今年で8年目を迎える、佛教大学の学生による「酒づくりプロジェクト」。本プロジェクトの概要から今年度上半期までの取り組みについては、前回の記事でご紹介した通り。すでに酒米の収穫とターゲット&コンセプト設定まで完了している。そして今回はその後、11月下旬に行われた、日本酒づくりの要である醸造の様子をレポートする。
参照:佛大生が挑む日本酒づくりプロジェクトを追う①
いざ、酒蔵へ
3日前から、酒づくりに悪影響を及ぼすためNGと言い渡されていた納豆・キムチ・ヨーグルトの発酵食品3禁を守り、当日は夜明け前に家を出発。午前8時前に、京都の酒処・伏見にある蔵元「招德酒造」に着いた。寒い、眠い、というような言葉しか出てこないような状況なのだが、すでに門の向こうに見える酒蔵の中は、活気に満ち溢れている。その姿にこちらも気合いを入れ直し、身支度を整え、きれいに手を洗い、入念に消毒をして、準備万端。本日の参加学生5名と一緒に、酒蔵の中へと導かれる。
酒蔵に入る前に、今日の作業を説明する招徳酒造社長の木村さん
白衣、キャップの装着はもちろん、手洗いや靴の消毒まで入念に行ってから酒蔵へ
単純だけど奥深い酒づくり
酒蔵の中は、木造ならではの木の香りと、日本酒の香りがふんわり。そして、数名の蔵人たちがものすごい勢いで働いていて、寒さをかき消すような熱気がむんむん。
学生たちはまず、仕込みのスタート部分となる「酒母(しゅぼ。“もと”とも言われる)」づくりを体験する。事前に30℃近い温室でつくられた麹を外へ運び出し、タンクの中に入れ、伏見が誇る名水と一緒によく混ぜる。そこへさらに酵母菌を入れて、よく混ぜる。作業としては“運ぶ”と“混ぜる”だけではあるのだが、学生たちはみんなどこか楽しそう。憧れの日本酒づくりを実際に体験しているのだという嬉しさが、こちらにも伝わってくる。
麹を運び出す作業を指導する内炭さんは、実は「酒づくりプロジェクト」がきっかけで招徳酒造に就職した佛教大学の卒業生
麹と水の入ったタンクに酵母菌を流し入れる。作業をする学生も、見学する学生も真剣そのものだ
そうこうしているうちに、背後にある巨大な蒸し器で米が蒸し上がった。茶碗何杯分とかいうレベルではないほど大量の米が、轟音を響かせる機械の力でダイナミックに運ばれていく様や、蒸し暑い麹室の中に投入され、蔵人たちの手によってひたすら平らに広げられていく様を、じっと見学。ここで2泊3日、じっくり麹を育てるのだ。日本酒は米からつくられているという、頭の中でなんとなくしか理解できていなかった事実を実際にこの目で確かめていくかのような光景は、ただ見ているだけの私にも十分に興味深い。米づくりから携わっている学生たちにとってはなおさらだろう。
さらに、「酒母」の次の段階となる「初添え(はつぞえ)」も体験。「酒母」に水、麹、蒸し米を追加し、よく混ぜるのだ。学生たちが蒸し米を運び、蔵人たちがひたすら混ぜる。全身を使って混ぜているように見えるあたり、相当な力仕事だと伺える。この段階で、容量は2~2.5倍ぐらいにアップした。実際はさらに数日かけ、同様の作業をタンクのサイズをどんどん大きいものに変えながら、計3回繰り返す。これを3段仕込みと言い、江戸時代に確立してから現代までずっと、日本酒は変わらずこの製法がとられているそうだ。仕込みが終われば、あとは約20日間、微調整しつつ発酵していくのをひたすら待つ。ものすごく簡単に言ってしまうと、日本酒づくりにおける主な作業は以上。この極めてシンプルな工程の果てに、あの味わい深い日本酒が出来上がるのだ。
蒸し上がった酒米をクレーンで移動する様子はダイナミックのひと言に尽きる
「初添え」の作業では、学生たちが慣れない手つきながら全身でタンクの中身を混ぜる
決意も新たに、ラストスパート
醸造体験を終えた学生たちは、「日本酒の製造工程ってもっと複雑なのかと思っていたけど、実はとても単純なんですね」(社会学部1回生・内海僚介さん)。「密室でつくられているのかと思っていたけど、意外とオープンな環境で、酒蔵の中も明るくて驚きました」(歴史学部2回生・杉保毅留さん)。「でも、酒蔵に入る前は手足を消毒したり、最後に掃除を手伝わせてもらった時には細かい所まで徹底していたり、とてもクリーンな環境が保たれていると感じました。安心安全の大切さを実感しました」(歴史学部2回生・高橋正也さん)など、思い思いの感想を口にしていた。
そんな学生たちを前に、招徳酒造の木村紫晃社長は、「こうして実際に製造現場を見ることで、日本酒を身近に感じてもらえたら嬉しいですね」と語る。本プロジェクトに参加したのも、日本酒離れが進む若者に、もっと日本酒に親しんでほしい、美味しいものだと分かってほしいという思いからなのだ。
こうした社長の思いもしっかりと受けとり、学生たちからは、「日本酒は苦手だけど興味はあるという人たちに、もっと飲んでもらえるように働きかけたい」(社会学部6回生・戸田浩一さん)、「若い人や女性が抱いているような、古臭いとかアルコールがキツイとかいう日本酒のイメージを変えて、年代も性別も問わずもっと広めていきたい」(社会学部1回生・濱中千紘さん)といった頼もしい声が聞かれた。
今回の醸造体験は、この翌日、翌々日と3日間にわたり、計8名の学生が参加して行われた。今後、学生たちは、ラベルデザインを完成させ、宣伝に使うパンフレットをつくり、最終的には店頭販売の体験まで行う予定だ。いったい今年はどのような日本酒ができあがるのだろうか。その様子をさらに追跡取材していくので、乞うご期待!
普段の大学生活ではまず体験できない「酒づくり」の現場に触れた学生たち