学生が作り上げたオリジナルメガネを実際に販売する日本唯一の産学連携プロジェクト・京都精華大学の「あいうぇあデザインあいうえお」が3期目を迎え、2月25日、全国の眼鏡市場で販売がスタート。学生たちはどんな思いでメガネを作り上げたのか伺ってきました。
芸大生だからこそのセンスが冴えわたるメガネたち。
「あいうぇあデザインあいうえお」とは、2015年に開講した、日本の大学では初となるアイウェアデザインを学ぶ授業。国内トップのメガネ産地・福井県鯖江市にあるメガネフレームデザイン会社・株式会社ボストンクラブとアイウェアデザイン事務所・Sowell Design Office、「眼鏡市場」を展開する眼鏡小売チェーン・株式会社メガネトップ、同大学デザイン学部プロダクトコミュニケーションコースがコラボレーション。「アイウェアデザイン」の授業を行って、メガネの可能性やそのデザインの面白さを感じてもらい、未来の優秀なアイウェアデザイナーの育成をめざすものです。(過去のプロジェクトはこちら、2016年度前編・後編、2018度)
メガネをさらに引き立てる店頭ディスプレイ。
今回は4名の学生さんに集まっていただき、「デザイナー」自らこだわりを紹介してもらいました。
まず、山目篤史さんがデザインしたのは「Craftsman e were」。おしゃれが好きで、メガネもコーディネートの一部と考えているものの、自分のセンスにフィットするメガネになかなか出会えなかったことから、「ちょっと無骨で重厚感のある、メガネをかけているなと実感できるデザインにしました」とのこと。
メガネをはじめ、モノづくりに携わる職人へのリスペクトと、いろいろなモノ、コトにこだわる人にかけてほしいという思いから「Craftsman」と名付けたそうで、太めのフレームとテンプルが存在感抜群。アセテートというプラスチック素材のクリアな質感でかけやすさも叶えています。
「商品化に向けては自分がカッコイイと思うポイントと多くの方に選んでもらえるポイントを合わせるのに苦労しましたね。とくにフレームのカラーはサンプルを何色見たかわからないくらい、悩みに悩んで選びました」と山目さん。
「Craftsman e were」をデザインした山目篤史さん。
「Craftsman e were」レンズとレンズをつなぐブリッジに光る装飾も目を引く。
続いては、話ししてくれたのは本山智美さん。商品名は「ablanda」で、やわらかくなるというスペイン語から名付けたのだそう。「デザインするにあって、女性100人に自分の容姿について街頭インタビューしました。すると、何かしらコンプレックスを抱えている女性が多く、メガネについては、かけていること自体がコンプレックスという声もあったのです。そこで、コンプレックスをカバーし、一段とステキに、かわいくなれるメガネをデザインしました」。
その言葉通り、本山さんのメガネはまさにかける化粧品! フレーム上部はブラウンのアイラインを引いたようにくっきりとした目元を演出。下部は淡いピンクのラメ入りで流行の涙袋が完成するのです。「フレームの両サイドをまつげのようにしたこともこだわりです。加工に手間がかかるとのことでしたが、無理をお願いして採用してもらいました」。
「ablanda」をデザインした本山智美さん。
「ablanda」は雑誌『FUDGE』でも紹介された。
次に、伊藤千華さんがデザインしたメガネは、フランス語でウサギの意味の「Lapin」です。「私は目がよくてメガネをかけたことがないので、ファッションやインテリア、コスメからポジショニングマップを作ってデザインの方向性を決定。多くの女性が求めるかわいさを表現するために動物のうさぎをモチーフにしました。いろいろなうさぎの目を絵に起こし、つり目気味なのに大きくて丸い、愛嬌のあるフレームに。甘すぎずかっこよさも感じさせるよう、カラーは黒フチにしました」とのことで、異なるカラーのテンプルを採用することで横から見ると印象が変わることも魅力。「まつげがレンズに当たらないように、鼻が痛くならないようになど、細部まで調整するのが大変で、メガネって、いろいろなことが凝縮されてるモノだなと思いました」。
「Lapin」をデザインした伊藤千華さん。
「Lapin」キュートもクールも叶うデザイン。
喜田宗二郎秀信さんがデザインしたメガネは、「Craftsman」。昔ながらの職人が使っているような後頭部で止める形状が特徴です。「僕は小さい頃からメガネをかけているのですが、鼻や耳が痛いのが嫌で…。それを解消するために機能性も重視しました。後頭部の形や大きさは人それぞれで、平均化するのが難しかったですね」。喜田さんはどうしてもフレームにメタルを使いたく、自ら削り出したそう。斬新な形状や材料費の面から商品化には至りませんでしたが、「ひとつのモノを作り上げる達成感を得られたし、デザインから商品へとクオリティアップさせていくプロセスと結果を学べたのがよかったです」とのこと。
「Craftsman」をデザインした喜田宗二郎秀信さん。
「Craftsman」メガネは耳が痛い悩みを解消。
喜田さんの言葉を受けて、学生の指導にあたるsowell design officeの脇先生は、「メガネだけでなく、どんな商品も多くの人たちが関わり、頭を働かせ、手を動かしと、手間ひまをかけ、情熱を込めていること、それで初めて人に喜ばれるモノが完成することを学んで欲しい。また、メガネの商品化にあたってはデザイナー費も発生しているのですが、自分のデザインへの対価の意味、責任も知ってもらえると、デザイナーとして社会に出たときに役立つと思います」と総括してくださいました。
デザイナーの先輩としてもアドバイスしてくれる脇先生。
コラボ授業出身アイウエア・デザイナーが初めて誕生!
このコラボレーションでは人材育成も目的にしていますが、なんと山目さんが卒業後アイウエアのデザイナーになることに! 3回目を迎え、初の人材輩出も達成したのです。
「入学した時は別分野のプロダクトデザイナーをめざしていましたが、メガネを奥深さ、面白さに魅せられて、4年次の夏休みには鯖江のメーカーで修行させてもらいました。このプロジェクトが僕の将来を決定づけてくれましたね」と山目さん。
コラボ授業の仕掛け人である、プロダクトコミュニケーションコース教授・平田喜大先生もこの山目さんの進路決定に大喜び。また、本山さんは高校時代に1期目のプロジェクトについて知り、入学と受講を決めたそうで、「商品化や人材育成・輩出はもちろん、オープンキャンパスで過去の作品を展示するなどして、プロジェクトをもっと広く知ってもらい、入学促進もつなげていければいいですね」と今後の展望を語ってくれました。
何枚も何枚もラフを描いてデザインを固めていく。
鯖江の工場に足を運んで工程や職人技を実感。
筆者も目が悪く、メガネが必要ですが、似合わない、かけにくいと不満で、使用は休日や自宅でのみになっていました。ただ、今回、学生さんたちが作り上げたメガネの今までにないカッコよさにビックリ。デザインはもちろんのこと、計算され尽くしたかけ心地の良さも魅力で、「どれもほしい」と思ったのです。みなさんもきっとビビっとくるはず。学生さんの思いが詰まったメガネをぜひ手に取って、愛用してください。