ヒトは想像力でコミュニケーションしている
小川先生:
人間と自然に対話するアンドロイドを研究するなかで、最初は僕らはある特定の人物をモデルにしたアンドロイドをつくりました。あそこにある石黒教授そっくりの「ジェミノイドHIシリーズ」などです(研究室の片隅を指差す)。
ほとぜろ:
うわー、生で拝見するとリアルですね…。
小川先生:
まさにアバターですよね。でも石黒教授そっくりのアンドロイドを僕やあなたが使ったら、違和感がありますよね。これは石黒教授が遠隔操作するから本人に見えるのであって、本人以外には使えないという問題があった。じゃあ、誰かに似せるのではなく「誰にでも見えるアンドロイドをつくろう」と発想して、髪の毛などの体のパーツを取り除き、性別や年齢がニュートラルな見た目のアンドロイドであるテレノイドを制作するようになったのです。アンドロイド観音もその考え方で、あの見た目にしているんですよ。
あえて想像の余地を残した見た目に
アンドロイド観音を拝む参加者の姿も
ほとぜろ:
確かに性別がわからない見た目でしたね。「男性なのかな?女性なのかな?」と想像しながら眺めていました。
小川先生:
まさにそこです。あの見た目は、アンドロイド観音を通じて「自分が理想とする観音さま」の姿を見てもらうための仕掛けなんです。人間は想像の余地があると、その余地をポジティブに補完するようにバイアスがかかります。例えばコールセンターに電話した時、相手の顔なんて知らないけれど声や話し方から「きっと綺麗な人だろうな」と無意識に想像してしまうでしょう?
ほとぜろ:
無意識に好意を抱くように想像力を働かせるってことですか?
小川先生:
人間のコミュニケーションの根本にはそうした仕組みがあるというのが僕の仮説で、この仮説をロボットに応用すれば、ヒトとロボットの良い関係が作れるのではないかと考えています。アンドロイド観音は、それを検証する場として最適だったからこそ、高台寺との共同研究を始めました。
ほとぜろ:
なるほど!でもアンドロイド観音のデザインに対して高台寺からは否定的な意見は出なかったんですか?
小川先生:
いいえ、後藤さんは僕の考えをすごく理解してくださいましたね。それに後藤さんによれば、仏様とはそもそも女性にも男性にも動物にも姿を変える存在なんだそうです。その人に仏教の教えを解くために最適な形に姿を変えてくれる。そうした仏教がもともと持っていた考え方と、僕らの考え方が合致した。互いにやる価値があるプロジェクトだったんです。
はじめは見た目に圧倒されるアンドロイド観音ですが、お話を聞いていくうちに、その意図や考え方に納得・・・!
後編ではさらにプロジェクトの研究的側面について伺います。