさんは少し時間をとって、有栖川宮という宮家の話やお屋敷の現在までの歴史などを解説してくれます。
庭園を見ながら解説が聞ける
有栖川宮邸は、もともと京都御所建礼門前にあった広大な敷地の邸宅でした。明治になって主を失ってからは京都裁判所の仮庁舎等として使用された後、その一部は、京都御苑から烏丸通りを隔てた西隣りの現在の場所に旧京都地方裁判所所長宿舎として移築されました。2007年までは使われていたというのにびっくり。「毎日の手入れはすごく大変だったと思いますよ」とガイドさんがおっしゃる通りでしょう。
伝統的なデザイン、矢筈の寄木が張られた美しい床板の板間では、訪れる人が「ドン」と大きな音をさせて足を踏みしめていました。この板間は能舞台として使われたとされ、床下に甕(かめ)を置いて足拍子を響かせるしくみがあるかどうかを試しておられるようでした。
和室は、正面にしつらえられた上段の間に付書院という作り付けの机のついたスペースがあるのが本格的。さらに、書院窓の上には龍の透かし彫りが施され、月の明かりでその姿を壁に投影して愛でる洒落た演出がなされています。
この龍の透かし彫りが…
右奥の壁に投影される仕掛け!
庭園は、250年続く造園業として数々の名園を手がけてきた「植治」11代小川治兵衞氏によって、2009年に「平成の植治の庭」としてよみがえりました。縁に立ったり座ったり、座敷から見たり、視点の位置や高さを変えて眺めるといくつもの顔が見えてくる、奥行きのある庭園空間です。
「平成の植治の庭」
中庭には白とピンクの両方の花を咲かせる源平桃のしだれが植えられ、桃が終わった頃に前庭の桜を楽しむという趣向。さらに、フジバカマの原種など珍しい花も引き受けて育てているということです。
住居棟側では、開学140年の歴史を持つ平安女学院の歴史や制服の変遷などの展示、すぐ近所で江戸時代からお香を商う山田松香木店による、お香の香りあて遊びなどの展示もあり、興味深いものでした。
平安女学院は日本で初めてセーラー服を制服に導入
3種の香りのうち、1種類だけ違う香りが
京都御所一般公開にお出かけの際は、ぜひ一度、有栖館にも足を運んでみてはいかかでしょうか。