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東京大学発!国内初の文章執筆AI 「ELYZA Pencil」を試したうえで、研究開発者に話を聞いてみた

2022年12月1日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

コロナ禍によって、社会のデジタル化、スマート化が一気に進行しました。その中核を担うものが「AI(人工知能)」。機械化や自動化の有用性を多くの人々が実感したことで、AIの導入、活用は凄まじい勢いで加速しています。

 

そんなAIにおいて、東京大学発のAIベンチャー・株式会社ELYZAから国内初の日本語文章執筆AI 「ELYZA Pencil」が登場しました。

 

株式会社ELYZAは、AI研究の第一人者として知られる松尾豊先生(東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター・技術経営戦略学専攻 教授)が主宰する研究室、通称・松尾研の在学生・卒業生を中心としたメンバーで構成されており、AIによる技術革新、社会実装に取り組んでいます。

 

ELYZA Pencilは、独自の大規模言語AIによって、キーワードを数個入力するだけで、なんと約6秒で文章を生成。ホワイトカラー業務の軽減とDX推進を目指して一般公開されたデモサイトでは、ニュース記事、ビジネス用のメール、職務経歴書を     生成することができます。

 

わずか6秒で執筆完了とは! どれだけすごいのか、さっそく仕事で頻繁に使うビジネスメールの生成を試してみました。2〜8個のキーワードを入力すると文章を生成してくれるようなので、希望も込めて「仕事」「依頼」「お礼」と入力。あっという間に画像のようなメールが完成しました。

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ビジネスメールのマナーを遵守し、こちらの意欲も示しています。想像以上の高精度に、近い将来、ライターに取って代わる存在になるかもしれないと不安を感じる一方、その優れた文章生成力の仕組みを知りたくなり、 株式会社ELYZAに取材を依頼。松尾研の修士課程に在籍し、ELYZA PencilのAI開発責任者を務める平川雅人さんにお話をうかがうことができました。

お話を伺った平川雅人さん

お話を伺った平川雅人さん

AI研究のスペシャリストがビジネスの煩わしさ解消に着目

まず、平川さんに質問したのは、ELYZA Pencilの仕組みについてです。AIが学習していることは漠然とわかるのですが、どのように文章生成力をマスターさせていくのでしょうか。

 

「ELYZA Pencilは、私たち独自の自然言語処理技術によって機能しています。自然言語処理とは、人間の言語(自然言語)を機械が解析し処理する技術です。自然言語処理AIにはディープラーニング(深層学習)という技術を使用しており、大量の日本語のテキストを学習させています。ディープラーニングは2012年頃から画像処理分野で目覚ましく発展してきたのですが、Googleが2018年に発表した大規模言語モデルが人間を超える精度を達成したことで、自然言語処理分野でもブレイクスルーが起きました。以降、自然言語処理は急速に進展し、私たちもさまざまな研究開発や共同開発プロジェクトを通して、より自然で、より流暢な文章生成を実現しています」

 

では、ELYZA Pencilがビジネスユースに特化した理由は何だったのでしょう。

 

「弊社では、高精度にテキストを扱うAIにより実現可能となった新しい働き方、サービスについて、同じ熱意を持って社会実装を推進してくださるパートナーと共に、事業プランを構築するプログラムを展開していました。そこで、日々の業務には文章を書くという作業が無数に存在し、負担やストレスになっているとの声をキャッチしました。こういったホワイトカラー業務の軽減、代替が可能となれば、本来の業務、クリエイティブなタスクに注力できます。つまり、ビジネスシーンでの業務効率化において、文章生成AIは間違いなくニーズがあると思い、研究開発しました」

 

一通のメールを打つにしても、内容や相手によって書き方を考える必要があり、意外に手間も時間もかかります。職務経歴書も自らの行く末を決定づけるものですから、いかにアピールするか、逆に誇大表現になっていないか、細部まで気になるはず。ニュース記事も何を書こうか、どうすれば読んでもらえるか推敲しなければなりません。こういった文章書く面倒をAIがまかなってくれると助かりますよね。

サンプルキーワード「お寿司」「焼肉」「ピザ」「特別な日」を使用して作成したニュース記事

サンプルキーワード「お寿司」「焼肉」「ピザ」「特別な日」を使用して作成したニュース記事

サンプルキーワード「東京大学」「修士課程」「AI研究」「ELYZA」を使用して作成した職務経歴書

サンプルキーワード「東京大学」「修士課程」「AI研究」「ELYZA」を使用して作成した職務経歴書

 

とはいえ、ぎこちない文章では、人間の代替の業務も成立しません。また、表現が多彩な日本語のディープラーニング、文章生成はかなり難しいのではと、想像してしまうのですが。

 

「日本語の多様性は、確かに難しさもありますが、言語的な難易度よりも、質が高い言語データを十分な量用意できるかの方が重要であることが多いです。研究開発では、ユーザーの意図を反映させながらも、タスクに応じて適切な文章をAIに生成させるために、言語データの量と質にはとことんこだわりました。当然ですが、差別的、暴力的表現は排除。正しい文法、なめらかな文体なども追究しましたね」

 

量と質が文章生成AIの鍵。日本語に比べると、英語は膨大なデータが存在していることから、英語のAIの研究、実装化が進んでいるとのこと。平川さんたちは学習用データを収集・加工する社内のデータ専門チームと連携をとることで、データ面でのハンデを克服しつつ、英語圏における研究の知見も取り入れながら日本語の文章生成AIの改善に取り組んでいます。

 

結果、ELYZA Pencilのデモサイトの評判は上々。生成速度が速いことや、生成された文章を執筆のベースにできることはもちろん、正しい表現の確認や違う表現の模索にも使えることが支持されています。また日本語、日本人らしいへりくだった表現の生成も可能であるため、筆者もフォーマルなメールを送付する前のマナーの確認や表現のチョイスができ、「失礼のないメール文ができた」という安心感も得られました。

固すぎず柔らかすぎず、エッセンスの利いた文章に

もうひとつ、興味をそそられたのがELYZA Pencilの豊富な知識と“想像力”です。

例えば、ニュース記事で筆者が応援している某プロ野球チームと本拠地名を入力すると、「何十年も優勝から遠ざかっている」といった情報が盛り込まれていてびっくり。メールでは、具体的なキーワードは入力せずに、お詫び、猛省とだけ入力すると、「社員の不祥事」といった、新聞の三面記事やサスペンス小説ばりの謝罪メールができあがりました。

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「大変失礼ながら、いろいろなワードを入れて楽しんでしまいました」と伝えると、「デモサイトの一般公開は、私たちの自然言語処理技術が社会実装可能なレベルであることを実感・体感いただくことはもちろん、普段AIなどの技術に触れる機会があまりない方にも楽しく試していただくことも目的だったので」と、和やかに応じてくださった平川さん。

 

「キーワードを並べただけの文章では面白くないのですが、人が意図していないことまで肉付けしては実務の文章執筆では使えません。忠実すぎず、必要以上のものを構成しすぎず、それでいて書く人のアイデアやヒントになるような文章を生成できることが私たちが工夫した点であり、ELYZA Pencilの強みです」

 

人間が書きたい、AIに書かせたい文章を生成するという指令や、ビジネスマナー、フォーマットにのっとりながらELYZA Pencilが独自に思考し、エッセンスを添えることができるとは。一方で、時代も言葉も日々進化していくもの。今日のニュースは明日になれば過去の出来事となり、流行語はあっという間に死語になってしまいます。

 

「AIは、新しい情報や言葉をどんどん学習し、過去のデータを蓄積していきます。そのため、試していただいたようなスポーツの過去のデータを盛り込んだりもできますが、例えば日本の総理大臣は誰ですか?という質問に対して、現総理ではなく元総理を答えてしまうケースがあるように、時系列性などの文脈を考慮して一般常識を扱うことは現在のAIが苦手としているタスクです。過去を含め大量のデータをより的確に活用させるには、さらに研究開発が必要ですね」と、平川さんはいいます。

