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子育ては未来への投資。佛教大学が提起する「これからの幼児教育」の重要性

2023年4月4日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

昨今、少子化や核家族化、人間関係の希薄化、さらにコロナ禍と環境は激変し、この先も予測不能です。混沌とした時代の中で、未来を担う子どもたちが心豊かに成長するために、私たち大人はどうすればいいのか。この疑問に応え、今後の幼児教育、家庭教育、地域社会の在り方を説く佛教大学通信教育課程講演会「—これからの幼児教育とは—」が2023年3月5日に開催されました。

 

今回は、佛教大学通信教育課程70周年記念講演会として、佛教大学副学長・教育学部教授の原清治先生、同大学教育学部幼児教育学科教授・佛教大学附属幼稚園園長の佐藤和順先生が登壇し、講演のほか、対談が行われました。


「孤育て」というお母さんのワンオペが子育ての最大の課題

最初に登壇されたのは佐藤和順先生。テーマは「—これからの幼児教育とは— 今どきの子ども・子育てから考える」です。

教育学、子ども学、保育学、学校臨床教育学、教員養成が専門の佐藤先生

教育学、子ども学、保育学、学校臨床教育学、教員養成が専門の佐藤先生


まず、佐藤先生は「今の家庭は子どもの人数をはじめ、家族構成の単位が小さくなっていますよね。さらに、働くお母さんが増加し、例えば、洗濯物はクリーニング、食事は外食と、家事を外部サービスに任せるニーズが高まっています。それに伴い、保護者の保育ニーズも変化。お箸の持ち方やトイレトレーニングなど、家庭で行っていたしつけを園に任せる方も少なくありません」と、子どもを取り巻く現状を説明。その中で、最大の課題になっているのが、お母さんの「孤(こ)育て」、昨今よくいわれるワンオペ育児だと、佐藤先生は警鐘を鳴らします。

 

「昔は、3世代同居が多く、親戚が近くにいたり、近隣の人が子どもと接したり、『血縁・地縁』のみんなで子育てを行っていました。私も子どもの頃、近所のおじさん、おばさんに叱られたりしました。今は、よそのお子さんを叱ったりしたら大変なことになりますよね。核家族化に加え、お父さんも忙しく、お母さんは孤軍奮闘せざるを得ない。この孤育てが児童虐待や少子化といった問題にも影響を及ぼしています」

 

孤育ての解決には、父親・祖父母といった家族の育児参画、保護者・子どもと地域をつなぐ目的縁という新しいネットワークの構築、子育ての社会化が重要と佐藤先生は提言します。この子育ての社会化について、子どもの声がうるさいといったクレームを受ける園も少なくないと厳しい実情も口にする佐藤先生。しかし、子どもは社会の一員であり、大人の未来を担ってくれる存在。これからは私たちも地域ネットワークの一員として、何らかの形で子育てに関わっていくことが必要と思いました。

育児や少子化の解決につながる夫婦関係の満足度アップ

育児の社会環境の整備に加えて、佐藤先生は、子育てには良好な夫婦関係も重要といい、いくつかのデータを示されました。

 

まず、円満な夫婦のもとで育った子どもは学力が高いのだそう。また、第二子出産は夫(父親)の育児参加によって決めるという妻(母親)が多い傾向があるとも言います。「円満な夫婦関係を構築するには、お互いの満足度を高めることが必要です。そのための要素として月収を10万円位アップさせることが挙げられるのですが、現実的には難しいですよね。しかし、月収アップと同じくらい効果的なのが、夫婦の会話を今より17分間増やすことというデータがあります。これならすぐにできるのではないですか?」と佐藤先生。確かに夫婦の会話を意識して増やすなら今日からでもできますよね。

 

「幼児教育は子どもの人格形成の基礎を築くうえで大変重要です。しかも幼少期に身につけた資質能力はその後の成長、大人になってからの幸せ、経済的安定につながることから、国も未来への投資として、予算をかけています。そのひとつが2019年10月からの幼稚園・保育所の無償化です。幼稚園・保育所は、集団生活でのコミュニケーションをはじめ、家庭では体験できない教育などを通じて、これからの子どもの健全な育ちを援助することが役割。そして、幼児教育で何より重要な役割は、これからも家庭教育にあります」と、佐藤先生は講演を締めくくりました。

学力にプラスして大切な子どもの「生きる力」

佐藤先生に続いて、原先生が登壇されました。聴講者の中には毎年出席している方も。「私のおっかけなんですよ(笑)」と、会場の笑いをとりながら、講演が始まりました。テーマは「—これからの幼児教育とは— 『学力』を育てる非認知的能力」です。

教育社会学、学校臨床教育学、教員養成を中心に、ネットいじめを含むいじめ、不登校、学力低下、若年就労問題など、幅広く研究を行なう原先生

教育社会学、学校臨床教育学、教員養成を中心に、ネットいじめを含むいじめ、不登校、学力低下、若年就労問題など、幅広く研究を行なう原先生


講演テーマにある「学力」と「非認知的能力」は、子どもに求められ、教育での習得をめざす能力のこと。学力は「基礎的・基本的な知識・技能」、非認知的能力は「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」と、文部科学省が定義しています。

 

「学力とは、勉強やテストで正解するといった成績につながる力です。非認知的能力とは、何か問題が発生した時に、どうしようかと考えたり、どうすると問われたときに考えを示したり、また、自主的に行動したり、仲間と力を合わせて協働したり、子どもが生きていくための力のこと。よく耳にする課題解決能力やコミュニケーション能力も非認知的能力ですね。学力はもちろん大切ですが、予測不能な時代、これからの子どもたちには非認知的能力がとても重要です」と、原先生は説明します。

 

こうした力を養うためには、学校の勉強だけでなく、運動会や文化祭、修学旅行、部活といった課外活動での「体験」が不可欠だと原先生は言います。確かに、部活で目標に向かって団結したり、クラスメイトと揉めながらも文化祭の出し物をやり遂げたりした際に得たことは、大人になった今に活かされていると感じます。

 

「しかし、コロナ禍の影響で学校行事が軒並み中止となり、子どもたちは体験の機会を失ってしまいました。今後、教育の現場では体験の場を再び創出し、非認知的能力を伸ばすことがいっそう求められます」と原先生は提言します。

大人になってからでは遅い。幼児期から非認知的能力を伸ばす

非認知的能力は、学校に入学してから身につけていくものではありません。「非認知的能力は小さい頃からでも鍛え、獲得させることができます。そのため、幼児教育においても力が注がれています」と原先生。

 

幼児教育で獲得をめざす非認知的能力は、意欲・忍耐力・自制心・想像力・回復力と対処能力です。では、こうした力を小さな子どもにどう教え、育むのか。幼稚園や保育所はもちろん、「家庭での教育も大切です」と原先生。その効果をある学説から説明されました。

 

「家族みんなで美術館を訪れて美術鑑賞をしたり、クラシック音楽を聴きながら育った子どもは非認知的能力も学力バランスも良く育つと言われます」

 

家族での外出は子どもにとって楽しいばかりではなく、学校の行事などと同じように非認知的能力獲得につながる体験の機会。体験を通じて、親子で会話をしたり、ふれあったりすることも非認知能力の向上に効果的だと原先生は言います。

 

「また、非認知的能力の伸びは高校2年生ごろの年齢で止まると言われています。子どもの成長過程においては、早い段階から良好な生活・教育環境をつくり上げることが保護者と教育者の使命です」と、原先生は聴講者にメッセージを送りました

子育ては保護者の責任。そのうえで社会が積極的な協力を

佐藤先生、原先生の講演に続いて、お二人の対談がスタート。3つのポイントを挙げて対談が進みました。

 

1つ目は子どもの育て方についてです。「子育てでは褒めることが大切。子どもの自尊心を高めることは、成長に不可欠ですが、日本の子どもの自尊心は世界の子どもと比較すると、とても低いんですよね」という原先生の言葉を受けて、「確かにそうです。保護者や教員はつい結果だけを褒めがちですが、子どもが努力したプロセスを褒めることが自尊心の向上につながると思います」と、佐藤先生は聴講者に褒め方をアドバイスされました。結果が伴わなくても、頑張ったのであれば評価することが子どもの自信となり、次へのステップになるんですね。

当日はグランフロント大阪会場で約50名、YouTubeライブ配信では約300名が聴講しました

当日はグランフロント大阪会場で約50名、YouTubeライブ配信では約300名が聴講しました


2つ目は幼児教育における主体性について。佐藤先生はご自身が園長を務める佛教大学附属幼稚園を例にお話しされました。「佛教大学附属幼稚園では子どもの主体性を大切にしています。例えば、登園後にみんなで朝の歌を歌ったりするのではなく、まずやりたい活動をする。そのうえで、先生は一人ひとりの様子を把握し、接していきます。園の先生たちは非認知的能力を伸ばすことに長けており、伸び伸びと主体性を身につけていく子どもたちは私の誇りです」。佛教大学附属幼稚園のように、子どもの主体性を尊重し、自由度の高い環境づくりを重視する保育法を自由保育というそう。原先生は「『自由保育』を導入する園の子どもは学力、非認知的能力ともに高いんです」とデータを紹介。「失敗しても子ども自身が考える、やってみることが重要。それが『生きる力』になります。私は50の言葉を教えるよりも100の『なんだろう?』を育むことをモットーにしています」と、佐藤先生は答えました。

 

