ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

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  • date:2024.9.17
  • author:谷脇栗太

【第10回】ほとゼロ主催・大学広報勉強会レポート。大きな節目で何を・どう伝える? 周年広報のあり方とは。

ほとんど0円大学では、大学広報関係者を対象とした大学広報勉強会を定期的に開催しています(勉強会レポートの一覧はこちら)。2024年8月2日に開催した第10回勉強会のテーマは「目的もやり方も千差万別!? 周年広報を話し合う」。大学設立50周年、100周年……と大きな節目を迎える年は、大学の来し方を振り返り、未来へのビジョンを学内外に発信できる格好の機会です。けれど、周年と周年の間は5年、10年とスパンが開くため学内でノウハウを蓄積しづらいという側面も。

今回は日本福祉大学、青山学院、京都大学から担当者をお招きして、それぞれの大学での周年広報の事例について伺いました。

福祉の価値を再定義する、日本福祉大学 学園創立70周年プロジェクト

最初に登壇いただいたのは日本福祉大学 学園広報室長の榊原裕文さん。2023年に70周年を迎え、「Well-being for All~幸せを創造する大学へ~」というスローガンを掲げて2025年度までの3年計画で周年事業に取り組んでいる真っ最中です。特徴的なのは、周年事業を大学が抱える課題に取り組む契機として位置づけている点。「単発の打ち上げではなく、その後も継続する企画でなければ予算がつきません。周年の3年間で0を1にして、その後時間をかけて10まで積み上げていくということをこれまでも続けてきました」と榊原さん。では、今回取り組む課題とは?

日本福祉大学の榊原裕文さん

 

「世間から見た『福祉』と、本学が追求する『ふくし』の捉え方にはギャップがあります。福祉というと、世間では介護のイメージが強いですが、本学ではもっと広い意味で、「誰もがふつうにくらせるしあわせ」を考え、追求することを「ふくし」と捉えています。とくに福祉に馴染みのない若い世代に対して、どうすれば『ふくし』の価値を伝えられるかという視点で事業に取り組んでいます」

 

その事業のひとつが、70周年特設サイト内の「日本福祉大学チャレンジファイル」。日本福祉大学の教員らが、研究・教育・社会貢献活動に取り組む姿をインタビューや動画で紹介するコンテンツです。覗いてみると、スマート農業、生活保護バッシング、開発途上国の教育支援など、これも“ふくし”につながる問題なのかとハッとさせられるテーマがズラリ。ひとつひとつの記事の内容も充実していて、質・量ともにかなりの熱量です。事例紹介を通じて読者にふくしを「自分化」してほしいという思いで、最終的には70もの事例を公開する予定とのこと。この他にも、ソーシャルワーカーの源流と言われる浅賀ふさ氏の人生をたどるラジオドラマの制作、障害者アートによる中部国際空港のダストボックスのデザイン公募、障害者アートを使った新聞広告など、周年事業という枠組みの中で社会に向けた発信に取り組んでいるそうです。

「日本福祉大学チャレンジファイル」の紹介(発表スライドより)

 

最後は「福祉のイメージを変えるために、きちんと継続していく。より良く生きるということを発信し続けることを発信し続ける大学でありたい」と、周年という契機を長期的な視点で活かす大切さを語ってくださいました。

「青学マインド」を伝え共有する、青山学院150周年記念プロジェクト

次の発表は青山学院より、本部広報部 広報課長の髙木茂行さんです。学院創立150周年、大学としては75周年を迎える本年、青学では学内外を巻き込んだ周年事業を展開中です。

青山学院の髙木茂行さん

 

髙木さんによると、周年事業のねらいは150周年を祝うお祭り的な盛り上がりを通して在校生、卒業生、保護者など学院の関係者とのつながりを確認すること。その軸として最初に制定されたのが「響け、青学マインド。」というキャッチコピーでした。次に楽譜をイメージしたロゴマークを作り、学院内での周知をはかってきたそうです。

 

各部署から企画が上がり、まさに学院全体を挙げたお祭りとなっている周年事業。150周年特設サイトはそれらの情報を集約するポータルサイトとして位置づけました。

 

特設サイト内の「EverGreen150」は、教員、学生、卒業生など青山学院に関わるいろいろな人が、「1・5・0」にちなんだおすすめの作品を紹介するという一風変わったコンテンツです。その他にも、アンバサダーとして起用した学院ゆかりの芸能人へのインタビュー、青学の人や建物に関するクイズコーナーなど、いずれも「つながり」を感じさせるコンテンツが充実。著名人の起用によって学外からも注目を集めつつ、学内や卒業生一人ひとりが主役であることがしっかり伝わってきます。

特設サイト内のコンテンツ「EverGreen150」

 