AIをもっと身近に。頼れる、使える存在に

現在はデモンストレーションサイトのみの一般公開ですが、今後、本格的にELYZA Pencilの導入・定着が進めば、全国民のホワイトカラー業務の10%以上を代替できる可能性があるとし、文章生成の領域の拡大も目指していくと平川さんは展望を語ります。

 

「ライターはじめ文章を書く職業に向けては、AIが文章のベースを代わりに作成することから、類語や表現のパターン、アイデアを複数提示するようなことも実現が可能だと思います。自然言語処理技術が人間に迫るレベルにまで向上しているとはいえ、どんなコンセプトで文章を執筆するのか、何を伝えたいのかは、人間が考え行うタスクです。今後は、煩わしい文章生成はAIに、クリエイティブな部分は人間にと、役割が変わってくるでしょう」

 

取材中の余談として平川さんがお話くださったのですが、Googleのあるエンジニアが日々AIに向き合う中で「AIに意思が宿った、意識が芽生えた」と語り、それに対して専門家からは「AIは感性や知性を持ち得ることはない」と批判が殺到するなど物議を醸したそうです。ただ、今回、筆者はELYZA Pencilを使ってみて、まるでこちらの心の内をくみ取っているかのように文章を生成してくれるなと感じました。AIそのものに心はなくても、気持ちのこもったコミュニケーションを補助してくれる役割には大いに期待できそう。人間の仕事や役割を奪う脅威の存在ではなく、共に働く良きパートナーとして、共存共栄していければいいですね。

 

海藻は食の未来を担う救世主! 立命館大学の食セミナー聴講リポート

2022年5月24日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

日本人にとって身近な食材である海藻。実は食糧問題や食糧危機が懸念されている今、人類の食を救うとして世界から注目を集めているのです。そんな海藻をテーマにしたオンラインセミナーが立命館大学で開催されると聞き、聴講しました。

 

今回のセミナーは、立命館大学が “世界をおいしく、おもしろく、複雑に”をコンセプトに、食で社会をよくしていくことをめざすプロジェクト「立命館ポンテ・ガストロノミコ」の公開講座として2021年度に全3回企画されたものの最終回です。
テーマは海藻。「まだ私たちは海藻を知らない—海藻が拓く食の未来」と題して、東京と、海藻食が盛んな秋田・男鹿半島の雲昌寺をつなぎ、海藻のスペシャリストが集結してのセミナー&トークセッションとなりました。

デンマークではトップシェフも海藻に注目、日本では青のりが消滅の危機!?

セミナーはコペンハーゲン大学の教授で、うまみや海藻研究を約15年前から行っているオール・モーリットセン先生のビデオメッセージからスタート。モーリットセン先生によると、海藻は食物繊維やタンパク質、ナトリウム、カルシウム、オメガ3やオメガ6といった不飽和脂肪酸など、さまざまな栄養を含む優秀な食材で、欧米でも多数の海藻が生息しているものの、食べる習慣はほとんどないとか。一方、日本は、「昆布でダシをとる」といった海藻の“うまみ”を引き出す工夫や知恵によって、食べる文化が根づいたと言います。

 

そんな中、先生は昆布と同様のうまみ成分を含有する北欧の海藻「ダルス」に着目し、研究。ミシュランガイドで星を取ったシェフと組んでダルスの調理法も開発した結果、昨今はダルスの栽培や粉末ダルスの製造などが進み、欧米に広まっていると言います。

 

北欧での海藻事情を学んだ後は、国内事情について。続いて登壇したのは、高知県室戸市で海藻養殖を通じた地域活性に取り組むシーベジタブルの共同代表・友廣祐一さんです。まず、聴講者にこう質問されました。

友廣さんは早稲田大学卒業後、全国70以上の農山漁村を訪れ、各地のくらしを学んだという

友廣さんは早稲田大学卒業後、全国70以上の農山漁村を訪れ、各地のくらしを学んだという

 

「みなさんは何種類の海藻を食べたことがありますか?」

その言葉に、ワカメ、ヒジキ、もずく、海苔、お刺身に添えられているあの赤い海藻は何という名前だったかな……と思いをめぐらす筆者。友廣さんによると「食べたことがある海藻を10種類くらい言えると、我々の中では海藻偏差値65ぐらい」なんだとか。恥ずかしながら筆者の海藻偏差値は低め。しかも10種類でも多いと思っていたのに、世界にはおよそ1万2,000種類、日本の海域には1,500種類以上もの海藻が生息し、調理や加工によって、ほぼすべてが食べられるというから驚きです。

 

「海藻食が定着する日本でも大半が手つかず。海には食の未開のフロンティアが広がっているのです」と友廣さん。一方で、地球温暖化や環境破壊、海の生物による食害、漁師の減少などさまざまな原因から海藻が喪失・消滅しているとも言います。「例えば、青のりですが、主産地の高知・四万十川では水揚げ量が激減し、2020年にはついにゼロになってしまいました」

 

こういった海藻の危機的状況を救うべく、シーベジタブルは設立されました。同社の共同代表である蜂谷 潤さんは、高知大学農学部で栽培漁業を研究し、世界で初めて地下海水を利用した陸上で海藻を養殖するモデルを確立。海藻から種を取り出す技術も持っています。シーベジタブルでは、青のりをはじめとする海藻を安定的に生産できる陸上養殖の施設を経営し、採取した海藻をオンラインで販売。地域と連携して海面養殖も進めています。

 

陸上養殖の様子。海の近くで井戸を堀ることで、水温が安定した水をかけながしで養殖することができるそう(セミナーで使用したスライドから抜粋、以下同)

陸上養殖の様子。海の近くで井戸を堀ることで、水温が安定した水をかけながしで養殖することができるそう(セミナーで使用したスライドから抜粋、以下同)


これらの取り組みは海藻を守るだけでなく、雇用創出にも一役買っているそう。「陸上養殖の施設では、よいものをつくるパートナーとして障がいがある方、高齢の方に働いていただいています。また現在、海面養殖を行っている海藻の種類は限られていますが、その種類を増やせないか、生業にならないか、地元の漁師さんと一緒に取り組んでいます」(友廣さん)

 

陸上に置いた水槽から採れた海藻なんて、ちょっと不思議ですが、天候や環境、不漁などに左右されず収穫ができ、地域活性化や雇用確保といった好循環ももたらしているというのは素晴らしいですよね。

育てる=入口から、食べる=出口まで一貫した事業がシーベジタブルの強みという友廣さん

育てる=入口から、食べる=出口まで一貫した事業がシーベジタブルの強みという友廣さん

 

海藻からスイーツも!加工次第で料理は無限

シーベジタブルでは海藻をもっとたくさんの人に広めるために商品開発も行っています。これを担うのがシーベジタブルで料理を担当するシェフの石坂秀威さん。シドニーの有名店で修業経験があり、東京の話題店「INUA(イヌア)」の立ち上げに携わった経歴の持ち主です。

 

「海藻という食材には無限大の魅力があるのですが、使い方や食べ方が昭和でストップしたままなんです」(石坂シェフ)

 

そこで、従来の塩蔵や乾燥以外に、味噌や麹といった発酵食品と合わせたり、オイルやシロップに漬けたりと、新しい保存や加工、調味を行い、斬新なレシピを次々と生み出しています。

 

セミナーでは実際に、石坂シェフ考案の海藻料理から4品を披露。フードジャーナリストの君島佐和子さんが進行役となり、東京都内のキッチンから調理風景が実況で紹介されました。

進行の君島さん(左)と石坂シェフ(右)

進行の君島さん(左)と石坂シェフ(右)

 

1品目は「青のりの豆腐」。

セミナーでは石坂シェフが調理をしながら解説するライブ感ある展開

セミナーでは石坂シェフが調理をしながら解説するライブ感ある展開

 