最後の3つ目は、お二人の講演のポイントでもあった子どもの家庭教育についてです。原先生は先日、月曜日から金曜日まで5日間の保育料と、月曜日から土曜日まで6日間の保育料が同額であれば、“6日間預けないと損”という保護者が多い話を聞き、驚いたと言います。「その理由が『私たちが休日の土曜日も子どもを預けないと損』だというのです。子どもと一緒に過ごせる貴重で大切な休日です。体験や文化資本の重要性を講演で話しましたが、子どもの成長のキャスティングボードを握っているのはお父さん、お母さんなんですよ」と原先生。これを受けて、「そうですよね。『しつけは園でお願いします』では駄目です。何よりも家庭、そのうえで園、社会が協働して子どもを育てていかなければ。子どもと子育ての責任は保護者にあるのです」と、佐藤先生もやや強めの口調で訴えました。

 

これからの幼児教育では、幼稚園や保育所、地域とのさらなる協働が欠かせません、しかし、いつの時代も子育ての責任は保護者にある。お二人の言葉を聴講者の多くが改めて胸に刻み、大きな拍手の中、講演会は終了しました。

大学アプリレビューvol.24 撮影するだけ!いつでもどこでもくずし字を認識してくれるAIアプリ「みを(miwo)」

2023年3月14日 / コラム, 大学アプリレビュー

古典文学や古文書などの学習・研究で壁になるのが「くずし字」。研究者や専門家でも解読には時間を要し、そういった文献になじみがない場合、何が書いてあるのかわからないですよね。くずし字をきちんと読める日本人は数千人程度(人口の0.01%程度)といわれているそう。しかし、貴重な歴史的資料を後世に継承していくためには、くずし字を解読し、理解できることが必要です。昨今はくずし字の認識や学習にAI(人工知能)の活用が進められ、アプリも登場。今回は話題の「くずし字認識アプリ」を使ってみました。

古典文学や古文書の原文、読めますか?

AIを活用したくずし字アプリは、これまでにもいくつかあり、この大学アプリレビューでもご紹介しました。

大学アプリレビューvol.8 古い仮名を読もう!「変体仮名あぷり」

大学アプリレビューvol.10クイズでくずし字学習ができる  大阪大学「くずし字学習支援アプリ KuLA」

 

今回注目したのは、人文学オープンデータ共同利用センター(情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 )が発表したアプリです。同センターでは、人文学に関する膨大な資料をデジタルアーカイブ化。国立情報学研究所と統計数理研究所が組織の枠を超えて情報学・統計学など最新のデータサイエンス技術を活用し、「人文学ビッグデータ」として、広く公開しています。

 

そんな文理の知見を結集させて、2021 年 8 月に公開されたのがAI くずし字認識アプリ「みを(miwo)」。約 100 万文字もの「くずし字」を学習した最新のAI くずし字認識技術を用いた性能に加えて、UI・UX(※)の素晴らしさから2022 年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞。アプリのダウンロード数は約 10 万回、AI が認識した画像数は 100 万件に迫る勢いで「バズっている」のです。

※UI:ユーザーインターフェイス。利用者の使い勝手のこと/UX:ユーザーエクスペリエンス。商品やサービスの品質やそれによって得られる体験のこと

 

そこで、学生時代に専攻していた国文学の授業で、くずし字の解読にとても苦労した筆者が「みを」を使ってみることにしました。

 

まず、「くずし字」について、おさらいを。文字=漢字は中国から伝わり、奈良時代までは、「あ=安」のように、漢字の字音や字訓で日本語を表す万葉仮名が使われてきました。

 

平安時代に入り、平仮名・片仮名が誕生。「安」の形状から、ひらがなの「あ」という形が生まれました。ただ、この時代は「あ」として読んだり、書いたりする漢字は「あ」のもとになった「安」だけでなく、「阿」「愛」など複数存在。しかも使い方にルールはなく、同じ「あ」でも、平仮名の「あ」が使われていることもあれば、「安」「阿」「愛」といった漢字が使われていることもあり、混在した内容を読むのは現代人にとって至難の業です。こういった平仮名の音、読みを当てはめた漢字を「変体仮名」といいます。

 

そして「変体仮名」は速く書くためにくずして書かれるので、さらに解読するのは難解に。どの漢字をくずしているのか知らないと解読は難しいのです。このくずし字の原型の漢字のことを「字母」といいます。なお、平仮名が今のように1種類になったのは1900年のこと。「小学校令施行規則」により統一されました。

 

カメラで撮影してボタンを押せば瞬く間に認識完了!

少し前置きが長くなりましたが、難解なくずし字、使い方にルールがなく混在する変体仮名を素早く解読できるようにと開発された「みを」。アプリの案内によると、その最大の特長は使いやすさなのだそう。カメラでくずし字資料を撮影してボタンを押せば、AI がわずか数秒でくずし字を現代日本語の文字に変換(翻刻)してくれるのです。

 

では、「みを」をレビューしていきましょう。くずし字認識に使う資料は、大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館のホームページで公開されている古典書籍を活用させていただきました。まず選んだのは古典文学の代表的存在である『源氏物語』の「第一帖 桐壺」です。

大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館 Webサイト

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左の写本は国文学研究資料館所蔵

 

「みを」を開いてカメラボタンをタップし、デジタル化されている古典書籍をパソコンの画面越しにパシャリ(▲写真左)。緑色の認識ボタンをタップすると、わずか数秒で認識結果が撮影した資料画像に重ねて表示されました(▲写真右)。すごい速さと正確さ! 学生時代、拡大鏡を片手にくずし字を見て、「くずし字辞典」を調べてと、悪戦苦闘していたのは何だったのでしょうか。あのとき、「みを」があったらよかったのに、と思ってしまいます。

 

国文学研究資料館所蔵

国文学研究資料館所蔵

 

さらに画面下部のスライドバーを左右に動かすと、元の資料画像と認識結果を見比べることができます。これはなかなか面白い! どんな文字が書かれているのかが、よくわかります。

 

また、「第一帖 桐壺」の冒頭、元の資料画像では「いつ連乃」と変体仮名混じりで書かれていますが、認識結果では「いつれの」と現代の平仮名に直して表記されているので、読みやすく、「連」が「つ」、「乃」が「の」の変体仮名であることがよくわかります。

6源氏テキスト

認識結果は画面下部のテキストを押すと、現代の楷書で横書き表示されます。古文が横書きというのは斬新。この横書きのテキストはコピーも可能です。

 

ここで試した『源氏物語』のデータは、室町時代に書き写されたもの。実は紫式部自筆の原本や平安時代の写本は現存しておらず、鎌倉時代に『小倉百人一首』の撰者として知られる藤原定家が書き写したものが最古です。

 

国文学研究資料館にはさまざまな時代に書き写されたり、木版で印刷されたりした『源氏物語』が所蔵・公開されています。時代によって、『源氏物語』の写本はどう変わっているのでしょうか。そこで、「第一帖 桐壺」について、公開されている江戸時代の版本と室町時代の写本を見比べてみました。

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室町時代に書き写された『源氏物語』の写本(左)、江戸時代に木版された『源氏物語』の版本(右)。いずれも国文学研究資料館所蔵

 

同じくずし字でも江戸時代の版本は現在の平仮名に近いものが多く、時代とともにくずし字も変化していることが見て取れます。さらに江戸時代の『源氏物語』を「みを」で認識したところ、現代に近い平仮名に加えて、漢字のくずし具合がやや緩やかになっていることもあって、文字も内容もよりわかりやすくなりました。

 

読めない、わからない字は簡単に検索できて便利

さて「みを」は、一文字ごとのくずし字、変体仮名の検索機能も充実しています。

8源氏あハイライト

読めない文字や調べたい文字について、元の資料画像の筆文字か認識結果の楷書文字のいずれかを長押しすると赤くハイライト表示されます(写真上)。さらに画面(文章)内で使われている同じ文字もハイライト表示されます。

 

ハイライト表示された文字をタップすると……。

ハイライト表示した「あ」をタップするとポップアップでその他の変体仮名と字母を表示(左)、ハイライト表示した「給」という漢字をタップするとポップアップで「字母」を表示(右)

ハイライト表示した「あ」をタップするとポップアップでその他の変体仮名と字母を表示(左)、ハイライト表示した「給」という漢字をタップするとポップアップで「字母」を表示(右)

 

ハイライト表示された文字をタップすると、辞書のように、平仮名の場合は複数ある変体仮名と字母がポップアップで表示されます。漢字の場合はどの漢字をくずしているのかを表示。そもそもこれは何の漢字なのか、判別すら難しいくずし字の解読にも役立ちます。

 

さらに検索ボタンを押すと、この「みを」アプリを公開した人文学オープンデータ共同利用センターのデータベース「日本古典籍くずし字データセット」にアクセスして、各文字についてより詳しく調べることができます。この「日本古典籍くずし字データセット」は、国文学研究資料館と関係機関が所蔵する「日本古典籍」のデータセットをもとに、100万文字以上の変体仮名やくずし字をデータベース化したもの。つまり「みを」は最新かつ日本最大規模の「くずし字辞典」を携帯し、簡単に検索できるという役割も果たしてくれるのです。

 

7源氏文字囲み

元の資料画像、認識結果ともに、上の写真にあるように画面上部の□(四角)のアイコンをタップすると、一文字一文字が囲われて表示されます。平仮名の場合、さらさらと続けて書かれていることが多いので、区切りがわかりやすくなります。

 

グッドデザイン賞の受賞理由にもなっているように、アイコンによって直感的かつ簡単に使えたのはうれしいポイント。難しいくずし字がカラフルに囲われたり、スライドして楷書と見比べることで理解がしやすくなることも、「みを」の魅力のひとつではないでしょうか。

 

日本人として解読を。頼れる古典の水先案内アプリ

この「みを」、開発者はなんとタイ出身の方! 『源氏物語』をはじめとする古典文学に魅了され、日本の大学院に進学。『源氏物語』の研究と並行して、AIによるくずし字認識に取り組んだそうです。大半の日本人が読めない、今の暮らしに関係ないと敬遠している古典文学について、その魅力を何とか伝えようと、外国の方が挑まれたとは。日本人として恥ずかしい気持ちがして、久しぶりに学生時代に使っていた古典の文献を開いた次第です。

