中国の大学と日本の大学
名前の通り世界の大学の様子を紹介する「世界の大学!」、第3回目は中国の大学をテーマにした。
中国の大学の授業はどんなスタイルなのか?学食はどんな仕組みなのか?やはりスマホ決済は大学内でも用いられるのか?等々。日本の大学でよくある光景とも照らし合わせながら見てみたい。
今回、中国は江南大学の田村恭平先生(日本語教育)にメールでインタビューを敢行した。田村先生は日本での学部時代に南京大学へ留学。教員としては、淮海工学院(現・江蘇海洋大学)を経て、江南大学外国語学院(学部)日本語科へ。留学時代も含めれば10年以上中国の大学に在籍している。そんな田村先生に、江南大学、そして中国の大学について教えていただいた。
太湖のほとりの大きなキャンパス(ディズニーランド4つ分)
大きな図書館がそびえる江南大学
江蘇省無錫(むしゃく)市。ある世代にとって「無錫」といえば、THE MATATABIこと尾形大作が歌うメガヒットご当地ソング〈無錫旅情〉(1986年)である。130万枚を売り上げ、カラオケでも大人気の曲になった。
その歌詞にも出てくる「太湖」という、琵琶湖の3倍くらいある湖の北岸付近にキャンパスを構えるのが江南大学だ。中国政府の教育部が指定した重点大学「211工程(Project 211)」にも選ばれた、国立の総合大学である。
キャンパスは広く、「北門から南門まで歩いて30分くらいかかる」という。面積208ヘクタール。東京ディズニーランド4つ分くらいと考えると相当大きい(TDLは51ha)。移動が大変なので、校内をバスが走行している。
キャンパス内にはコンビニやスーパーマーケット(超市)もある
18の学院(部)があり、学生数は3万人以上(学部生約2万人、大学院生約9千人、留学生約1千200人)。ほとんどの学生は4人部屋の寮に住んでいるそうだ。
江南大学公式ウェブサイト https://www.jiangnan.edu.cn/
熱心に勉強する学生たち
さて、田村先生にはまず授業のスタイルについて伺った。日本なら講義かゼミが一般的だが、似たような形式なのだろうか?
「講義形式が中心です。いわゆるゼミは無く、先輩後輩が一緒に同じ教員の授業に参加する機会はありません」。その意味で「高校の延長線上にあると言えるかもしれない」そうだ(自然科学系なら実験や実習があるとのこと)。
ただし江南大学外国語学院では今年度から、教員・2年・1年が講義外の時間に集まる機会が新たに設けられるようになった。大学としては今後ゼミのような場に近づけたいと考えているとのことである。
講義を受ける学生たち。 日本の大学でもよく見かける造りの教室
授業の数、勉強時間のことも伺った。
「授業数は学年によっても違いますが、週13コマほど」(前半45分+休憩+後半45分が1コマ)。日本と比べて特別多いわけでは無いが、授業時間外の勉強が結構多い。「課題やテストがたくさんあるので復習に忙しいんですね」。
さらに、「江南大学の場合、1年生の時は『晩自習』制度があります。日曜から木曜の週5日間は、毎晩18:30から21:00まで教室に残り、必ず自習をすることになっています」。日本以上に学歴社会だという中国では、大学院に進み、より給料の良い仕事に就きたいと考え、勉強をがんばる人が多いそうだ。
サークル、バイト、「軍訓」
勤勉な学生たちが多いことが窺えるが、日本の大学ではおなじみのサークル活動やバイトは行うものなのだろうか?
「サークルは盛んです。ただ、多くのサークルにおいて日本と違うのは、1年生が主な構成メンバーだということです。2年生になると、部長・副部長といった役割を担当する人以外は、ほぼ参加しません」。つまり、サークルで先輩後輩が交流する機会はあまり無い。日本のサークルは3、4年でも参加している場合が多々あり、先輩と後輩が交流する場にもなっているだろうから、サークルの担う機能に異なる部分があると言えそうだ。
また、バイトはそんなに盛んではない。「給料が安いし、勉強も大変だからでしょう。やるとしたら家庭教師が目立ちますね」。
ちなみに短期的なものだが、中国の学生は皆、日本には無い行事に参加する。「1年生のときに軍事訓練があります。学内で3週間ほど行います」。これは「軍訓」と呼ばれ、どの大学でも行われている。
刀を持っている学生もいるが、これは軍訓ではない。日本語専攻の演劇大会
学食は安いが学生カードが必須。出前も人気
江南大学第1食堂
学食の仕組みについても尋ねた。
「江南大学には4つの食堂があり、すべて2フロアにわかれています。1階では肉まん、ラーメン、ハンバーガーなどを売っています。2階は、一枚の大きなお皿に、自分が好きな料理を選んで入れてもらうスタイルです」。
江南大学食堂2階では自分でご飯とおかずを選ぶ。これで約10元(日本円で160円くらい)というからだいぶお得感がある
値段は安い。一食あたり10~15元(200円前後)程度だという。ただ、食事代の支払いはチャージ機能付きの学生カードを使うそうなので、学外の人は誰かにカードを借りるのでもないと購入できない。
食堂1階の人気料理「麻辣香锅(マーラーシャングオ)」(二人前で約30元)。汁なし火鍋という感じか
また、「中国は食事のデリバリー"外売(ワイマイ)"が発達しています。安くて速い。もっぱら外売という学生もけっこういます」。学生が大学に外売(出前)を呼ぶというのは、日本だとあまり無いように思う。寮生活が中心の中国では、大学=居住空間という感覚もあるのかもしれない。
独自のネット生態系と、スマホ決済のシェア自転車
中国と日本で異なるといえばネット・サービスの生態系だろう。中国ではグレート・ファイアウォールと呼ばれる情報管理システムが作動していて、特定のサイトにはアクセスできないことになっているからだ。
学生たちも「検索エンジンは『百度』、SNSはLINEに似た『微信』やTwitterに似た『新浪微博』などを使っている」そうだ。動画は「优酷」「bilibili」(それぞれYouTube、ニコニコ動画に近い)で視聴する学生が多いという。
筆者もbilibiliや微信(の海外版WeChat)のユーザーだが、役割はニコニコ動画やLINEに近い一方、例えば微信には既読機能が無いなど、設計思想が少し異なっている。学生たちの使い方を細かく観察すれば日本と中国で何か違いが見えてくるのかもしれない。
また学内には、スマホ決済が進んでいる中国らしいサービスもある。「学内の移動には、自分の寮の近くにあるシェア自転車を使う学生も多いです。自転車のバーコードをスマホでスキャンして支払う仕組みで、日本の従来の『レンタル自転車』とはちょっとイメージが違いますね」。
キャンパス内のシェア自転車。日本の大学では見かけない光景
ということで今回は、中国の大学の細かな日常についても、貴重なお話を聞くことができた。早まった一般化はできないが、中国の大学と日本の大学の似たところ、違うところ、色々と発見できた。今回書けなかった話もあるので、またの機会があれば紹介したい。
食堂の購買部。日本とも近い雰囲気