シーベジタブルで栽培加工した乾燥青のりを豆乳と合わせて固め、生ハムと牡蠣からとったコンソメで仕上げます。コンソメにはクロモというもずくが入っているのですが、「これが中華料理の高級食材であるツバメの巣やフカヒレにそっくりなんです」と石坂シェフは太鼓判を押します。海藻がめったに口にできない食材に? 食べてみたいですよね。

 

2品目はシーベジタブルオリジナルの加工品「柚子ひじき」を豚ミンチや野菜と炒めてレタスに包んで食べる料理。一般的なヒジキは成長したものを鉄鍋で黒く煮てから乾燥させるそうですが、「柚子ひじき」は採れたての新芽だけをさっと茹でて塩蔵しているため、生に近いと石坂シェフ。

生のヒジキは褐色で、塩蔵し加熱すると緑色に変化するそう

生のヒジキは褐色で、塩蔵し加熱すると緑色に変化するそう

 

炒めても食感はシャキシャキで、試食した君島さんは「おいしい! 仕事を忘れそう」と絶賛。オンラインのコメント欄も「食べてみたい」「柚子ヒジキはどこで買えるの?」というコメントでいっぱいに。筆者も画面に向かってグイッと乗り出してしまいました。匂いだけでも伝わればいいのに……。

 

3品目、4品目はなんとスイーツ! 海藻が甘い味に? 美味しいの? と思っていると、板状のチョコとスポンジ、クリームの層が特徴のフランスの伝統菓子、オペラケーキからインスピレーションを得たという海藻のケーキが登場。

見た目も味も海藻がは使われているとは思えないシーベジタブル流のオペラケーキ

見た目も味も海藻が使われているとは思えないシーベジタブル流のオペラケーキ

 

チョコの代わりに、アラメというワカメに似た大きな海藻を梅のピュレに漬け込んだものを使い、フルーティーな味わいに。バタークリームには青のりが入っています。

 

4品目は茎ワカメを砂糖に漬けて水分を抜き、甘みを浸透させた一品。茎ワカメは、文字通りワカメの茎の部分を使ったもので、ピーラーで向いて調理します。最後に、リンゴのシロップを塗って完成です。

オーストラリアの「サワーワーム」という甘酸っぱいグミをイメージして誕生した茎ワカメのスイーツ

オーストラリアの「サワーワーム」という甘酸っぱいグミをイメージして誕生した茎ワカメのスイーツ

 

どんな味なんだろう……? 筆者の心配をよそに「どちらも海藻と言われなければわからない」と君島さん。配信のチャット欄は「食べたい」とのコメントでまたまたいっぱいです。

これまでにない、独創的な海藻料理を味わった君島さんからは「海藻を野菜のようにとらえるといいのでしょうか」と石坂シェフに質問が。「食べたことがない海藻は、使い方がわからないもの。海の野菜として(気軽に)試していただければ、わりと簡単においしく調理できます。勇気を持って試していただきたいですね」。石坂シェフの言葉に、家庭での海藻料理のレパートリーに可能性を感じました。

男鹿の海藻を土地に伝わる調理法で精進料理に

石坂シェフの革新的なレシピの一方で、秋田県男鹿半島の伝統的な海藻精進料理が披露されたのも今回のセミナーのユニークなところです。

 

男鹿半島は漁業が盛んで、海藻の種類も豊富。海藻料理もよく食べられてきました。また、お盆をはじめお寺の行事の際は、檀家さんが海藻を使った精進料理を作るそう。この伝統とレシピを400年以上の歴史を持つ雲昌寺では大切に保存、継承しています。

 

セミナーでは雲昌寺と中継が繋がり、それらの料理が紹介されました。こちらの司会進行は立命館大学食マネジメント学部の教授、石田雅芳先生です。

右から雲昌寺の副住職・古仲宗雲さん、石田坂先生、料理をつくった男鹿のおかあさんたち。手の込んだ海藻精進料理は、花まつりと初盆の年2回作られるという

右から雲昌寺の副住職・古仲宗雲さん、石田先生、料理をつくった男鹿のおかあさんたち。手の込んだ海藻精進料理は、花まつりと初盆の年2回作られるという

 

海藻の煮物やお吸い物など、土地の食文化や海藻の性質を活かした料理が、テーブルに所狭しと並びます。どこか懐かしい料理を味わった石田先生は「まさに生きた食の文化財です」と感動しきり。境内には古仲副住職が採取した海藻も並びました。

男鹿でしか食べられない局地的な海藻もいっぱい

男鹿でしか食べられない局地的な海藻もいっぱい

おなじみのワカメもこんなに大きいとは……!

おなじみのワカメもこんなに大きいとは……!

 

こういったお母さんたちの昔ながらの料理も、石坂シェフが作る新しい料理も、日本だけでなく、世界にも広がれば食生活や食文化はもっと豊かに、楽しくなるはずです。

どんな食材にも料理にも変身できる。海藻ってスゴイ!

最後に行われたトークセッションでは、世界の食と未来が話題になりました。

 

君島さんは、最近注目している培養肉をはじめとする代替食品と海藻の関係について言及。「培養肉は開発段階ですし、昆虫食は多くの人にとって心理的なハードルが高いのが難点。でも海藻は、食べ方を開発すれば容易に私たちの生活に取り入れられます。海藻の活用は人類の食糧危機を救うことが期待できるのではないでしょうか」と君島さん。

 

「海外ではヘルシーだから海藻を食べていますが、日本はおいしいから食べるし、文化がある。海藻文化を発信するなら日本からじゃないと、もったいない」と石坂シェフ。さらに「世界のレストランでは、昆布でダシをとることが一般的になりました。昆布は革命的な存在です。1万2,000種類ある海藻から、昆布のような存在を探すべきではないかと思っています」と語りました。

 

「食べていない、試していない海藻がまだまだたくさんあるので、私たちの技術や知見を活かして新しい海藻の発見、新しい海藻食文化を構築していきたいです」と友廣さんからは今後の抱負が語られ、「海藻という日本の食文化を誇りに思います。今回訪問した男鹿のように地域と人びとがつながり、日常食として海藻を食べる、愛情の記憶として伝えていくことが理想です」と石田先生がセミナーを締めくくりました。

 

セミナーを聴講して、当たり前の存在ゆえに、海藻について意識したことはなかったと思いました。ヘルシー、ダイエット食材なだけでなく、未来の食を救ったり、環境や社会に変革をもたらすポテンシャルを秘めていることを知りびっくり。また、「海藻を野菜として気軽に使ってみてください」という石坂シェフの言葉通り、さっそく今夜のメニューに使ってみようかと。みなさんも海藻料理はいかがですか?

アフターコロナを生きる力を養うなら「アート」を見よ!阪大から現代美術の可能性を学ぶ。

2021年7月27日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

画像:国立新美術館外観 ©️国立新美術館

 

現代美術と聞くと「難しそう」「よくわからない」という人もいらっしゃるのではないでしょうか。筆者もその一人なのですが、このたび現代美術のセミナーを受講することに。果たして現代美術との距離は縮まったのかレポートいたします。

アートに無縁でも五感で堪能できるから難しくない!