 

「みを」公式HPによると、アプリ名の「みを」は『源氏物語』の「第14帖 みをつくし」から命名。「みをつくし」とは、川などを往来する舟の目印のために打たれた杭のこと。このアプリがくずし字資料の海を旅する水先案内となるように。そんな思いを込められたそうです。

 

実は『平家物語』も試してみたのですが、「きおん志やう志やのか年乃こ惠」のくずし字は「みを」によって「きおんしやしやのかねのこゑ」と認識され、「祇園精舎の鐘の声」のくずし字であることがイメージできました。

 

こんなふうに、学生時代に勉強した古典文学をくずし字で見ると改めて歴史を感じることができ、これは現代語でどう言うのかな、どんな意味かなと興味がわいてきます。国文学研究資料館のホームページには江戸時代の料理の本や算数の本なども公開されているので、それらを「みを」で読み解くのも楽しいのではないでしょうか。また、周りをよく見ると、老舗の看板や掛け軸、書道に心得がある人が書いた草書体の手紙など、現代社会の中でもくずし字や変体仮名が使われていることが多々あります。どこかでくずし字や変体仮名をみつけたら「みを」でチェック。読めて理解できると誰かに自慢したくなるはずです。

いつものコーヒーを変えれば世界が変わる! 立命館大学の食セミナー視聴レポート

2022年12月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

立命館大学では “世界をおいしく、おもしろく、複雑に”をコンセプトに、食で社会をよくしていくことをめざすプロジェクト「立命館ポンテ・ガストロノミコ」に取り組んでいます。

その一貫として、立命館大学の教授陣や食のスペシャリストを招いての公開講座を定期的に開催しています。今回のテーマは「コーヒー」。起き抜けに、仕事の合間にと、コーヒーを飲む機会が多い筆者としては興味津々。前回の「海藻」に続き、オンラインで聴講しました。

▼過去の「立命館ポンテ・ガストロノミコ」記事
海藻は食の未来を担う救世主! 立命館大学の食セミナー聴講リポート


コーヒーの苦味はカフェインにあらず

セミナーは二部構成で開催され、第一部は3人のコーヒーのスペシャリストが登壇。それぞれがコーヒーの知識、魅力を紹介されました。

最初に登壇されたのは、滋賀医科大学准教授の旦部幸博先生です。旦部先生の専門は微生物学、腫瘍学。その研究と大学での教育の傍ら趣味であるコーヒーについて研究されています。今回のテーマは「コーヒーのおいしさはどこから生まれるのか?」です。

旦部先生はコーヒーのおいしさの秘密を細胞レベルから解説。※冒頭のあいさつで一礼されたほかはマスクを着用して講演

旦部先生はコーヒーのおいしさの秘密を細胞レベルから解説。※冒頭のあいさつで一礼されたほかはマスクを着用して講演

 

まず、旦部先生は、コーヒーがコーヒーノキというアカネ科の植物の種子を原材料に作られる農作物の一種であることを紹介。そして、私たちがコーヒーとして味わうまでの工程の中で、おいしさを引き出すために最も大切な工程が「焙煎」だといいます。焙煎前の生豆は、緑がかった色で味も香りも青臭く、とても飲めるものではないのですが、「焙煎の温度や時間によって、色は褐色から黒褐色に、香りも味もおいしく変化していくのです」と旦部先生。

 

コーヒー豆の焙煎度合いといえば「浅煎り→中煎り→深煎り」で、浅煎りは酸味、深煎りは苦味が立つといわれていますよね。筆者はコーヒーの豆や粉を購入する際は深煎りをセレクト。理由はカフェインたっぷりの苦い味が好きで、眠気覚ましにももってこいだからです。ところが「コーヒーの主成分はカフェインではなく、苦味はカフェイン量で決まるわけではありません」との旦部先生の説明にびっくり。

 

実は、生豆に含まれるカフェインは1割から3割程度。焙煎が深くなるにつれ苦味が強くなりますが、カフェインの量は変化しないというのです。「コーヒーの苦味の正体は、クロロゲン酸という成分の加熱物です」と旦部先生。一方、コーヒーの酸味はというと、焙煎によって酸っぱく変化した生豆の有機酸だそうです。コーヒーはもちろん、普段口にする食べ物の味やおいしさに科学が関連しているんだなと改めて感じるところですが、「コーヒー豆の変化や味、香りなどによる効果は、科学的に解明されていないことがまだまだ多いんですよ」と旦部先生。未解明だからこそ、旦部先生をはじめとする多くの研究者が追究し、劇的な変化によるおいしさで人びとを惹きつける「嗜好品」になるのかもしれませんね。


コーヒーがSDGsの目標達成に貢献

次に登壇されたのは、株式会社ミカフェート 代表取締役社長、日本サステイナブルコーヒー協会 理事長、José.川島良彰氏です。

コーヒーの魅力を伝え、生産地が自立できる活動に携わる川島氏

コーヒーの魅力を伝え、生産地が自立できる活動に携わる川島氏


川島氏は1975年に中南米のエルサルバドルへのコーヒー留学後、希少なコーヒー豆の探索と、普及に務めるコーヒーハンターとして活躍。世界のコーヒー生産国での農園開発や栽培指導、さらに昨今は、コーヒーによる持続可能な社会づくりにも尽力されています。セミナーのテーマは「コーヒーで世界を変える」。いつも何気なく飲んでいるコーヒーで世界が変わるのかなと思いつつ、お話を聞きました。

 

世界のコーヒーのほとんどは、「コーヒーベルト」と呼ばれる、赤道を挟んで北緯25度から南緯25度までの中南米やアジア、アフリカの一帯で生産されているそうです。川島氏の説明で筆者が初めて知ったのは、コーヒーは石油に次ぐ世界の一大産業ということ。こう聞くと、生産国は潤っているのではと思うのですが、現実は違って、コーヒーベルトの大半の国が貧困をはじめとする問題を抱えているといいます。それらを現地で目の当たりにしてきた川島氏は早くからコーヒーでの解決策を講じられてきました。

 

その代表事例が、タイ最北端のチェンライでの活動です。かつてチェンライはここに暮らす少数民族が貧困脱出のためにアヘン生産に依存、世界最大のアヘン生産地としてダークな印象を持たれていたそう。さらに、問題だったのがアヘンの原材料・ケシは焼畑で栽培するため豊かな森林を焼き払らってしまうこと。そのため、土砂災害や煙による健康被害も深刻化していたといいます。この状況に心を傷めたのがタイのプミポン前国王の母・シーナカリン王太后。問題解決のためにケシ栽培からコーヒー栽培への転換を断行します。この時、栽培指導を任されたのが川島氏です。栽培の成功までには相当の苦労があったそうですが、現在チェンライの「ドイトゥンコーヒー」は、質が高く、おいしいコーヒー豆として世界の市場でも認められるように。「大手航空会社でも採用されています」と川島氏は胸を張ります。

 

さらに、発展途上国では未だ偏見が根強い知的障がい者の農園での雇用、バリスタとしての育成などにも取り組む川島氏。「生産国の人びとが自立できる、生きがいを持って働ける、つまり持続可能な仕組みを確立させることが大切です」と強く主張します。

 

持続可能な仕組みの確立。これは、SDGsの17の目標の中の『1.貧困をなくそう』『8. 働きがいも経済成長も』『16.平和と公正をすべての人に』にも通じます。SDGsが掲げられるずっと前から課題解決に貢献されている川島氏に筆者はもちろん、聴講者の多くの方がオンラインの画面の向こうで敬意を表していたのではないでしょうか。

寒い国の熱い談義を盛り上げる名脇役

第一部を締めくくるのはノルウェーからオンラインで登壇された鐙(あぶみ)麻樹氏です。鐙氏はオスロ大学大学院メディア学修士課程修了後、オスロを拠点に北欧ジャーナリスト&フォトグラファーとして活躍中。セミナーのテーマは「ノルウェー人はコーヒーで政治を語る」です。

先に講演した川島氏から「コーヒーベルトで生産されるコーヒーのほとんどを先進国が消費している」と説明がありましたが、その先進国の中でもトップクラスに消費しているのが北欧諸国です。たくさん消費しているということは、北欧の人がコーヒー好きなのはわかるのですが、政治を語るとはどういうことなのでしょう。コーヒーと政治はなんとなくかけ離れた印象があるのですが。

「ノルウェーをはじめ北欧諸国は、当然ながら冬が寒くて長いことから、人びとはコーヒーにぬくもりを求め、家族や親しい人とコーヒーを飲みながら語らうことが冬の定番的な過ごし方になっています。しかも、北欧の人は、政治談義に花を咲かせることが好きな国民性なんですよ」と鐙氏。そのため、一般の人はもちろん、政治家も演説や討論の際にはコーヒーが必須なんだとか。また、与党と野党がコーヒーになぞらえて論戦を繰り広げることもあると、鐙氏は言います。

「現在、ノルウェーの政権を握るのは保守党、労働党といった右派政党で支持者は一般庶民。好んで飲むのはブラックコーヒーです。一方、左派政党、小政党の野党と支持者は富裕層や急進的な人が主で、カフェラテなどリッチなコーヒーを好みます。これにより、互いの政治思想や価値観などをコーヒーで批判するのです」

さらに、コーヒーは北欧の選挙活動にも必須。各政党は街頭演説の際も、投票当日にもコーヒースタンドを設置して無料で配布するそうです。なるほど。そういった環境と国民性があって、コーヒーと政治が結びついているんですね。