11月の創立記念日に向けて、今まさにいろいろな企画が進行中。実務面でここまでを振り返って、各部署が主導する企画を全体として統括することに課題を感じていると髙木さん。学院を構成する各学校間の温度差が縮まればさらに盛り上がってくるのでは、とも分析します。

 

最後に、周年事業の意義について、「周年イベントを通して愛校心を育み、在学中はもちろん、卒業後も青山学院とつながり続けてほしい。また周年事業を通して『青学マインド』を確認し、新たなブランディングにもつなげていきたい」と締めくくりました。

長期スパンで周年を盛り上げる、京都大学125周年記念事業プロジェクト

最後の発表は、京都大学 成長戦略本部の小河布記子さん。2022年の京都大学創立125周年に向けて取り組んだプロジェクトについてお話しいただきました。京都大学の場合、周年広報の開始は4年前の2018年と早め。長期スパンの計画によって周知を拡大するとともに、広報と連携することで大学基金への寄付を募るという目的もあったそうです。

京都大学の小河布記子さん

京都大学の小河布記子さん

 

そこで重要になるのが、「いつ、誰に、何を」伝えるかということ。最初に取り組んだのはステートメントとスローガン、シンボルマークの制定でした。時計台の意匠を取り入れたシンボルマークは名刺や封筒、教職員がつけるピンバッジまであらゆる場所に展開して、学内への周知に活用。続いて記念広報誌を発行し、毎号巻頭に総長のメッセージを掲載して周年に向けた全学的な取り組みの機運を醸成していきました。

 

そして2019年に特設サイトがオープン。はじめに公開したのは、京都大学のルーツを掘り下げるコンテンツや各界で活躍する卒業生へのインタビューでした。こうした取材を通して、教職員や同窓生に周年を知ってもらうねらいもあったそうです。続いて、在学生や学内の若手研究者の活躍にスポットを当てたコンテンツで徐々に学生へも認知を広げていきます。さらに、京大周辺の思い出の場所とエピソードを投稿してもらう参加型コンテンツを公開。より多くの関係者に興味・関心を持ってもらえるよう段階的にコンテンツを充実させていきました。周年事業の集大成は、2022年6月と11月に開催された記念行事。その参加募集や開催報告にも特設サイトが活用されました。

京都大学創立125周年事業特設サイト。周年事業の終了後もアーカイブとして残されている

 

こうした広報活動と連携することで、研究・教育を支える寄付金も順調に集まったそう。4年に渡るプロジェクトを完遂するだけでも大変なことですが、さらにその先、次の周年に向けた引き継ぎが課題だと小河さんは語ります。実はそのことを意識して、打ち合わせや行事の裏方の様子なども録画で残しているのだそう。この徹底ぶりには驚かされます。「大学にとって周年とは通過点なのですが、同窓生も含めた大学関係者全員の思いを一つにして、未来に進むための大切な節目にもなると考えています」と締めくくっていただきました。

節目を祝う周年広報は、次の未来へ進む活力

休憩を挟んで後半は座談会。ここでは、周年広報の実務についての話題で盛り上がりました。

 

周年広報で避けては通れないのが、全学的な取り組みとして学内の認知を広め、協力体制を築くこと。認知の拡大については、周年のロゴマークのワッペンを作って学内に配布すると良い感触があった(青山学院・髙木さん)、周年のロゴマーク入りの名刺、発表スライド、Zoom背景などを作って浸透を図った(日本福祉大学・榊原さん)など、やはりロゴやキャッチコピーといったシンボルの力は大きいようです。京都大学の小河さんも、最初は一部局の取り組みのように捉えられて各部局との関係構築に苦労をされたそう。各部局が主催するイベントに125周年の冠をつけてもらい、その集客を広報でバックアップするなど、互いのメリットをすり合わせながら学内を巻き込んでいったというお話が印象的でした。

座談会の風景

 

周年広報でとくに手応えを感じた企画はどんなものだったのでしょうか。京都大学では、同窓生に寄稿してもらう企画がコミュニケーションツールとして役立ったといいます。「ぜひあなたに書いてほしい」と依頼すること自体が大学はあなたをリスペクトしているというメッセージになり、寄稿者から別の同窓生を紹介してもらうという広がりも生まれたそう。青山学院は芸能人を起用した企画で認知拡大をはかりましたが、髙木さんとしては著名人とそうではない卒業生・在校生がほどよく混ざりあったEverGreeen150に手応えを感じているそう。「投稿者にも満足してもらえる企画になった」と振り返ります。日本福祉大学の榊原さんは「継続性を重視しているので、今はまだ評価できない」としつつ、60周年を期に実施した「国際協力出願」や、50周年から現在まで継続しているエッセイコンテストを成功例として挙げてくれました。

 

目的や取り組みは三者三様でしたが、次の10年、50年、100年に向けて進んでゆくための活力として、周年広報の意義を改めて感じた勉強会でした。

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