ライブ視聴したセミナーは、当サイトで何度も登場している大阪大学が京阪電車、ダンスボックスと協同で運営する「アートエリアB1(ビーワン)」で開催されるラボカフェイベントのひとつ。タイトルは「美術館のいま(10)特別編 〜"現代美術"の可能性を伝えることとは〜」です。


 

  • アートエリアB1(ビーワン)

京阪電車中之島線「なにわ橋駅」構内の地下1階コンコースにあるコミュニケーションスペース。「文化・芸術・知の創造と交流の場」となることを目指して、大学の知、アートの知、地域の活力を集結した多彩な主催事業を展開している。

 

  • 「ラボカフェ」

アートエリアB1が開催しているレクチャー&対話イベント。 大阪大学の教員やアートエリアB1運営委員らがカフェマスターとなり、平日夜を中心に、哲学、アート、科学技術、鉄道など多岐にわたるテーマで、ゲストや参加者が語り合うカフェプログラムを提供している。

 


「美術館のいま」は、新型コロナウイルス感染拡大により生じた「生の作品を観る/体験する」という美術館の根幹を揺るがす現状を、全国の美術館館長と、木ノ下智恵子准教授(大阪大学共創機構産学官連携オフィス)が対話を通じて考えるシリーズ。今回のゲストは国立新美術館長・逢坂恵理子さんです。

 

逢坂館長は日本美術界における女性代表職の草分け的存在。茨城県水戸芸術館現代美術センター芸術監督、東京六本木ヒルズ森美術館アーティスティック・ディレクター、神奈川県横浜美術館館長を歴任し、2019年10月に国立新美術館長に就任されました。

 

実績をピックアップすると、水戸芸術館では水戸のまち自体をアートの展示&体感スペースとするイベントの成功や、海外発信力のある森美術館では、より幅広い層への現代美術普及に関わってきました。

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画像:水戸芸術館外観 提供:水戸芸術館

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アナザーエナジー展:三島喜美代 /展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年/撮影:古川裕也/画像提供:森美術館

 

そんな逢坂館長いわく、「現代美術は難しいという思い込みを乗り越えましょう」とのこと。

「古典美術も当時の時代背景や宗教観などを理解していなければ、作品や作家の意図を捉えるのは難しいと思います。一方、現代美術は、私たちと同じ時代を生きる作家による今の時代、社会を反映した作品なので、むしろ理解や共感しやすいと思うのです。さらに現代美術は視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚、味覚という五感を刺激する作品が多く、アートに無縁な人も何かを感じたり、楽しんだりもできます」

 

そういわれると筆者にも思いあたることが。かつて『モナ・リザ』を鑑賞したことがあるのですが、ソーシャルディスタンスはおろか、遥か遠くからほんのわずかの時間しか見ることができず、何も感じられませんでした。ところが、話題性につられて訪れた石川県の金沢21世紀美術館では、作品を実際に触ったり、作品の一部になって、それを記念撮影することで自分の作品になったような気分を味わったり、心から楽しめたのです。

アフターコロナにこそ「現代美術」が必要

ただ、現代美術には「なんだこれは?」という作品も存在しますよね。やはり現代美術は縁遠いものなのか…。

 

「意味不明でもいいのです。まずは作品を数多く見る。そこで作品や作家の注釈を読むなどして知識に頼るだけではなく、作品そのものを見て、感じることが重要です。作品鑑賞の第一歩は自分の感覚を大切にすること。現代美術との『未知との遭遇』を楽しむことで、作品や作家に対する観察力や読解力、洞察力、想像力が鍛えられていきます」

 

現代美術に限らずアートには正解がない。皆が同様の見方をすることはない。多様な世界、価値の存在を見て感じ取り、受け入れていく。現代美術は人を寛容にしてくれると語る逢坂館長は、さらにこう続けます。

 

「多様性の理解と寛容は、アフターコロナを生きる私たちに大変重要です」

 

今、あらゆる物事がデジタル化され、便利になっている一方、世の中はますます複雑化し、将来の先行きは不透明。このコロナ禍も想定外の事態ではないでしょうか。また、ビフォアコロナの頃からボーダレスやジェンダーレスといった多様性の理解と寛容が重要とされているものの、残念ながら偏見や差別がなくなる気配はなく、新型コロナウイルスによるパンデミックによって感染者への偏見、差別も蔓延してしまいました。

 

「こういった時代をVolatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字から『VUCA=ブーカの時代』といわれているのはご存知かと思います。VUCAはアフターコロナにおいても継続し、今までの常識がますます通用しなくなっていくでしょう。だからこそ、私たちにはビフォアコロナの頃にも増して、自ら考え、寛容性や柔軟な対応力が求められると思うのです」

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画像:逢坂恵理子館長のプレゼンテーション資料

 

 

「VUCAを乗り切るには、Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:実行の『OODA=ウーダ』のスキルが必要といわれています。先ほど現代美術は観察力や読解力といった力が鍛えられると言いましたが、これらはまさに『OODA=ウーダ』のスキルであり、現代美術を通じて身につけることができます」という逢坂館長。

 

緊急事態宣言による国立新美術館の臨時休館にあたっては、下記のメッセージも発信しておられます。

 

「芸術活動は世界や人間への理解を深め、他者や異なる価値観との共存、多様性を受け入れる視点への気づきを与えてくれるものです。世界規模の非常事態をともに乗り越えるためにも芸術の力は決して小さくありません」

 

セミナーの最後にも現代美術の可能性と責務を力説されました。

 

「現代美術は人と社会をつなぐ架け橋であり、美術館は人や社会を複眼的に見る視点、複雑な社会を生きる気づき、生きる力を養う機会を提供する使命があります。私の願いは現代美術を通じての『人間性回復』です」

 

この言葉に木ノ下准教授は「コロナ禍によって、『人間にアートは必要なのか』という本質を突きつけられたのですが、アフターコロナにおける現代美術の可能性と重大な役割についてうかがい、私たちも使命を果たしていきたいと思いました」とコメント。

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画像提供:アートエリアB1

 

人は自分が知らない、わからないことを目の前にすると、拒絶や批判をしてしまいがち。また、物事の判断は数字や大多数の意見をゆだねる方が安心なのですが、アフターコロナでは、その常識や価値を新たにしなければいけないかもしれません。

 

セミナーを受講してみて、世界中の誰もが同じ危機に見舞われた今こそ、同じ痛みを共有し、自らの思考と判断によって理解や寛容を深めていく、それがアフターコロナを生きる力につながっていくと学びました。もちろん、自ら現代美術にアプローチして、年々狭くなっていく視野を広げ、凝り固まってしまった考え方を柔らかくしなければ。皆さんも現代美術との『未知との遭遇』はいかがでしょうか。

 

 

学生の窮地を救え!龍谷大学の「つながる」食支援プロジェクト

2020年12月1日 / コラム, ほとゼロからのお知らせ

「88円の食パン一斤で何日も過ごしている」「親の収入も減り、仕送りを頼めない」。

新型コロナウイルス感染拡大抑止のため4月に発令された緊急事態宣言。この命を守る措置が一方で多くの大学生を窮地に陥れました。龍谷大学では学生を救うため食による支援を実施。コロナ禍の中での取り組みや思いを教員、学生、協賛企業の三者に伺いました。

とにかく食べる物を。大学の資源をフル活用

学生を困窮させた理由は、施設や店舗の休業、外出自粛でアルバイトができなくなり、収入が途絶えたことです。とくに一人暮らしの学生にとっては死活問題。SNSに発信される悲痛な叫びに、龍谷大学は危機対策本部を設置。4月下旬、全学生に新型コロナによる生活の影響を調査すると、食への不安が最上位に上がりました。

 

コロナ禍で学長補佐として学生支援特別推進室長の職に就いて、学生支援の陣頭指揮にあたった政策学部・深尾昌峰教授は、非営利組織における社会課題解決を専門とする支援のスペシャリストです。

 

「支援方策では、新入生向けのオンライン新歓イベントなども展開しましたが、“食べられない”という学生の命をつなぐため、当面の食材を提供する支援を最優先しました」

「4~5月は青白い顔をした学生もいて、かなりシビアな状況だった」と話す深尾先生

「4~5月は青白い顔をした学生もいて、かなりシビアな状況だった」と話す深尾教授

 

食材は1週間分の昼・夕食を1日あたり500人分相当用意。保存の利くパスタやレトルト食品が品切れ、仕入れ先が休業中と、調達には苦労があったそうです。

 