選挙時に登場するコーヒースタンド。鐙氏いわく「コーヒーがないと、政治の話なんてできないよ、と言われるくらいコーヒーと政治は密接な関係」

選挙時に登場するコーヒースタンド。鐙氏いわく「コーヒーがないと、政治の話なんてできないよ、と言われるくらいコーヒーと政治は密接な関係」


ここで、筆者が驚いたのが「保守政党はブラック、急進的政党はカフェラテ、環境政策を押し出す政党は、二酸化炭素を排出する牛のミルクではなく、穀物から作られたオーツミルクのカフェラテをふるまいます」という鐙氏の説明。すごい徹底ぶりですよね。

 

日本のように癒やしの飲みものというよりも、主張や議論を熱く盛り上げる役割を果たす北欧のコーヒー。穏やかな国民性をイメージしていた筆者は、北欧の方の「熱さ」を感じてしまいました。


今日も明日もおいしいコーヒーを味わい続けるために

3人の講演終了後は「コーヒーブレイク」。川島氏によってスペシャルなコーヒーをふるまわれた旦部先生と、セミナーのモデレーターを務めたフードコーディネーター君島佐和子氏は「おいしい」と絶賛です。

コーヒーをおいしく淹れるコツを川島氏に聞く、モデレーターを務めた君島氏(左)

コーヒーをおいしく淹れるコツを川島氏に聞く、モデレーターを務めた君島氏(左)

 

筆者も自ら入れたコーヒーで一息ついたところで、第二部がスタート。聴講者から寄せられた多数の質問に3人が回答しました。その一部を、ここでも紹介します。

 

苦い、酸っぱいと人にとってネガティブな味であるコーヒーがなぜ嗜好品になったのかという問いには、「コーヒーだけでなく、ビールやお茶などにも含まれる苦味は中枢神経を刺激、摂取欲求や中毒性を引き起こすためでしょう」と旦部先生が回答。

 

コーヒーの選び方の質問には、「好みはもちろん、信用できる店で選ぶことが大切。同品種でも生産国や精製のプロセスによっても味が異なるので飲み比べるのも楽しいのでは」と川島氏がおすすめされました。続けて、「ノルウェーでは大半の人に行きつけのカフェがあります。とくに首都のオスロはこの傾向が強いです」と鐙氏が紹介。すると、ここで、君島氏が興味深いデータを披露されました。「日本の県庁所在地のコーヒーのデータを見ると、消費額も消費量も長年京都市がナンバーワンに君臨しているんですよ」と君島氏。オスロと同じく伝統的な町でありながら、新しいものがどんどん入ってくる都心であり、茶道をはじめ、お茶をゆっくりたしなむ文化が根付いている影響ではと君島氏は推測します。

 

最後に語られたのは「コーヒーの未来」です。コーヒーの栽培には比較的気温の低い高地が適しているのですが、地球温暖化により、世界で最も多く栽培されているアラビア種コーヒーの栽培地が2050年には半分以下に減少するといわれているからです。「2050年問題も踏まえて、品種改良や新たな栽培法の浸透が急務」と旦部先生。川島氏は「生産する国、土地、人を守るには、消費する先進国と私たち一人ひとりのコーヒーへの意識を変えることも重要。安価で流通している画一化されたコーヒーではなく、品質や生産国保護のために定められた基準を満たし、公正・適正価格で取引されたスペシャリティコーヒーを選べば、生産側の収益も上がり、品種改良などにも取り組めます」と提言されました。

 

鐙氏によると、北欧では課題解決につながるコーヒーを購入する人が多いそうです。日本は世界屈指のコーヒー消費国でありながら、コーヒーの値段が安く、筆者も味と価格だけで選んでいたことを反省。これからは生産国のバックグランドを知った上で選び、それぞれのコーヒーの魅力を楽しみたいなと思いました。

東京大学発!国内初の文章執筆AI 「ELYZA Pencil」を試したうえで、研究開発者に話を聞いてみた

2022年12月1日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

コロナ禍によって、社会のデジタル化、スマート化が一気に進行しました。その中核を担うものが「AI(人工知能)」。機械化や自動化の有用性を多くの人々が実感したことで、AIの導入、活用は凄まじい勢いで加速しています。

 

そんなAIにおいて、東京大学発のAIベンチャー・株式会社ELYZAから国内初の日本語文章執筆AI 「ELYZA Pencil」が登場しました。

 

株式会社ELYZAは、AI研究の第一人者として知られる松尾豊先生(東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター・技術経営戦略学専攻 教授)が主宰する研究室、通称・松尾研の在学生・卒業生を中心としたメンバーで構成されており、AIによる技術革新、社会実装に取り組んでいます。

 

ELYZA Pencilは、独自の大規模言語AIによって、キーワードを数個入力するだけで、なんと約6秒で文章を生成。ホワイトカラー業務の軽減とDX推進を目指して一般公開されたデモサイトでは、ニュース記事、ビジネス用のメール、職務経歴書を     生成することができます。

 

わずか6秒で執筆完了とは! どれだけすごいのか、さっそく仕事で頻繁に使うビジネスメールの生成を試してみました。2〜8個のキーワードを入力すると文章を生成してくれるようなので、希望も込めて「仕事」「依頼」「お礼」と入力。あっという間に画像のようなメールが完成しました。

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ビジネスメールのマナーを遵守し、こちらの意欲も示しています。想像以上の高精度に、近い将来、ライターに取って代わる存在になるかもしれないと不安を感じる一方、その優れた文章生成力の仕組みを知りたくなり、 株式会社ELYZAに取材を依頼。松尾研の修士課程に在籍し、ELYZA PencilのAI開発責任者を務める平川雅人さんにお話をうかがうことができました。

お話を伺った平川雅人さん

お話を伺った平川雅人さん

AI研究のスペシャリストがビジネスの煩わしさ解消に着目

まず、平川さんに質問したのは、ELYZA Pencilの仕組みについてです。AIが学習していることは漠然とわかるのですが、どのように文章生成力をマスターさせていくのでしょうか。

 

「ELYZA Pencilは、私たち独自の自然言語処理技術によって機能しています。自然言語処理とは、人間の言語(自然言語)を機械が解析し処理する技術です。自然言語処理AIにはディープラーニング(深層学習)という技術を使用しており、大量の日本語のテキストを学習させています。ディープラーニングは2012年頃から画像処理分野で目覚ましく発展してきたのですが、Googleが2018年に発表した大規模言語モデルが人間を超える精度を達成したことで、自然言語処理分野でもブレイクスルーが起きました。以降、自然言語処理は急速に進展し、私たちもさまざまな研究開発や共同開発プロジェクトを通して、より自然で、より流暢な文章生成を実現しています」

 

では、ELYZA Pencilがビジネスユースに特化した理由は何だったのでしょう。

 

「弊社では、高精度にテキストを扱うAIにより実現可能となった新しい働き方、サービスについて、同じ熱意を持って社会実装を推進してくださるパートナーと共に、事業プランを構築するプログラムを展開していました。そこで、日々の業務には文章を書くという作業が無数に存在し、負担やストレスになっているとの声をキャッチしました。こういったホワイトカラー業務の軽減、代替が可能となれば、本来の業務、クリエイティブなタスクに注力できます。つまり、ビジネスシーンでの業務効率化において、文章生成AIは間違いなくニーズがあると思い、研究開発しました」

 

一通のメールを打つにしても、内容や相手によって書き方を考える必要があり、意外に手間も時間もかかります。職務経歴書も自らの行く末を決定づけるものですから、いかにアピールするか、逆に誇大表現になっていないか、細部まで気になるはず。ニュース記事も何を書こうか、どうすれば読んでもらえるか推敲しなければなりません。こういった文章書く面倒をAIがまかなってくれると助かりますよね。

サンプルキーワード「お寿司」「焼肉」「ピザ」「特別な日」を使用して作成したニュース記事

サンプルキーワード「お寿司」「焼肉」「ピザ」「特別な日」を使用して作成したニュース記事

サンプルキーワード「東京大学」「修士課程」「AI研究」「ELYZA」を使用して作成した職務経歴書

サンプルキーワード「東京大学」「修士課程」「AI研究」「ELYZA」を使用して作成した職務経歴書

 

とはいえ、ぎこちない文章では、人間の代替の業務も成立しません。また、表現が多彩な日本語のディープラーニング、文章生成はかなり難しいのではと、想像してしまうのですが。

 

「日本語の多様性は、確かに難しさもありますが、言語的な難易度よりも、質が高い言語データを十分な量用意できるかの方が重要であることが多いです。研究開発では、ユーザーの意図を反映させながらも、タスクに応じて適切な文章をAIに生成させるために、言語データの量と質にはとことんこだわりました。当然ですが、差別的、暴力的表現は排除。正しい文法、なめらかな文体なども追究しましたね」

 

量と質が文章生成AIの鍵。日本語に比べると、英語は膨大なデータが存在していることから、英語のAIの研究、実装化が進んでいるとのこと。平川さんたちは学習用データを収集・加工する社内のデータ専門チームと連携をとることで、データ面でのハンデを克服しつつ、英語圏における研究の知見も取り入れながら日本語の文章生成AIの改善に取り組んでいます。

 

結果、ELYZA Pencilのデモサイトの評判は上々。生成速度が速いことや、生成された文章を執筆のベースにできることはもちろん、正しい表現の確認や違う表現の模索にも使えることが支持されています。また日本語、日本人らしいへりくだった表現の生成も可能であるため、筆者もフォーマルなメールを送付する前のマナーの確認や表現のチョイスができ、「失礼のないメール文ができた」という安心感も得られました。

