2019年4月、小田急線の一部駅間の鉄道地下化による鉄道跡地の有効活用の一環で、「世田谷代田駅」の跡地に複合施設「世田谷代田キャンパス」がオープンしました。
ここには、小田急電鉄の駅前再開発により、東京農業大学の「農大ショップ『農』の蔵」と同大学のオープンカレッジが新設されました。1階のショップでは、同大学のオリジナルグッズや卒業生たちの就職先などで製造されている食品などを販売しています。2階のオープンカレッジでは、定期的に食と農に関する多彩な講座が開講されています。
6月22日(土)に開催されたのは「和食を支える本みりん」講座です。みりんといえば、日本の伝統的な調味料のひとつですが、どんな風に作られ、どんな役割を持っているのかなどは、あまり知られていません。そんなみりんのことを、よりたくさんの人に知ってもらうために開催されました。
東京農業大学の名誉教授である舘博教授
講師を務められたのは、同大学の名誉教授で「みりん研究会」の副代表幹事を務める舘博教授です。「みりんは、ユネスコ無形文化遺産に登録された『和食』を支えるひとつで、伝統的な発酵食品である」という話題から始まり、みりんの定義や歴史、製造方法などを解説されました。
みりんの起源は諸説あるものの、戦国時代に中国から伝わったという説が有力とされています。元々は「女性でも飲みやすい甘いお酒」として人々に愛されていましたが、江戸時代に入ると、ウナギのたれやそばつゆなどに調味料として使われるようになりました。そして、戦前までは贅沢品であり、日本料理店などでしか使われていませんでしたが、高度経済成長期に一般家庭にも広く普及するようになりました。
次々に出てくるみりんの知らない話
かつてはお酒として飲まれ、現在は調味料として使われているという、少し変わった経歴を持つみりん。なんとアルコール度数は、14%前後もあるそうです。
アルコール度数だけを見ると、完璧にお酒です。「今度、お酒がなくなったとき、代わりにみりんを飲もうかな?」と思った方もいるかもしれませんね。しかし、本みりんは「酒類調味料」なので、酒税が安く抑えられています。「“お酒”として飲むようになると酒税が高くなってしまうので、絶対に飲まないでくださいね」と舘先生のジョークも飛び、講義は穏やかに進んでいきました。
歴史の次は、製造工程の話です。実は、製造工程だけを見ると、みりんは甘酒と親戚関係といってもいい位なのだそう。また、みりんを圧搾したときに出るカスは「こぼれ梅」と呼ばれ、その昔、関西方面では子供のおやつとして親しまれ、舘先生も子供の頃によく食べていたそうです。
現在、販売されているみりんは、「本みりん」「みりん風調味料」「発酵調味料(料理酒など)」の3種類に分かれています。「本みりん」は、かつてお酒だった流れを汲み、アルコール度数が高いのが特徴です。「みりん風調味料」はアルコール度数が1%以下で甘め、「発酵調味料(料理酒など)」はアルコール度数が10%前後で塩分濃度が1.5%以上と塩辛いという特徴があります。
舘先生の説明が終わると、これらを踏まえて試食・テイスティングに移りました。まずは、みりんの親戚ともいえる甘酒と圧搾したときにできるこぼれ梅の試食です。
こぼれ梅と甘酒の試食
アルコールが効いているこぼれ梅は、チョコレートで作るトリュフに入れたら、ウイスキーボンボンのような、アルコールの効いた大人なスイーツになるのではないかと思いました。
続いては、「本みりん」「みりん風調味料」「発酵調味料(料理酒など)」のテイスティングです。
みりんの種類を当てるテイスティング
参加者のみなさんは、説明の中で出てきた特徴を頼りに、みりんの種類を考えていました。
最後は、みりんの6つの調理効果が紹介されました。
1. 上品な甘みを引き出す
2. 食材の表面にテリやツヤを与える
3. 食材の煮崩れを防止する
4. 深いコクや旨味を引き出す
5. 食材に味がしみこみやすくなる
6. 魚などの臭みをとる消臭効果がある
みりんが持つ6つの効果の実証実験VTRを見た後は、キッコーマン国際食文化研究センター学芸員の川根正教氏、流山キッコーマン株式会社の遠藤善彦氏による講義が続きました。より詳細なみりんの歴史、本みりんのパートナーのしょうゆとの関わりについて学んだ後、受講者の人たちは、満足した様子でした。
1階の「農大ショップ『農』の蔵」って何を売ってるの?
「世田谷代田キャンパス」の1階に入っている「農大ショップ『農』の蔵」では、東京農業大学卒業生たちが手掛ける蔵元や就職先で製造・販売している商品を中心に、同大学のオホーツクキャンパスや富士農場で作られた食品が購入できます。店頭に並ぶのは季節によって多少異なりますが、約200種類にものぼるそう!
ショップの1番人気は「生どら焼き」(1個324円・税込)です。オホーツクキャンパスで飼育されているエミューの卵を生地に使ったもので、以前、有名百貨店で行われた「大学は美味しいフェア」で、約1万個を売り上げ1位に輝いたこともあります。
栄養価の高いエミューの卵を使用
次に人気なのが、「めしの友」です。普通の味噌とは違った天然仕込み味噌が、白いご飯とよく合うそう。1個300円(税込)という手ごろな値段も人気の秘密です。
お手頃価格の「めしの友」
ショップ内で多く並んでいるのが酒類です。よく手に取られるのは、ちょっと贅沢なクラフトビール。農大ショップでは、都内ではなかなか購入できない網走ビールや八ヶ岳ブルワリーのものを揃えています。
ついつい目が行ってしまうクラフトビール
最後は、ここでしか買えない日本酒です。これらは、バラの中でも貴重な品種の「プリンセスミチコ」の酵母を使ったものです。農大の教授がプリンセスミチコから酵母エキスの抽出に成功したため、卒業生が経営する7つの蔵元に配り、作られました。ひとつひとつが異なる味・風味・のど越し・余韻が楽しめます。
農大ショップでしか購入できない「プリンセスミチコ」の日本酒
また、農大ショップでは、地元の人々の声から、農大キャンパスや農場でとれた野菜を中心にした朝市を月に2回開催することになりました。農大卒業生が作る食品や農大が作る野菜が気になる人は、ぜひ、一度足を運んでみてくださいね。