「本学と連携協定を結ぶ滋賀県東近江市から提供いただいた1トンの米や農学部の実験農場で獲れた農作物など、大学の資源を活用することで、5月2日には深草・大宮・瀬田の3キャンパスで総勢469名に食材を配布できました」

食材配布時の様子。食材を求める学生の列ができた

食材配布時の様子。食材を求める学生の列ができた

入澤学長も食材を手渡し

入澤学長も食材を手渡し

 

後日実施した学生アンケートによれば、食材を受け取ると、空腹に耐えきれず帰り道で野菜を丸かじりした学生もいたとか。いつでも好きなものを食べられることがあたりまえの若者がまるで戦時中のような窮状だったとは。不測の事態とはいえ、やるせなさや憤りを感じてしまいます。

食材と一緒にレシピも用意して学生をサポート

食材と一緒にレシピも用意して学生をサポート

卒業生も協力。支援がつながっていく

この食支援は、「ご縁=#5en」と表し、龍谷大学のホームページやSNSで発信。メディアにも取り上げられ、滋賀県、京都生協、フランス屋製菓株式会社ほか多数の企業・団体から野菜、冷凍食品、飲料、お菓子、日用品が寄贈されるなど、支援の輪がどんどん広がっていきました。

その一つが大阪王将などを展開する株式会社イートアンドホールディングス。6月9日、深草キャンパスにて、大阪王将羽根つき餃子など500食分の冷凍食品を社員さんが学生に直接配布しました。

 

同社取締役兼株式会社大阪王将代表取締役社長・植月 剛さんは、実は社会学部の卒業生。Webでお話を伺うと、提供側でもつながりがあったとか。

WEB取材に応えてくださった植月さん

WEB取材に応えてくださった植月さん

 

「今回のご協力は、弊社とご縁があり、機内食用の冷凍食品を先に寄贈されていたピーチ・アビエーション様からのお話がきっかけです。弊社はCSR活動に力を入れているのですが、母校を手助けできたのは格別でした」

決して一人ではない!学生に「安心」も届ける

 

深草・大宮・瀬田の3キャンパスで延べ25回、6,000人近くの学生に合計約52,500食分を提供した(初回は無償、緊急事態宣言解除後は1,000円)食支援プロジェクト。配布スタッフとして200名の学生を直接雇用、日払いで手当てを支給することで経済的に支援したことも特筆すべき点です。学生スタッフは、寄贈された大量の食品を学生1人分に分ける作業や、暑い時期は保管にも気をつかうため、そのような裏方の作業でも活躍しました。

 

支援なら食費や生活費を支給すれば?振り込めば早いのでは?との意見もあると思いますが、食材を直接渡すことは、授業もバイトもなく、孤立していた学生と顔を合わせる機会となり、悩みを聞いたり、励ましたりできますよね。

 

食材提供を受け、スタッフとして配布にも携わった法学部4回生・弓場竣平さんも「まかない付きの居酒屋のバイトがなくなり、困っていたので、すぐに食べられる物も自炊に使える食材もいただけて助かりました。それにスマホで友だちと交流していたものの、家で一人という状況に落ち込んだ時もあったのですが、配布の際、教職員の方や学生と直接話せることが食べ物や手当て以上にうれしく、人とのつながりが支えとなることに改めて気づきました」といいます。

三重県の実家に戻ることもできずにいた弓場峻平さん。栄養バランスがよいものを受け取れたこともよかったという

三重県の実家に戻ることもできずにいた弓場竣平さん。栄養バランスがよいものを受け取れたこともよかったという

 

学生たちに大打撃を与えた新型コロナですが、だからこそ新たな気づきがあったよう。前出の植月さんも「不測の事態になったとしても、なにか視点を変えることで新たな可能性も見えてくるはず」とメッセージを送ってくれました。

 

また深尾教授は「今回の食支援では、休校中にも関わらず、学長をはじめ、多くの教職員が集結し、一丸となって調達や仕分けに汗を流しました。学生のためならここまでできる大学なんだと誇りに感じました」と感慨もひとしお。

 

「支援の大原則は困っている人に寄り添うこと。新型コロナの場合、安易に近づけませんが、『つながり』は欠かせません。誰もが経験したことがない状況の中、多くの人が弱者となります。学生アンケートをみていると、“みんな我慢してるんだからわがままを言ってはいけない”と思ってしまっていたり、食支援を受け取りにきたことで“久しぶりに人としゃべった”と、それまで孤立していた学生の姿が浮き彫りになってきました。さまざまな想像力を働かせた支援が必要です」。

深尾先生、弓場さん、学生支援特別推進室の職員のみなさんと

深尾教授、弓場さん、学生支援特別推進室の職員のみなさんと

 

西本願寺境内の教育施設・学寮を起源とする龍谷大学。仏教の精神に基づき、他者への思いやり、公共性を大切にしてきたことも血の通う支援を成し遂げた要因でしょう。一向に終息しない新型コロナですが、人とつながり、支え合うことが想定外の難局を乗り越える力となることを学びました。

龍谷大学が復刻! 幻のラジオ体操第3で運動不足を解消しよう!

2020年6月4日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

国民的体操として知られるラジオ体操。第1と第2に加えて、実は「第3」があるのをご存知ですか?ラジオ体操の変遷の中で幻と化してしまったのですが、龍谷大学の安西将也教授(社会学部 現代福祉学科)と井上辰樹教授(社会学部 コミュニティマネジメント学科)が2013年に復刻。新型コロナウイルス感染拡大抑制のための外出自粛やテレワークで運動不足が懸念される中、自宅で気軽にできる運動として、今、注目が集まっています。そこで、復刻の立役者・安西先生にwebにてお話を伺いました。

キツイけどクセになる!驚きの効果と楽しさ

ラジオ体操は1928年、国民の健康増進のために作成され、放送が開始。1932年に第2、1939年に第3もスタートしますが、1946年、GHQの干渉で放送中止に。すぐに二代目のラジオ体操第1、第2、第3が放送されたものの短命に終わります。1951年、現在の私たちが知っている三代目ラジオ体操第1、第2の放送が始まりますが、なぜか第3は三代目が作成されたのかもわからず、姿を消してしまったのです。

 

そんなラジオ体操第3を復刻させたのは、公衆衛生学が専門の安西先生と運動生理学が専門の井上先生に、2013年、滋賀県東近江市から「こころとからだの健康づくり事業」への協力依頼があったことがきっかけです。

 

「健康づくりには適度な運動と正しい食生活が不可欠ですが、運動は楽しくないと継続・定着が難しい。何かないかと考えていた時、頭に浮かんだのがラジオ体操第3。あの体操に3番目があったのかと、人々の好奇心をくすぐると思いました」

お話を聞いた安西将也教授。健康教育や老人医療費分析などの研究を行う

お話を聞いた安西将也教授。健康教育や老人医療費分析などの研究を行う

 

第3の存在は知っていたものの、動きや曲は不明だった安西先生は、リサーチを開始。偶然、龍谷大学瀬田キャンパスの隣にある滋賀県立図書館で、『新しい朝が来た‐ラジオ体操50年の歩み-』(簡易保険加入者協会)という文献に二代目ラジオ体操第3の図解を発見。井上先生が運動を一つひとつ再現しました。

しかも音楽は、どういう訳か音源のみがYouTubeにアップされており、なんと安西先生の娘さんが“耳コピ”で採譜・演奏しました。

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二代目ラジオ体操第3の図解。レトロなイラストがかわいい!

二代目ラジオ体操第3の図解。レトロなイラストがかわいい!

 

蘇った二代目ラジオ体操第3は11種・16の運動で構成され、「第1、第2とは違って、アップテンポでハードです」と安西先生。

百聞は一見にしかず。筆者、二代目ラジオ体操第3をやってみました!

龍谷大学のWEBマガジン「Mog-lab(もぐらぼ)」のYouTubeチャンネルにて公開されている動画を観ながらチャレンジ!