固すぎず柔らかすぎず、エッセンスの利いた文章に

もうひとつ、興味をそそられたのがELYZA Pencilの豊富な知識と“想像力”です。

例えば、ニュース記事で筆者が応援している某プロ野球チームと本拠地名を入力すると、「何十年も優勝から遠ざかっている」といった情報が盛り込まれていてびっくり。メールでは、具体的なキーワードは入力せずに、お詫び、猛省とだけ入力すると、「社員の不祥事」といった、新聞の三面記事やサスペンス小説ばりの謝罪メールができあがりました。

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「大変失礼ながら、いろいろなワードを入れて楽しんでしまいました」と伝えると、「デモサイトの一般公開は、私たちの自然言語処理技術が社会実装可能なレベルであることを実感・体感いただくことはもちろん、普段AIなどの技術に触れる機会があまりない方にも楽しく試していただくことも目的だったので」と、和やかに応じてくださった平川さん。

 

「キーワードを並べただけの文章では面白くないのですが、人が意図していないことまで肉付けしては実務の文章執筆では使えません。忠実すぎず、必要以上のものを構成しすぎず、それでいて書く人のアイデアやヒントになるような文章を生成できることが私たちが工夫した点であり、ELYZA Pencilの強みです」

 

人間が書きたい、AIに書かせたい文章を生成するという指令や、ビジネスマナー、フォーマットにのっとりながらELYZA Pencilが独自に思考し、エッセンスを添えることができるとは。一方で、時代も言葉も日々進化していくもの。今日のニュースは明日になれば過去の出来事となり、流行語はあっという間に死語になってしまいます。

 

「AIは、新しい情報や言葉をどんどん学習し、過去のデータを蓄積していきます。そのため、試していただいたようなスポーツの過去のデータを盛り込んだりもできますが、例えば日本の総理大臣は誰ですか?という質問に対して、現総理ではなく元総理を答えてしまうケースがあるように、時系列性などの文脈を考慮して一般常識を扱うことは現在のAIが苦手としているタスクです。過去を含め大量のデータをより的確に活用させるには、さらに研究開発が必要ですね」と、平川さんはいいます。

AIをもっと身近に。頼れる、使える存在に

現在はデモンストレーションサイトのみの一般公開ですが、今後、本格的にELYZA Pencilの導入・定着が進めば、全国民のホワイトカラー業務の10%以上を代替できる可能性があるとし、文章生成の領域の拡大も目指していくと平川さんは展望を語ります。

 

「ライターはじめ文章を書く職業に向けては、AIが文章のベースを代わりに作成することから、類語や表現のパターン、アイデアを複数提示するようなことも実現が可能だと思います。自然言語処理技術が人間に迫るレベルにまで向上しているとはいえ、どんなコンセプトで文章を執筆するのか、何を伝えたいのかは、人間が考え行うタスクです。今後は、煩わしい文章生成はAIに、クリエイティブな部分は人間にと、役割が変わってくるでしょう」

 

取材中の余談として平川さんがお話くださったのですが、Googleのあるエンジニアが日々AIに向き合う中で「AIに意思が宿った、意識が芽生えた」と語り、それに対して専門家からは「AIは感性や知性を持ち得ることはない」と批判が殺到するなど物議を醸したそうです。ただ、今回、筆者はELYZA Pencilを使ってみて、まるでこちらの心の内をくみ取っているかのように文章を生成してくれるなと感じました。AIそのものに心はなくても、気持ちのこもったコミュニケーションを補助してくれる役割には大いに期待できそう。人間の仕事や役割を奪う脅威の存在ではなく、共に働く良きパートナーとして、共存共栄していければいいですね。

 

海藻は食の未来を担う救世主! 立命館大学の食セミナー聴講リポート

2022年5月24日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

日本人にとって身近な食材である海藻。実は食糧問題や食糧危機が懸念されている今、人類の食を救うとして世界から注目を集めているのです。そんな海藻をテーマにしたオンラインセミナーが立命館大学で開催されると聞き、聴講しました。

 

今回のセミナーは、立命館大学が “世界をおいしく、おもしろく、複雑に”をコンセプトに、食で社会をよくしていくことをめざすプロジェクト「立命館ポンテ・ガストロノミコ」の公開講座として2021年度に全3回企画されたものの最終回です。
テーマは海藻。「まだ私たちは海藻を知らない—海藻が拓く食の未来」と題して、東京と、海藻食が盛んな秋田・男鹿半島の雲昌寺をつなぎ、海藻のスペシャリストが集結してのセミナー&トークセッションとなりました。

デンマークではトップシェフも海藻に注目、日本では青のりが消滅の危機!?

セミナーはコペンハーゲン大学の教授で、うまみや海藻研究を約15年前から行っているオール・モーリットセン先生のビデオメッセージからスタート。モーリットセン先生によると、海藻は食物繊維やタンパク質、ナトリウム、カルシウム、オメガ3やオメガ6といった不飽和脂肪酸など、さまざまな栄養を含む優秀な食材で、欧米でも多数の海藻が生息しているものの、食べる習慣はほとんどないとか。一方、日本は、「昆布でダシをとる」といった海藻の“うまみ”を引き出す工夫や知恵によって、食べる文化が根づいたと言います。

 

そんな中、先生は昆布と同様のうまみ成分を含有する北欧の海藻「ダルス」に着目し、研究。ミシュランガイドで星を取ったシェフと組んでダルスの調理法も開発した結果、昨今はダルスの栽培や粉末ダルスの製造などが進み、欧米に広まっていると言います。

 

北欧での海藻事情を学んだ後は、国内事情について。続いて登壇したのは、高知県室戸市で海藻養殖を通じた地域活性に取り組むシーベジタブルの共同代表・友廣祐一さんです。まず、聴講者にこう質問されました。

友廣さんは早稲田大学卒業後、全国70以上の農山漁村を訪れ、各地のくらしを学んだという

友廣さんは早稲田大学卒業後、全国70以上の農山漁村を訪れ、各地のくらしを学んだという

 

「みなさんは何種類の海藻を食べたことがありますか?」

その言葉に、ワカメ、ヒジキ、もずく、海苔、お刺身に添えられているあの赤い海藻は何という名前だったかな……と思いをめぐらす筆者。友廣さんによると「食べたことがある海藻を10種類くらい言えると、我々の中では海藻偏差値65ぐらい」なんだとか。恥ずかしながら筆者の海藻偏差値は低め。しかも10種類でも多いと思っていたのに、世界にはおよそ1万2,000種類、日本の海域には1,500種類以上もの海藻が生息し、調理や加工によって、ほぼすべてが食べられるというから驚きです。

 

「海藻食が定着する日本でも大半が手つかず。海には食の未開のフロンティアが広がっているのです」と友廣さん。一方で、地球温暖化や環境破壊、海の生物による食害、漁師の減少などさまざまな原因から海藻が喪失・消滅しているとも言います。「例えば、青のりですが、主産地の高知・四万十川では水揚げ量が激減し、2020年にはついにゼロになってしまいました」

 

こういった海藻の危機的状況を救うべく、シーベジタブルは設立されました。同社の共同代表である蜂谷 潤さんは、高知大学農学部で栽培漁業を研究し、世界で初めて地下海水を利用した陸上で海藻を養殖するモデルを確立。海藻から種を取り出す技術も持っています。シーベジタブルでは、青のりをはじめとする海藻を安定的に生産できる陸上養殖の施設を経営し、採取した海藻をオンラインで販売。地域と連携して海面養殖も進めています。

 

陸上養殖の様子。海の近くで井戸を堀ることで、水温が安定した水をかけながしで養殖することができるそう(セミナーで使用したスライドから抜粋、以下同)

陸上養殖の様子。海の近くで井戸を堀ることで、水温が安定した水をかけながしで養殖することができるそう(セミナーで使用したスライドから抜粋、以下同)


これらの取り組みは海藻を守るだけでなく、雇用創出にも一役買っているそう。「陸上養殖の施設では、よいものをつくるパートナーとして障がいがある方、高齢の方に働いていただいています。また現在、海面養殖を行っている海藻の種類は限られていますが、その種類を増やせないか、生業にならないか、地元の漁師さんと一緒に取り組んでいます」(友廣さん)

 

陸上に置いた水槽から採れた海藻なんて、ちょっと不思議ですが、天候や環境、不漁などに左右されず収穫ができ、地域活性化や雇用確保といった好循環ももたらしているというのは素晴らしいですよね。

育てる=入口から、食べる=出口まで一貫した事業がシーベジタブルの強みという友廣さん

育てる=入口から、食べる=出口まで一貫した事業がシーベジタブルの強みという友廣さん

 

海藻からスイーツも!加工次第で料理は無限

シーベジタブルでは海藻をもっとたくさんの人に広めるために商品開発も行っています。これを担うのがシーベジタブルで料理を担当するシェフの石坂秀威さん。シドニーの有名店で修業経験があり、東京の話題店「INUA(イヌア)」の立ち上げに携わった経歴の持ち主です。

 

「海藻という食材には無限大の魅力があるのですが、使い方や食べ方が昭和でストップしたままなんです」(石坂シェフ)

 

そこで、従来の塩蔵や乾燥以外に、味噌や麹といった発酵食品と合わせたり、オイルやシロップに漬けたりと、新しい保存や加工、調味を行い、斬新なレシピを次々と生み出しています。

 

セミナーでは実際に、石坂シェフ考案の海藻料理から4品を披露。フードジャーナリストの君島佐和子さんが進行役となり、東京都内のキッチンから調理風景が実況で紹介されました。

進行の君島さん(左)と石坂シェフ(右)

進行の君島さん(左)と石坂シェフ(右)

 

1品目は「青のりの豆腐」。

セミナーでは石坂シェフが調理をしながら解説するライブ感ある展開

セミナーでは石坂シェフが調理をしながら解説するライブ感ある展開

 

