豊臣秀吉の正室、北政所(きたのまんどころ)ねねゆかりの寺として知られる高台寺(京都市東山区)がこの春、世界初の試みとしてアンドロイド観音による説法を行ったのをご存知ですか? 「アンドロイド観音爆誕」とネットを騒がせたこの取り組みに力を貸したのが、人間型ロボットの研究で知られる大阪大学の小川浩平講師。仏教界とロボット工学の最先端が、なぜコラボレートしたのかを伺いました。
◉お話を聞いたヒト
小川浩平 先生
大阪大学大学院基礎工学研究科講師。人と自然に共存することができるロボットの開発に取り組む研究者。
人酷似型のアンドロイドロボットを用いた自律システムなどを研究。
現代の仏像はアンドロイドであるべきだ!
ほとぜろ:
高台寺でのアンドロイド観音による説法。私も拝見しましたが、機械部分丸出しのボディの観音とプロジェクトマッピングが映し出す聴衆との対話で、般若心経の難しい教えがすんなりと頭に入ってきたのが面白かったです。でもなぜ、アンドロイドで仏像をつくろう、しかもそれで説話をしようということになったんでしょう?
小川先生:
きっかけは、高台寺の後藤典生(てんしょう)さんとの話し合いの中で、後藤さんが「今の世の中で新しく仏像をつくるならアンドロイドでしょう」と…。
ほとぜろ:
お寺の方がそんなことをおっしゃるとは、びっくりです…!
小川先生:
後藤さんが言うには、仏教って教えを伝える方法については柔軟な宗教だと。そもそもブッダの教えの口伝から始まったのがお経になり、ある時「絵にしたらもっと仏教が伝わるんじゃないか?」と考え仏画が生まれた。同じ発想で数百年後にレリーフ、そして3 Dである仏像が出てきた、といわれています。「現代の技術で新しい仏教の伝え方を考えたら、それはロボットでしょう」とおっしゃるわけです。
ほとぜろ:
はー、なるほど。もし現代に運慶・快慶が生きていたら、ロボットで仏像を造りたいって言ったかもしれないですよね。
小川先生:
高台寺の願いは「アンドロイド観音を通じて、仏教の教えをもっと世の中に広めたい」ということ。でも僕らは研究者ですから、面白いだけでは協力することはできません。今回このプロジェクトを共同研究として立ち上げる決断をしたのは、僕の研究テーマと大いにリンクする部分があったからなんです。
アンドロイド観音誕生の経緯について話す小川先生。研究室にはさまざまなアンドロイドたちもいる
ほとぜろ:
先生は、人型ロボットであるアンドロイドの開発や、AIと呼ばれる自律的なロボットや人工知能の研究をされているんですよね。
小川先生:
そうですね。でもその目的は人間理解のためのロボット研究なのです。人間と自然に共存できるロボットやその仕組みを作ることで、人間のアイデンティティやコミュニケーションの根元にあるものを探っています。それこそ、心理学とかの知見を入れながら。そうすることでロボットが人間らしさや生命性を獲得していくんだという考え方でロボットをつくっています。
ほとぜろ:
人間を理解するためにロボットを…?!
小川先生:
アンドロイド観音を造るにあたり、機械むき出しのボディにしたり、男性・女性どちらにも見えるニュートラルな姿にしたのも、「ヒトは想像力で人と関わっている」という僕の仮説を実証するためなんです。
ほとぜろ:
んん…?どういうことですか?