 

 

まずはピアノの音に合わせて足踏みから。あれ、簡単と侮っていたら、腕を振りながら膝を屈伸、体を大きく曲げる、回すといった負荷の掛かる運動が連続。しかも、疲れてきた後半に手脚を大きく広げるジャンプが。屈伸しながら腕を横、上、前、下と素早く動かす運動は体も頭も大混乱。何とか最後まで持ちましたが、日頃の不摂生に加え、コロナの影響でここまで体力が落ちているとは…。

身体をダイナミックに、素早く動かす動きがいろいろ

身体をダイナミックに、素早く動かす動きがいろいろ

 

体験してわかったのですが、動きも音楽もユニークで、ハードなのに楽しく、適度に汗をかけて、すっきりできるのです。

 

「二代目ラジオ体操は運動強度が高く、有酸素運動も筋力トレーニングもバランスよく含まれています。さらに体温が上がることで免疫力アップにも効果的。コロナ予防も期待できます。導入した自治体や企業でのデータを検証すると、生活習慣病やうつ病、体重などの改善効果も実証。やってみた皆さんからは自然と笑いが起き、ストレスも発散できます」

くわしい検証データこちら(龍谷大学Mog-lab)

 

現代病も社会問題にも効く。まさに蘇る運命にあった!

高い効果に加えて、幻のラジオ体操第3復刻という話題性からメディアにも取り上げられ、「やってみたい」だけでなく、「二代目ラジオ体操第3はハードなので、同じように楽しくて高齢者や障がい者もできる体操はないの?」との要望も寄せられたそうです。

 

「そんな時、初代ラジオ体操第3の図解が掲載された新聞記事と、音楽の入ったレコード盤を別々の方から寄贈いただいて。これは復刻しなければと思いました」

 

資料の古さゆえに労力を要した初代の復刻でしたが、動きや音楽はスローで、二代目のように跳躍運動がなかったことから、座ったままでもできる内容でした。

安西先生のもとで新聞記事とレコードが出会ったのも、初代が要望に応えるやさしいものだったことも何だかドラマティックですね。

初代ラジオ体操第3の図解掲載新聞。お持ちの方がいたとはびっくり!1936(昭和11)年の貴重な資料だ(寄贈:埼玉県越谷市在住 植田誠 氏)

初代ラジオ体操第3の図解掲載新聞。お持ちの方がいたとはびっくり!1936(昭和11)年の貴重な資料だ(寄贈:埼玉県越谷市在住 植田誠 氏)

こちらは1939(昭和14)年大日本國民体操(初代ラジオ体操第3)管弦曲 ビクター体育レコードSP盤(寄贈:京都府伏見区在住 吉池一郎 氏)

こちらは1939(昭和14)年大日本國民体操(初代ラジオ体操第3)管弦曲 ビクター体育レコードSP盤(寄贈:京都府伏見区在住 吉池一郎 氏)

 

初代ラジオ体操第3もやってみました!

初代ラジオ体操第3については、DVDが龍谷メルシー(株)に電話をすると購入可能です。

ラジオ体操誕生のきっかけや特徴が書かれた解説リーフレットも入った初代バージョンのDVD。安西先生いわく「いい声なんですよ」とべた褒めの井上先生によるオリジナル号令もぜひ聴いてほしい

ラジオ体操誕生のきっかけや特徴が書かれた解説リーフレットも入った初代バージョンのDVD。安西先生いわく「いい声なんですよ」とべた褒めの井上先生によるオリジナル号令もぜひ聴いてほしい

 

さっそくチャレンジしてみると、確かに二代目よりも動きがスローで、肩や腰、背中がほどよく伸びて気持ちいい~。ゆっくりですが、頭で考えることが必要な動きもあります。また、運動の一つ、ボート漕ぎは民謡の振り付けみたいでおもしろく、「漕い~で」「漕い~で」という井上先生のややゆるめの号令にも思わず笑ってしまいました。

右の2枚がソーラン節を思い出させる、特徴的なボート漕ぎの動き

右の2枚がソーラン節を思い出させる、特徴的なボート漕ぎの動き

 

「初代は動的ストレッチ効果が高く、肩コリや腰痛の改善、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)予防、脳の活性化、さらにフレイル予防にも役立つはずです」

 

フレイルとは加齢によって、筋力が低下、家に閉じこもりがち、食欲減退など心身が衰えて、健康な状態から介護が必要な状態に移行する中間の状態のこと。フレイルに陥らないためには適度な運動や脳の活性化などが重要で、現在さまざまな取り組みが推進されていのですが、初代で楽しく運動して、介護状態や認知症を防げれば、当人はもちろん、家族にとってもこれほどいいことはありません。

 

「現在、要介護者だけでなく、家族や施設職員など支援者の慢性的な心身の不調解消のエビデンスを示すため、初代・二代目ラジオ体操第3によるメンタルヘルスケアの共同研究にも取り組んでいます」と安西先生はいいます。

STAY HOMEにラジオ体操第3を

さまざまな疾病や症状の改善を叶える初代&二代目ラジオ体操第3。

 

「国家事業だったこともありますが、戦前、戦後間もなくに、これほど効果的なプログラムが作られていたことが素晴らしいです。また、緊急事態宣言は解除されましたが、以前とまったく同じ生活というわけにはいきません。いわばギブスをはめて家で安静しているのと同様で、年齢を問わず、心身に影響を及ぼします。こういったコロナによる二次被害防止、新たな健康づくりにおいても、ラジオ体操第3を活用していただけたら。第1、第2などと組み合わせて行うとさらに効果的。運動に選択肢があることも飽きずに継続できるコツです」と安西先生。

 

新型コロナウイルスという経験したことのない感染症、それによって強いられる事態を70年以上前の体操が手助けしてくれるとは。今の状況の改善だけでなく、心身の健康や将来に向けて、販売中のDVDはもちろん、龍谷大学の学生さんや一般の方が「やってみた」動画も参考に、ラジオ体操第3を習慣にしませんか。

院内学級が大海原に!関西学院大学による5G時代に向けた遠隔教育の実証実験

2020年4月28日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

「魚になったみたい!」と歓声をあげる子どもたち。そこは海ではなく教室。そして頭にはVRのヘッドセット?

2020年春、本格運用が始まった「5G」を教育現場に導入するため、関西学院大学教育学部の丹羽 登教授を中心に実証実験が行われました。水中ドローン、VR、映像伝送装置などを活用し、なんと教室を水族館にしたとのこと。いったいどんな様子だったのかうかがってきたので紹介しましょう。

先端技術活用の最先端をゆく院内学級

5Gとは、ご承知の通り、移動通信システムの第5世代モデルで、高速大容量、多数同時接続、低遅延が特徴。暮らしやビジネスに変化をもたらすといわれています。

 

その中で大きな期待が寄せられているのが教育への活用。文部科学省も「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」をまとめ、推進しています。

 

今回の実証実験は、文科省の方針も踏まえ、関西学院大学の丹羽先生と富士通株式会社が連携して行いました。

にこやかに取材にこたえてくださった丹羽先生

にこやかに取材にこたえてくださった丹羽先生

 

内容は、病院内の学級と水族館を5G通信でつなぎ、遠隔授業を行うというものです。

 

「私は文科省の調査官として、学習指導要領の改訂等の仕事に携ってきました。教育現場での先端技術の活用については、学習指導要領で示されている取組みを先行して実証実験していく必要がありますので、学校に提案をしました」という丹羽先生。では、なぜ特別支援学校を選ばれたのでしょう。

 

「病気や障がいなどで通学、外出が困難な子どもは、学習の基礎となる体験が不足しています。そこで、5GやVRを活用して、間接体験や疑似・仮想体験をさせてあげることが目的です。それに、病弱の特別支援学校は先端技術を活用した教育で一歩も二歩も先を進んでいますからね。というのも、院内学級や病床から授業を受けるには、パソコンやタブレットが必須。昨今、よく導入されているビデオ会議のアプリ・Zoomも随分前から活用していますよ」