シーベジタブルで栽培加工した乾燥青のりを豆乳と合わせて固め、生ハムと牡蠣からとったコンソメで仕上げます。コンソメにはクロモというもずくが入っているのですが、「これが中華料理の高級食材であるツバメの巣やフカヒレにそっくりなんです」と石坂シェフは太鼓判を押します。海藻がめったに口にできない食材に? 食べてみたいですよね。

 

2品目はシーベジタブルオリジナルの加工品「柚子ひじき」を豚ミンチや野菜と炒めてレタスに包んで食べる料理。一般的なヒジキは成長したものを鉄鍋で黒く煮てから乾燥させるそうですが、「柚子ひじき」は採れたての新芽だけをさっと茹でて塩蔵しているため、生に近いと石坂シェフ。

生のヒジキは褐色で、塩蔵し加熱すると緑色に変化するそう

生のヒジキは褐色で、塩蔵し加熱すると緑色に変化するそう

 

炒めても食感はシャキシャキで、試食した君島さんは「おいしい! 仕事を忘れそう」と絶賛。オンラインのコメント欄も「食べてみたい」「柚子ヒジキはどこで買えるの?」というコメントでいっぱいに。筆者も画面に向かってグイッと乗り出してしまいました。匂いだけでも伝わればいいのに……。

 

3品目、4品目はなんとスイーツ! 海藻が甘い味に? 美味しいの? と思っていると、板状のチョコとスポンジ、クリームの層が特徴のフランスの伝統菓子、オペラケーキからインスピレーションを得たという海藻のケーキが登場。

見た目も味も海藻がは使われているとは思えないシーベジタブル流のオペラケーキ

見た目も味も海藻が使われているとは思えないシーベジタブル流のオペラケーキ

 

チョコの代わりに、アラメというワカメに似た大きな海藻を梅のピュレに漬け込んだものを使い、フルーティーな味わいに。バタークリームには青のりが入っています。

 

4品目は茎ワカメを砂糖に漬けて水分を抜き、甘みを浸透させた一品。茎ワカメは、文字通りワカメの茎の部分を使ったもので、ピーラーで向いて調理します。最後に、リンゴのシロップを塗って完成です。

オーストラリアの「サワーワーム」という甘酸っぱいグミをイメージして誕生した茎ワカメのスイーツ

オーストラリアの「サワーワーム」という甘酸っぱいグミをイメージして誕生した茎ワカメのスイーツ

 

どんな味なんだろう……? 筆者の心配をよそに「どちらも海藻と言われなければわからない」と君島さん。配信のチャット欄は「食べたい」とのコメントでまたまたいっぱいです。

これまでにない、独創的な海藻料理を味わった君島さんからは「海藻を野菜のようにとらえるといいのでしょうか」と石坂シェフに質問が。「食べたことがない海藻は、使い方がわからないもの。海の野菜として(気軽に)試していただければ、わりと簡単においしく調理できます。勇気を持って試していただきたいですね」。石坂シェフの言葉に、家庭での海藻料理のレパートリーに可能性を感じました。

男鹿の海藻を土地に伝わる調理法で精進料理に

石坂シェフの革新的なレシピの一方で、秋田県男鹿半島の伝統的な海藻精進料理が披露されたのも今回のセミナーのユニークなところです。

 

男鹿半島は漁業が盛んで、海藻の種類も豊富。海藻料理もよく食べられてきました。また、お盆をはじめお寺の行事の際は、檀家さんが海藻を使った精進料理を作るそう。この伝統とレシピを400年以上の歴史を持つ雲昌寺では大切に保存、継承しています。

 

セミナーでは雲昌寺と中継が繋がり、それらの料理が紹介されました。こちらの司会進行は立命館大学食マネジメント学部の教授、石田雅芳先生です。

右から雲昌寺の副住職・古仲宗雲さん、石田坂先生、料理をつくった男鹿のおかあさんたち。手の込んだ海藻精進料理は、花まつりと初盆の年2回作られるという

右から雲昌寺の副住職・古仲宗雲さん、石田先生、料理をつくった男鹿のおかあさんたち。手の込んだ海藻精進料理は、花まつりと初盆の年2回作られるという

 

海藻の煮物やお吸い物など、土地の食文化や海藻の性質を活かした料理が、テーブルに所狭しと並びます。どこか懐かしい料理を味わった石田先生は「まさに生きた食の文化財です」と感動しきり。境内には古仲副住職が採取した海藻も並びました。

男鹿でしか食べられない局地的な海藻もいっぱい

男鹿でしか食べられない局地的な海藻もいっぱい

おなじみのワカメもこんなに大きいとは……!

おなじみのワカメもこんなに大きいとは……!

 

こういったお母さんたちの昔ながらの料理も、石坂シェフが作る新しい料理も、日本だけでなく、世界にも広がれば食生活や食文化はもっと豊かに、楽しくなるはずです。

どんな食材にも料理にも変身できる。海藻ってスゴイ!

最後に行われたトークセッションでは、世界の食と未来が話題になりました。

 

君島さんは、最近注目している培養肉をはじめとする代替食品と海藻の関係について言及。「培養肉は開発段階ですし、昆虫食は多くの人にとって心理的なハードルが高いのが難点。でも海藻は、食べ方を開発すれば容易に私たちの生活に取り入れられます。海藻の活用は人類の食糧危機を救うことが期待できるのではないでしょうか」と君島さん。

 

「海外ではヘルシーだから海藻を食べていますが、日本はおいしいから食べるし、文化がある。海藻文化を発信するなら日本からじゃないと、もったいない」と石坂シェフ。さらに「世界のレストランでは、昆布でダシをとることが一般的になりました。昆布は革命的な存在です。1万2,000種類ある海藻から、昆布のような存在を探すべきではないかと思っています」と語りました。

 

「食べていない、試していない海藻がまだまだたくさんあるので、私たちの技術や知見を活かして新しい海藻の発見、新しい海藻食文化を構築していきたいです」と友廣さんからは今後の抱負が語られ、「海藻という日本の食文化を誇りに思います。今回訪問した男鹿のように地域と人びとがつながり、日常食として海藻を食べる、愛情の記憶として伝えていくことが理想です」と石田先生がセミナーを締めくくりました。

 

セミナーを聴講して、当たり前の存在ゆえに、海藻について意識したことはなかったと思いました。ヘルシー、ダイエット食材なだけでなく、未来の食を救ったり、環境や社会に変革をもたらすポテンシャルを秘めていることを知りびっくり。また、「海藻を野菜として気軽に使ってみてください」という石坂シェフの言葉通り、さっそく今夜のメニューに使ってみようかと。みなさんも海藻料理はいかがですか?

アフターコロナを生きる力を養うなら「アート」を見よ!阪大から現代美術の可能性を学ぶ。

2021年7月27日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

画像:国立新美術館外観 ©️国立新美術館

 

現代美術と聞くと「難しそう」「よくわからない」という人もいらっしゃるのではないでしょうか。筆者もその一人なのですが、このたび現代美術のセミナーを受講することに。果たして現代美術との距離は縮まったのかレポートいたします。

アートに無縁でも五感で堪能できるから難しくない!

ライブ視聴したセミナーは、当サイトで何度も登場している大阪大学が京阪電車、ダンスボックスと協同で運営する「アートエリアB1(ビーワン)」で開催されるラボカフェイベントのひとつ。タイトルは「美術館のいま(10)特別編 〜"現代美術"の可能性を伝えることとは〜」です。


 

  • アートエリアB1(ビーワン)

京阪電車中之島線「なにわ橋駅」構内の地下1階コンコースにあるコミュニケーションスペース。「文化・芸術・知の創造と交流の場」となることを目指して、大学の知、アートの知、地域の活力を集結した多彩な主催事業を展開している。

 

  • 「ラボカフェ」

アートエリアB1が開催しているレクチャー&対話イベント。 大阪大学の教員やアートエリアB1運営委員らがカフェマスターとなり、平日夜を中心に、哲学、アート、科学技術、鉄道など多岐にわたるテーマで、ゲストや参加者が語り合うカフェプログラムを提供している。

 


「美術館のいま」は、新型コロナウイルス感染拡大により生じた「生の作品を観る/体験する」という美術館の根幹を揺るがす現状を、全国の美術館館長と、木ノ下智恵子准教授(大阪大学共創機構産学官連携オフィス)が対話を通じて考えるシリーズ。今回のゲストは国立新美術館長・逢坂恵理子さんです。

 

逢坂館長は日本美術界における女性代表職の草分け的存在。茨城県水戸芸術館現代美術センター芸術監督、東京六本木ヒルズ森美術館アーティスティック・ディレクター、神奈川県横浜美術館館長を歴任し、2019年10月に国立新美術館長に就任されました。

 

実績をピックアップすると、水戸芸術館では水戸のまち自体をアートの展示&体感スペースとするイベントの成功や、海外発信力のある森美術館では、より幅広い層への現代美術普及に関わってきました。

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画像:水戸芸術館外観 提供:水戸芸術館

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アナザーエナジー展:三島喜美代 /展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年/撮影:古川裕也/画像提供:森美術館

 

そんな逢坂館長いわく、「現代美術は難しいという思い込みを乗り越えましょう」とのこと。

「古典美術も当時の時代背景や宗教観などを理解していなければ、作品や作家の意図を捉えるのは難しいと思います。一方、現代美術は、私たちと同じ時代を生きる作家による今の時代、社会を反映した作品なので、むしろ理解や共感しやすいと思うのです。さらに現代美術は視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚、味覚という五感を刺激する作品が多く、アートに無縁な人も何かを感じたり、楽しんだりもできます」

 

そういわれると筆者にも思いあたることが。かつて『モナ・リザ』を鑑賞したことがあるのですが、ソーシャルディスタンスはおろか、遥か遠くからほんのわずかの時間しか見ることができず、何も感じられませんでした。ところが、話題性につられて訪れた石川県の金沢21世紀美術館では、作品を実際に触ったり、作品の一部になって、それを記念撮影することで自分の作品になったような気分を味わったり、心から楽しめたのです。