 

院内学級が技術の最先端を走っていたとは。ただ当然ながら、なかなか外に出る機会のない院内学級の子どもたちにとって、パソコンやタブレットは外とつながるため、私たち以上に必要不可欠なもの。「今回の取組みは、一般の学校だけでなく、企業よりもシステム環境が遙かに整っており、実証実験がスムーズに進められました」と丹羽先生が語る理由にも納得です。

目の前にサメが!「うわっ」と子どもたちが大興奮

実証実験は2校で行われました。まず行われたのが、神奈川県立こども医療センター内にある横浜南養護学校と八景島シーパラダイスをネットで結んだ遠隔授業。日本財団が提供する海洋問題の学習イベント「Virtual Ocean Project」と連携し、海洋調査などで使用される水中ドローンに360度カメラを搭載して水槽内を撮影。それを富士通の映像伝送装置・IP-HE950を使って院内学級のビジョンにリアルタイムで映し出すのですが、水槽の目の前にいるような美しさと臨場感に子どもたちも教員の方も驚いたとか。

水中ドローンの映像を生中継

水中ドローンの映像を生中継

 

しかも、映像にVR技術を組み合わせることで、子どもが水中ドローンを遠隔操作できるというのです。さっそく一人の子どもがバーチャルリアリティヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)を装着。すると、目の前には水中ドローンの操作パネルが! 潜水船に乗っているかのように、右、左、上、下と水槽内を航行できるというからビックリです。

“操縦士”の子どもが見ているVRHMDの映像は大きなディスプレイにも映し出され、他の子どもも360度その映像を一緒に見ることができます。「もっと上を見せて!イワシの大群に突っ込んでいけ~と、まわりの子どもも大盛り上がりでした」と丹羽先生。

東京都立光明学園そよ風分教室での様子。多くの子どもたちが期待を胸に集まった

東京都立光明学園そよ風分教室での様子。多くの子どもたちが期待を胸に集まった

大水槽が教室に再現された

大水槽が教室に再現された

 

2回目の実証実験は、国立成育医療研究センター内にある光明学園そよ風分教室と、沖縄県の美ら海水族館を5G通信で結んだ遠隔授業。

 

飼育員がジンベイザメの生態を解説し、4Kの高精細映像で餌やりを生中継したのですが、こちらも映像・音声共に鮮明。さらにダイバーや水中ドローンが撮影した水槽内映像をVRHMDで見ると、魚やダイバーになったみたい!と子どもたちは大喜びだったそうです。

システム構成

システム構成

 

丹羽先生のご厚意で筆者もVRHMDを装着させてもらうと、映像がリアルで水槽というよりも本当の海中にいるみたい。上を見ると水面がキラキラ、下を見ると水槽の下まで見えて吸い込まれそうです。悠々と泳ぐジンベイザメを下から見たり、上から見たりもでき、こちらに向かってきたジンベイザメの大きさと迫力に思わず体をそらしてしまいました。

筆者、水中散歩中。ジンベイザメやエイが目の前を通り過ぎていきます

筆者、水中散歩中。ジンベイザメやエイが目の前を通り過ぎていきます

質の高い遠隔授業、VR体験学習があたりまえに

2回の実証実験の成果や子どもたちの様子はどうでしたかと聞くと、「子どもがすごい!キレイ!と喜んでくれたのを見て、実証実験は成功したと思いました。この日を楽しみに体調管理をしたり、投薬時間を調整したりして、大半の子どもが出席してくれたこともうれしかったです」と、にこやかな笑顔を一段とほころばせて語る丹羽先生。進化した技術にも手応えを感じたそうです。

 

「映像や音声が乱れたり、遅れたりすると、見る、聞く、理解することに相当の集中力を要するため、病院内の学級での遠隔授業の課題になっていたのですが、5G通信は美しい映像と鮮明な音声、それらに遅延がほとんどなく、より質の高い遠隔授業を実践できると思います」

 

確かにパソコンなどの映像の乱れ、音声の遅れは大人でもイライラするもの。クリアな映像・音声は、子どもたちの心身への負担軽減にも役立つとはすばらしいですね。

 

「病院内の学級では感染防止のため生物の持ち込みが厳禁なので、VR技術を使ってリアルに体験できる理科の実験や生物観察を進めています。また、子どもの分身ロボットを病院内の学級や休学中・復学予定の学校に“出席”させて、授業を受けることも始まっています。もちろん、これらにも5Gなどを活用すれば、さらにクオリティを高めることが可能です」

 

SF映画やアニメで観た未来の学校が現実になっているなんて、一般の子どもにも刺激を与えてくれるはずです。

 

今回の取材にオンラインで参加してもらった富士通株式会社戦略企画本部5G/ICTビジネス推進室の笛田航一さんは「当社の技術で喜ぶお子さんたちを見てうれしく思いました。また、時間や距離、場所などの制約に関わらず、技術が使えることを実証できたので、当社のローカル5Gも活用し、事業を展開していきたいです」と話しました(こういったWEB取材も一段と定着していくのでしょうね)。

 

先端技術を通じて誰もが平等に学習・体験をできることは、「関西学院大学でも推し進めているSDGsの目標達成(目標4 質の高い教育をみんなに)にもつながると思います」と丹羽先生。

 

バーチャルリアリティは何だか別世界のことのように感じていましたが、今回の成功と「技術が高度になるほどシステムはシンプルに、誰もが使える身近な存在になる」という丹羽先生の言葉にハッとしました。病院内の学級はもちろん、多くの人を豊かに、便利にしてくれるよう、先端技術がもっとあたりまえになることを願うのでした。

世界初!京都大学にリユースぬいぐるみの「SDGs巨大オブジェ」登場!

2020年4月9日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

おウチに眠っている「ぬいぐるみ」。捨てるのは気が引けるけれど、なんとかしたいですよね。そんなぬいぐるみたちに新たな価値を与えるプロジェクトが京都大学でスタートしました。このプロジェクトでは、世界中で推し進められている「SDGs(持続可能な開発目標)」の一環として、使われなくなったぬいぐるみで巨大オブジェをつくり、リユースを呼びかけます。このリユースのぬいぐるみでつくる巨大オブジェというのは、なんと世界初なのだとか。世界初と聞いては、取材しない手はありません。オブジェがお披露目される3月12日に、京都大学にうかがいました。

SDGsのロゴ・カラーとぬいぐるみが連動

今回のぬいぐるみリユースプロジェクトのメインメンバーとして携わるのは、浅利美鈴先生(大学院地球環境学堂准教授)と、SDGsの推進やエコ活動に取り組む「エコ〜るど京大」という学生サークルのメンバーです。

 

お披露目される京都大学百周年記念時計台前に到着すると、メンバーたちが赤、青、黄と色分けされたぬいぐるみの入った透明のキューブボックスをいくつも運んでいました。これがオブジェに? と不思議に思いつつ、作業を見ていると、ついに全貌が。ぬいぐるみの入ったキューブボックスがSDGsのマークになりました。

 

SDGsでは17の達成目標が設定されていて、それぞれにキーカラーがあります。今回、キューブボックスのなかには、キーカラーごとに色分けされたぬいぐるみが詰まっていました。各キューブボックスは一辺60センチの立方体で、かなり巨大! 積み重なるとすごい迫力です。通りかかる他の学生も思わず足を止めて見ていました。

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学生たちが次々と運んでくるキューブボックスが……

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SDGsのマークを表現する巨大オブジェに!