アフターコロナにこそ「現代美術」が必要

ただ、現代美術には「なんだこれは?」という作品も存在しますよね。やはり現代美術は縁遠いものなのか…。

 

「意味不明でもいいのです。まずは作品を数多く見る。そこで作品や作家の注釈を読むなどして知識に頼るだけではなく、作品そのものを見て、感じることが重要です。作品鑑賞の第一歩は自分の感覚を大切にすること。現代美術との『未知との遭遇』を楽しむことで、作品や作家に対する観察力や読解力、洞察力、想像力が鍛えられていきます」

 

現代美術に限らずアートには正解がない。皆が同様の見方をすることはない。多様な世界、価値の存在を見て感じ取り、受け入れていく。現代美術は人を寛容にしてくれると語る逢坂館長は、さらにこう続けます。

 

「多様性の理解と寛容は、アフターコロナを生きる私たちに大変重要です」

 

今、あらゆる物事がデジタル化され、便利になっている一方、世の中はますます複雑化し、将来の先行きは不透明。このコロナ禍も想定外の事態ではないでしょうか。また、ビフォアコロナの頃からボーダレスやジェンダーレスといった多様性の理解と寛容が重要とされているものの、残念ながら偏見や差別がなくなる気配はなく、新型コロナウイルスによるパンデミックによって感染者への偏見、差別も蔓延してしまいました。

 

「こういった時代をVolatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字から『VUCA=ブーカの時代』といわれているのはご存知かと思います。VUCAはアフターコロナにおいても継続し、今までの常識がますます通用しなくなっていくでしょう。だからこそ、私たちにはビフォアコロナの頃にも増して、自ら考え、寛容性や柔軟な対応力が求められると思うのです」

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画像:逢坂恵理子館長のプレゼンテーション資料

 

 

「VUCAを乗り切るには、Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:実行の『OODA=ウーダ』のスキルが必要といわれています。先ほど現代美術は観察力や読解力といった力が鍛えられると言いましたが、これらはまさに『OODA=ウーダ』のスキルであり、現代美術を通じて身につけることができます」という逢坂館長。

 

緊急事態宣言による国立新美術館の臨時休館にあたっては、下記のメッセージも発信しておられます。

 

「芸術活動は世界や人間への理解を深め、他者や異なる価値観との共存、多様性を受け入れる視点への気づきを与えてくれるものです。世界規模の非常事態をともに乗り越えるためにも芸術の力は決して小さくありません」

 

セミナーの最後にも現代美術の可能性と責務を力説されました。

 

「現代美術は人と社会をつなぐ架け橋であり、美術館は人や社会を複眼的に見る視点、複雑な社会を生きる気づき、生きる力を養う機会を提供する使命があります。私の願いは現代美術を通じての『人間性回復』です」

 

この言葉に木ノ下准教授は「コロナ禍によって、『人間にアートは必要なのか』という本質を突きつけられたのですが、アフターコロナにおける現代美術の可能性と重大な役割についてうかがい、私たちも使命を果たしていきたいと思いました」とコメント。

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画像提供:アートエリアB1

 

人は自分が知らない、わからないことを目の前にすると、拒絶や批判をしてしまいがち。また、物事の判断は数字や大多数の意見をゆだねる方が安心なのですが、アフターコロナでは、その常識や価値を新たにしなければいけないかもしれません。

 

セミナーを受講してみて、世界中の誰もが同じ危機に見舞われた今こそ、同じ痛みを共有し、自らの思考と判断によって理解や寛容を深めていく、それがアフターコロナを生きる力につながっていくと学びました。もちろん、自ら現代美術にアプローチして、年々狭くなっていく視野を広げ、凝り固まってしまった考え方を柔らかくしなければ。皆さんも現代美術との『未知との遭遇』はいかがでしょうか。

 

 

学生の窮地を救え!龍谷大学の「つながる」食支援プロジェクト

2020年12月1日 / コラム, ほとゼロからのお知らせ

「88円の食パン一斤で何日も過ごしている」「親の収入も減り、仕送りを頼めない」。

新型コロナウイルス感染拡大抑止のため4月に発令された緊急事態宣言。この命を守る措置が一方で多くの大学生を窮地に陥れました。龍谷大学では学生を救うため食による支援を実施。コロナ禍の中での取り組みや思いを教員、学生、協賛企業の三者に伺いました。

とにかく食べる物を。大学の資源をフル活用

学生を困窮させた理由は、施設や店舗の休業、外出自粛でアルバイトができなくなり、収入が途絶えたことです。とくに一人暮らしの学生にとっては死活問題。SNSに発信される悲痛な叫びに、龍谷大学は危機対策本部を設置。4月下旬、全学生に新型コロナによる生活の影響を調査すると、食への不安が最上位に上がりました。

 

コロナ禍で学長補佐として学生支援特別推進室長の職に就いて、学生支援の陣頭指揮にあたった政策学部・深尾昌峰教授は、非営利組織における社会課題解決を専門とする支援のスペシャリストです。

 

「支援方策では、新入生向けのオンライン新歓イベントなども展開しましたが、“食べられない”という学生の命をつなぐため、当面の食材を提供する支援を最優先しました」

「4~5月は青白い顔をした学生もいて、かなりシビアな状況だった」と話す深尾先生

「4~5月は青白い顔をした学生もいて、かなりシビアな状況だった」と話す深尾教授

 

食材は1週間分の昼・夕食を1日あたり500人分相当用意。保存の利くパスタやレトルト食品が品切れ、仕入れ先が休業中と、調達には苦労があったそうです。

 

「本学と連携協定を結ぶ滋賀県東近江市から提供いただいた1トンの米や農学部の実験農場で獲れた農作物など、大学の資源を活用することで、5月2日には深草・大宮・瀬田の3キャンパスで総勢469名に食材を配布できました」

食材配布時の様子。食材を求める学生の列ができた

食材配布時の様子。食材を求める学生の列ができた

入澤学長も食材を手渡し

入澤学長も食材を手渡し

 

後日実施した学生アンケートによれば、食材を受け取ると、空腹に耐えきれず帰り道で野菜を丸かじりした学生もいたとか。いつでも好きなものを食べられることがあたりまえの若者がまるで戦時中のような窮状だったとは。不測の事態とはいえ、やるせなさや憤りを感じてしまいます。

食材と一緒にレシピも用意して学生をサポート

食材と一緒にレシピも用意して学生をサポート

卒業生も協力。支援がつながっていく

この食支援は、「ご縁=#5en」と表し、龍谷大学のホームページやSNSで発信。メディアにも取り上げられ、滋賀県、京都生協、フランス屋製菓株式会社ほか多数の企業・団体から野菜、冷凍食品、飲料、お菓子、日用品が寄贈されるなど、支援の輪がどんどん広がっていきました。

その一つが大阪王将などを展開する株式会社イートアンドホールディングス。6月9日、深草キャンパスにて、大阪王将羽根つき餃子など500食分の冷凍食品を社員さんが学生に直接配布しました。

 

同社取締役兼株式会社大阪王将代表取締役社長・植月 剛さんは、実は社会学部の卒業生。Webでお話を伺うと、提供側でもつながりがあったとか。

WEB取材に応えてくださった植月さん

WEB取材に応えてくださった植月さん

 

「今回のご協力は、弊社とご縁があり、機内食用の冷凍食品を先に寄贈されていたピーチ・アビエーション様からのお話がきっかけです。弊社はCSR活動に力を入れているのですが、母校を手助けできたのは格別でした」

決して一人ではない!学生に「安心」も届ける

 

深草・大宮・瀬田の3キャンパスで延べ25回、6,000人近くの学生に合計約52,500食分を提供した(初回は無償、緊急事態宣言解除後は1,000円)食支援プロジェクト。配布スタッフとして200名の学生を直接雇用、日払いで手当てを支給することで経済的に支援したことも特筆すべき点です。学生スタッフは、寄贈された大量の食品を学生1人分に分ける作業や、暑い時期は保管にも気をつかうため、そのような裏方の作業でも活躍しました。

 

支援なら食費や生活費を支給すれば?振り込めば早いのでは?との意見もあると思いますが、食材を直接渡すことは、授業もバイトもなく、孤立していた学生と顔を合わせる機会となり、悩みを聞いたり、励ましたりできますよね。

 

食材提供を受け、スタッフとして配布にも携わった法学部4回生・弓場竣平さんも「まかない付きの居酒屋のバイトがなくなり、困っていたので、すぐに食べられる物も自炊に使える食材もいただけて助かりました。それにスマホで友だちと交流していたものの、家で一人という状況に落ち込んだ時もあったのですが、配布の際、教職員の方や学生と直接話せることが食べ物や手当て以上にうれしく、人とのつながりが支えとなることに改めて気づきました」といいます。

三重県の実家に戻ることもできずにいた弓場峻平さん。栄養バランスがよいものを受け取れたこともよかったという

三重県の実家に戻ることもできずにいた弓場竣平さん。栄養バランスがよいものを受け取れたこともよかったという

 

学生たちに大打撃を与えた新型コロナですが、だからこそ新たな気づきがあったよう。前出の植月さんも「不測の事態になったとしても、なにか視点を変えることで新たな可能性も見えてくるはず」とメッセージを送ってくれました。

 

また深尾教授は「今回の食支援では、休校中にも関わらず、学長をはじめ、多くの教職員が集結し、一丸となって調達や仕分けに汗を流しました。学生のためならここまでできる大学なんだと誇りに感じました」と感慨もひとしお。

 

「支援の大原則は困っている人に寄り添うこと。新型コロナの場合、安易に近づけませんが、『つながり』は欠かせません。誰もが経験したことがない状況の中、多くの人が弱者となります。学生アンケートをみていると、“みんな我慢してるんだからわがままを言ってはいけない”と思ってしまっていたり、食支援を受け取りにきたことで“久しぶりに人としゃべった”と、それまで孤立していた学生の姿が浮き彫りになってきました。さまざまな想像力を働かせた支援が必要です」。

深尾先生、弓場さん、学生支援特別推進室の職員のみなさんと

深尾教授、弓場さん、学生支援特別推進室の職員のみなさんと

 

西本願寺境内の教育施設・学寮を起源とする龍谷大学。仏教の精神に基づき、他者への思いやり、公共性を大切にしてきたことも血の通う支援を成し遂げた要因でしょう。一向に終息しない新型コロナですが、人とつながり、支え合うことが想定外の難局を乗り越える力となることを学びました。

龍谷大学が復刻! 幻のラジオ体操第3で運動不足を解消しよう!