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ぬいぐるみたちは、SDGsの17ゴールのカラーにきれいに色分けされていた

可愛いぬいぐるみがリユース習慣のきっかけに

そもそも、なぜ、オブジェにぬいぐるみを使ったのでしょう。浅利先生にたずねると、「ほとんどのぬいぐるみが化学繊維、つまりプラスチックできているから」とのこと。

 

プラスチック製品は社会や生活の必需品ですが、プラスチックごみは自然にかえらず、半永久的に残ります。捨てられたプラスチックが、海を漂い汚染する海洋プラスチック問題や、未知なリスクを抱えるマイクロプラスチック問題など、プラスチックはさまざまな環境問題・社会問題の原因になっています。このプラスチックについて考えるきっかけをつくりたかったといのが、理由のひとつ。もうひとつは、「リユースをピーアールしたい」という思いがあったからだと、浅利先生は説明します。

 

循環型社会の実現に向けて、さまざまなシーンで3R活動が推進されています。この3Rというのは、ごみを減らすリデュース(Reduce)、繰り返し使うリユース(Reuse)、ごみを再利用するリサイクル(Recycle)の3つのRです。このなかでリユースは、身近で簡単にできるものの、リデュース、リサイクルに比べると認知・実践度が低いそう。そんなリユースの意識向上に、ぬいぐるみは一役買ってくれるのではないか。先生たちはそう考えました。たしかに、ぬいぐるみは誰かに譲ればまた可愛がってもらえるわけで、リユースを伝えるには、ぴったりな製品なように感じます。

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オブジェの制作現場。ぬいぐるみリユースの呼びかけに、たくさんの人が応じてくれた

IMG_5951(Edited)

集まったぬいぐるみを、SDGsの17ゴールの色ごとに分けていく

たくさんの人の思いが詰まった巨大オブジェ

今回の巨大オブジェには、ぬいぐるみの回収やチャリティー販売などに安田産業株式会社と株式会社ecommit、ぬいぐるみの詰め方やカラー構成に京都芸術大学が賛同・参画。さらに、キューブボックスは川上産業株式会社から無償提供されたとのこと。川上産業は、ストレス解消にもひと役買うプチプチ®の製造を行う会社で、同社のプチプチ®はなんとリサイクルができるのだとか!?

 

「今後、巨大オブジェは、周辺の商業施設や小中学校での展示を予定しています。多くの人に見てもらうことで、リユースに関心を持ち、習慣にしてほしいですね。もちろん、使ったぬいぐるみはチャリティーオークションや寄贈することでリユースしていくつもりです」と、浅利先生。

 

このプロジェクトで学生たちをまとめた「エコ〜るど京大」の久保さんは、「色分けには苦労しましたが、こうして展示すると、ぬいぐるみを提供してくれた方、協力くださった方の思いが伝わるものができたと思います」と、オブジェの出来映えに満足な様子でした。

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「エコ~るど京大」の久保さん

 

リユースぬいぐるみのオブジェは、京都大学で3月に開催予定だった「第3回《超》SDGsシンポジウム&博覧会『プラスチックと持続可能性』」で展示する予定でしたが、新型コロナウィルスの影響でイベントは7月に延期に。7月のイベント開催に合わせて「エコ〜るど京大」では、ぬいぐるみ回収を呼びかけるようなので、ぜひ押し入れに眠っているぬいぐるみがあれば、これを機に起こしてあげてはいかがでしょうか。最後に、今回の一連の取り組みの動画があるのでご紹介。これを見たらプロジェクトの全貌がわかります!

 

教育とは科学である。学校と先生の最前線を教えてもらった!

2020年3月10日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

今、教育現場では、科学的な視点がどんどん取り入れられているようです。そんな教育の最前線をはじめ、先生という仕事の魅力について教えてくれる、佛教大学通信教育課程(以下佛大通信)主催の講演会が開催されたのでうかがってきました。

データが学校の勉強にもスポーツにも役に立つ

講演会のテーマは「『先生』という仕事の魅力 —教育学入門—」。講師は佛教大学副学長・教育学部教授の原清治先生です。講演会は、佛大通信の魅力、学校や先生の現状の話からスタートしたのですが、原先生のよく通るバリトンの美声にびっくり。聴講者の間を動き回ったり、身振り手振りを交えたり、テンポも間も抜群なのです。

 

「先生という仕事もそうなんですが、人前で話す内容はもちろん、話す人間が魅力的じゃないと、聞く側はしんどいですよね。私の話、どうですか? おもしろいでしょ。それは私が魅力的な人間だからです! ハイ、ここ笑うところ」と、ユーモアもたっぷりで、会場は瞬く間に原ワールドに引き込まれていきます。

 

原先生の話ぶりは、長年の経験によって培われたもので、新米の先生にはなかなかできることではありません。以前の教育現場なら、話し方をはじめ、各教科の指導法は「ベテランの先生の技を見て盗め」でしたが、今、それが変わりつつあります。データ分析などエビデンスに基づく科学的な視点に立った指導法を先生同士で共有・活用するようになってきたのです。

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聞きやすくて面白い原先生の話についつい引き込まれてしまう。

 

「教育とは科学です」と原先生。内田良先生が分析された中学・高校の主要部活動で過去に発生した死亡事故のデータを例に挙げ、教育=科学であることを説明します。データによると、主要部活での死亡生徒数が最多なのは柔道部で、亡くなった生徒のほとんどが1年生、時期は4月〜6月に集中していることがわかりました。

※内田良:名古屋大学准教授。著書に『柔道事故』(河出書房新社,2013)など

 

ここから読み解けることは何か? 原先生の質問に、柔道経験者の聴講者が挙手して「柔道を始めたばかりで、受け身ができていないから」と回答。確かに受け身の習得どころか、それすら知らない初心者をいきなり投げてしまっては大変危険です。

 

「このデータを取ったことで、はじめにしっかり受け身を教えたり、頭部を守るプロテクターを着けたりと、死亡事故を防ぐために何をすればいいかがわかり、学校現場で対策がとれるようになりました」

 

また、原先生は、跳び箱を飛べない生徒を飛べるようにするにはどうすればいいのか、できない理由と指導法を科学的に検証した事例も教えてくれました。

 

「跳び箱の指導が上手な先生と、指導して間もない先生にアイカメラを装着して視線を分析しました。すると、指導歴の浅い先生は飛べない生徒の手をつく位置しか見ていません。一方、指導の上手な先生は手のつく位置や踏み切り板の使い方など全体を見て教えていることがわかりました。これにより、跳び箱を教えるには、どこに注意してどう指導すれば飛べるかがわかってきたのです」

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当日、会場には100名を大きく超える聴講者が。原先生のファンという人もちらほら。

科学の力を身につけた先生が教育と子どもの未来を担う!

科学の力によって改革が進む教育現場ですが、今、大きな問題を抱えています。それは学校の先生になりたい人が減少傾向にあることです。2019年の公立小学校の教員採用試験の競争率は過去最低となる2.8倍だったといいます。

 

「長時間労働をはじめ、学校=ブラックといったイメージが蔓延していることが原因のひとつです」と、原先生は嘆きます。

 

先生のなり手が減ると、質の高い先生を採用できなくなり、教育そのものの質が低下しかねません。これは、私たちにとって無視できない問題です。先生たちの指導力を下げないためにも、「エビデンスに基づいた指導」の確立が大切だと原先生は考えます。

 

筆者はこの講演で初めて原先生に教えてもらったわけですが、おもしろくて吸い込まれるような伝え方、会場からのどんな質問や意見に対しても「それはいいね」と受け止めてくださる姿勢にすっかり魅了され、「こんな先生に出会いたかった」と悔しくなったほどです。

 

原先生は佛教大学でたくさんの先生の卵を育てていらっしゃいます。原先生のような情熱と、教育=科学の力を身につけた学生さんたちがどんどん巣立っていけば、学校も社会ももっと良くなると思いました。

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会場に並ぶ、原先生監修の書籍。『新しい教職教育講座 教職教育編』、『新しい教職教育講座 教科教育編』(共にミネルヴァ書房)

 

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