2020年6月4日 / この研究がスゴい!, 大学の知をのぞく

国民的体操として知られるラジオ体操。第1と第2に加えて、実は「第3」があるのをご存知ですか?ラジオ体操の変遷の中で幻と化してしまったのですが、龍谷大学の安西将也教授(社会学部 現代福祉学科)と井上辰樹教授(社会学部 コミュニティマネジメント学科)が2013年に復刻。新型コロナウイルス感染拡大抑制のための外出自粛やテレワークで運動不足が懸念される中、自宅で気軽にできる運動として、今、注目が集まっています。そこで、復刻の立役者・安西先生にwebにてお話を伺いました。

キツイけどクセになる!驚きの効果と楽しさ

ラジオ体操は1928年、国民の健康増進のために作成され、放送が開始。1932年に第2、1939年に第3もスタートしますが、1946年、GHQの干渉で放送中止に。すぐに二代目のラジオ体操第1、第2、第3が放送されたものの短命に終わります。1951年、現在の私たちが知っている三代目ラジオ体操第1、第2の放送が始まりますが、なぜか第3は三代目が作成されたのかもわからず、姿を消してしまったのです。

 

そんなラジオ体操第3を復刻させたのは、公衆衛生学が専門の安西先生と運動生理学が専門の井上先生に、2013年、滋賀県東近江市から「こころとからだの健康づくり事業」への協力依頼があったことがきっかけです。

 

「健康づくりには適度な運動と正しい食生活が不可欠ですが、運動は楽しくないと継続・定着が難しい。何かないかと考えていた時、頭に浮かんだのがラジオ体操第3。あの体操に3番目があったのかと、人々の好奇心をくすぐると思いました」

お話を聞いた安西将也教授。健康教育や老人医療費分析などの研究を行う

お話を聞いた安西将也教授。健康教育や老人医療費分析などの研究を行う

 

第3の存在は知っていたものの、動きや曲は不明だった安西先生は、リサーチを開始。偶然、龍谷大学瀬田キャンパスの隣にある滋賀県立図書館で、『新しい朝が来た‐ラジオ体操50年の歩み-』(簡易保険加入者協会)という文献に二代目ラジオ体操第3の図解を発見。井上先生が運動を一つひとつ再現しました。

しかも音楽は、どういう訳か音源のみがYouTubeにアップされており、なんと安西先生の娘さんが“耳コピ”で採譜・演奏しました。

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二代目ラジオ体操第3の図解。レトロなイラストがかわいい!

二代目ラジオ体操第3の図解。レトロなイラストがかわいい!

 

蘇った二代目ラジオ体操第3は11種・16の運動で構成され、「第1、第2とは違って、アップテンポでハードです」と安西先生。

百聞は一見にしかず。筆者、二代目ラジオ体操第3をやってみました!

龍谷大学のWEBマガジン「Mog-lab(もぐらぼ)」のYouTubeチャンネルにて公開されている動画を観ながらチャレンジ!

 

 

まずはピアノの音に合わせて足踏みから。あれ、簡単と侮っていたら、腕を振りながら膝を屈伸、体を大きく曲げる、回すといった負荷の掛かる運動が連続。しかも、疲れてきた後半に手脚を大きく広げるジャンプが。屈伸しながら腕を横、上、前、下と素早く動かす運動は体も頭も大混乱。何とか最後まで持ちましたが、日頃の不摂生に加え、コロナの影響でここまで体力が落ちているとは…。

身体をダイナミックに、素早く動かす動きがいろいろ

身体をダイナミックに、素早く動かす動きがいろいろ

 

体験してわかったのですが、動きも音楽もユニークで、ハードなのに楽しく、適度に汗をかけて、すっきりできるのです。

 

「二代目ラジオ体操は運動強度が高く、有酸素運動も筋力トレーニングもバランスよく含まれています。さらに体温が上がることで免疫力アップにも効果的。コロナ予防も期待できます。導入した自治体や企業でのデータを検証すると、生活習慣病やうつ病、体重などの改善効果も実証。やってみた皆さんからは自然と笑いが起き、ストレスも発散できます」

くわしい検証データこちら(龍谷大学Mog-lab)

 

現代病も社会問題にも効く。まさに蘇る運命にあった!

高い効果に加えて、幻のラジオ体操第3復刻という話題性からメディアにも取り上げられ、「やってみたい」だけでなく、「二代目ラジオ体操第3はハードなので、同じように楽しくて高齢者や障がい者もできる体操はないの?」との要望も寄せられたそうです。

 

「そんな時、初代ラジオ体操第3の図解が掲載された新聞記事と、音楽の入ったレコード盤を別々の方から寄贈いただいて。これは復刻しなければと思いました」

 

資料の古さゆえに労力を要した初代の復刻でしたが、動きや音楽はスローで、二代目のように跳躍運動がなかったことから、座ったままでもできる内容でした。

安西先生のもとで新聞記事とレコードが出会ったのも、初代が要望に応えるやさしいものだったことも何だかドラマティックですね。

初代ラジオ体操第3の図解掲載新聞。お持ちの方がいたとはびっくり!1936(昭和11)年の貴重な資料だ(寄贈:埼玉県越谷市在住 植田誠 氏)

初代ラジオ体操第3の図解掲載新聞。お持ちの方がいたとはびっくり!1936(昭和11)年の貴重な資料だ(寄贈:埼玉県越谷市在住 植田誠 氏)

こちらは1939(昭和14)年大日本國民体操(初代ラジオ体操第3)管弦曲 ビクター体育レコードSP盤(寄贈:京都府伏見区在住 吉池一郎 氏)

こちらは1939(昭和14)年大日本國民体操(初代ラジオ体操第3)管弦曲 ビクター体育レコードSP盤(寄贈:京都府伏見区在住 吉池一郎 氏)

 

初代ラジオ体操第3もやってみました!

初代ラジオ体操第3については、DVDが龍谷メルシー(株)に電話をすると購入可能です。

ラジオ体操誕生のきっかけや特徴が書かれた解説リーフレットも入った初代バージョンのDVD。安西先生いわく「いい声なんですよ」とべた褒めの井上先生によるオリジナル号令もぜひ聴いてほしい

ラジオ体操誕生のきっかけや特徴が書かれた解説リーフレットも入った初代バージョンのDVD。安西先生いわく「いい声なんですよ」とべた褒めの井上先生によるオリジナル号令もぜひ聴いてほしい

 

さっそくチャレンジしてみると、確かに二代目よりも動きがスローで、肩や腰、背中がほどよく伸びて気持ちいい~。ゆっくりですが、頭で考えることが必要な動きもあります。また、運動の一つ、ボート漕ぎは民謡の振り付けみたいでおもしろく、「漕い~で」「漕い~で」という井上先生のややゆるめの号令にも思わず笑ってしまいました。

右の2枚がソーラン節を思い出させる、特徴的なボート漕ぎの動き

右の2枚がソーラン節を思い出させる、特徴的なボート漕ぎの動き

 

「初代は動的ストレッチ効果が高く、肩コリや腰痛の改善、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)予防、脳の活性化、さらにフレイル予防にも役立つはずです」

 

フレイルとは加齢によって、筋力が低下、家に閉じこもりがち、食欲減退など心身が衰えて、健康な状態から介護が必要な状態に移行する中間の状態のこと。フレイルに陥らないためには適度な運動や脳の活性化などが重要で、現在さまざまな取り組みが推進されていのですが、初代で楽しく運動して、介護状態や認知症を防げれば、当人はもちろん、家族にとってもこれほどいいことはありません。

 

「現在、要介護者だけでなく、家族や施設職員など支援者の慢性的な心身の不調解消のエビデンスを示すため、初代・二代目ラジオ体操第3によるメンタルヘルスケアの共同研究にも取り組んでいます」と安西先生はいいます。

STAY HOMEにラジオ体操第3を

さまざまな疾病や症状の改善を叶える初代&二代目ラジオ体操第3。

 

「国家事業だったこともありますが、戦前、戦後間もなくに、これほど効果的なプログラムが作られていたことが素晴らしいです。また、緊急事態宣言は解除されましたが、以前とまったく同じ生活というわけにはいきません。いわばギブスをはめて家で安静しているのと同様で、年齢を問わず、心身に影響を及ぼします。こういったコロナによる二次被害防止、新たな健康づくりにおいても、ラジオ体操第3を活用していただけたら。第1、第2などと組み合わせて行うとさらに効果的。運動に選択肢があることも飽きずに継続できるコツです」と安西先生。

 

新型コロナウイルスという経験したことのない感染症、それによって強いられる事態を70年以上前の体操が手助けしてくれるとは。今の状況の改善だけでなく、心身の健康や将来に向けて、販売中のDVDはもちろん、龍谷大学の学生さんや一般の方が「やってみた」動画も参考に、ラジオ体操第3を習慣にしませんか。

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