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世界の大学!第5回 :シドニー大学、マット・ショアーズ博士の「上方落語研究物語」

2020年5月21日 / コラム, 海外大学レポート

上方落語――大阪や京都など関西で行われる落語のことである。不特定の人々を前に滑稽な噺を聴かせて金銭を得る、今の落語家に通じる人々が現れて名を成したのは元禄時代。京都、江戸、大坂とほぼ同時期に出現したが、京都が最も早かったので、落語家の歴史は上方からスタートしたとも言える。京都の北野天満宮や大阪の生國魂神社に行くと上方落語の祖たちの碑が建っている。

 

ところかわってオーストラリア、シドニー大学。現在その人文学部で准教授を務めているのがマット・ショアーズさんである。シドニーに移る前は、イギリスのケンブリッジ大学の助教授だった。出身はアメリカ合衆国オレゴン州だ。

 

マットさんの研究対象は落語、特に上方落語である。大学では伝統芸能やユーモアに関する講義を行っている。さらに日本で落語の修行経験もあるという。

 

上方落語を主題的に扱っている研究者はそれほど多くはなく、日本国外となるとさらに珍しいだろう。アメリカで育ったマットさんが上方落語に関心を持ち、修行まで行なうことになったきっかけとは何だったのか?イギリスやオーストラリアを拠点に、どんな研究を進めているのか?さらにオーストラリアは、近代日本の落語、さらには芸能やメディアにとって重要な役割を果たした、とある人物が生まれた地であり、そのことも尋ねてみたい――落語好きの筆者は、シドニー在住のマットさんに遠隔でのビデオ取材を行った。

 

新型コロナウイルスをめぐる問題は、残念なことに落語界にも影響を及ぼしている。落語会は次々と中止・延期に追い込まれ、寄席も休館となった。「落語に関する楽しい話題を提供できれば」と取材に応じてくださったマットさんは、さすが落語の専門家、立て板に水とも言うべき生き生きとした日本語で、研究や修行のことをたっぷりと語ってくれた。

落語を演じるマット・ショアーズさん

落語を演じるマット・ショアーズさん

落語との出会い――帝塚山大学、そして四天王

「学部はアメリカのポートランド州立大学に通っていました。尊敬する先生がいて、その人が日本の芸能の専門家・ローレンス・コミンズ先生でした。先生から歌舞伎や狂言のことを学んで、一緒に英語歌舞伎を作ったこともあります」

 

大学で狂言や歌舞伎を学んだマットさんだが、学部時代には「Rakugo」なる言葉は一度も耳にしなかったそうだ。今から20年ほど前、2000年ごろのこと、「欧米の大学では落語はあまり研究対象ではなかったからではないか」と言う。落語と出会ったのは、日本に留学してからだった。

 

「日本文化を学ぶため、奈良の帝塚山大学大学院に留学しました。そこで芸能研究者・森永道夫先生の研究室に入ったんです。一緒に酒を呑むことも大事な研究活動という先生で(笑)。あるとき先生から『面白い人を紹介するので温泉に行きましょう』と言われて、温泉地で呑んでました。そこで優しい感じの、一人のおじさんを紹介されまして。名前も聞いたはずですが、そのときはよくわからず、覚えられませんでした」

 

大学院の先生の紹介で出会ったこの「おじさん」こそ、上方落語界の四天王の一人と言われる名人だった。

 

「その後、森永先生に誘われて大阪の落語会に行く機会がありました。2002年9月8日、初の落語体験です。そこで、森永先生が『マットくん、覚えてる?あの落語家が、温泉で会った人だよ』と。五代目桂文枝師匠でした」

 

明治、大正と絶大な人気を誇った関西圏の落語だったが、人気落語家の相つぐ逝去や近代漫才の台頭もあって陰りを見せ、第二次大戦後にはわずかな数の落語家が残るのみだった。

五代目桂文枝は、そうしたなかで、三代目桂米朝、六代目笑福亭松鶴、三代目桂春団治らとともに上方落語の復興を支えた。この4人はいつしか「上方落語四天王」と呼ばれることになる。

 

「客席は笑いの渦でした。ドカンドカンとウケている。ところが私は、日本語を5、6年勉強していたのに、文枝師匠が何の話をしているのか、ほとんど理解できませんでした。落語はたいてい、本題に入る前のマクラがあり、本題があり、最後にオチがあるという構成ですが、私はマクラの冒頭の軽い挨拶(前置き)くらいしかわからなかった。すごく悔しかったんです。『この芸を理解したい』『理解できたら面白いはずだ』と思って、落語の勉強をしようと決めました」

シドニー大学の研究室にて、マット・ショアーズさん

シドニー大学の研究室にて

落語の修行――2人の師匠

落語研究をスタートさせたマットさんは、落語家の見習いも始めた。

 

「文枝師匠のもとで見習いをさせてもらえることになりました。芸名は加登利千光満津都(かとりせんこうマット)。2002年から2004年まで、師匠の晩年です。住み込みではなく、用事を頼まれたとき楽屋に行ってお手伝いしたり、遠征のお供をしたり。

当時師匠は大阪に、私は奈良に住んでいました。ときどき師匠から電話がかかってきて、

 

『マットくん、大阪これる?』

『はい、いますぐ準備します!』

『あ、いや、今じゃなくてな、週末なんやけど』

 

本当にあたたかい、優しい師匠でした」

五代目桂文枝師匠と(東京文枝の会にて、2003年ごろ)

五代目桂文枝師匠と(東京文枝の会にて、2003年ごろ)

 

マットさんはその後、2010年から2年間、四代目林家染丸師のもとで修行を行った。染丸師は、寄席のお囃子に関する書籍も出している、研究肌の落語家である。

 

「毎日染丸師匠の自宅に行って、買い物や炊事、着物のケアをし、運転手もしました。『染丸』のように『マット丸』とか、そんな芸名を期待してたわけですが、玄関真人になりました。玄関マットです(笑)。師匠曰く、

 

『今は玄関真人。頑張ったらトイレ真人や』

『それは、なぜです?』

『うちは玄関入って二階に行くとトイレがある。上にあがっとるやろ』」

 

染丸師から稽古をつけてもらったこともあるマットさんに、得意な演目は?と質問すると、次のように答えてくれた。

 

「落語家は師匠に稽古をつけてもらい、許可を得てから人前でネタおろしをするのです。私が許可を得ているのは一つだけ。それ以外は、教育目的で勝手に行っているだけという考えです」

 

「だから、得意と言えるような噺はありません」と落語界の流儀を尊重する。許可を得た一つだけの噺は「酒の粕」だそうだ。

 

「ある時、東京大学で留学生相手に日本語と英語で交互に落語を演じるという初仕事が来ました。染丸師匠に相談したら『酒の粕』はどうやと。酒粕を食べて酔っ払った男についての短くてバカバカしい噺です。

その稽古中、師匠は『英語で聞かせてくれるか?』って。英語の落語を、目を閉じながら聞いてくれていました。噺が終わると『しかし君、…英語うまいな』と(笑)。

『酒の粕』には喜六(きろく)という名前の男が出てきますが、師匠は『英語だとKirokuは響きが悪い。Kikiに変えたらどうや』。なんだかセキセイインコみたいな名前になったんですが、本番ももちろんKikiにして演じました」

染丸師匠(左)と。右は染丸師匠の8番弟子、林家染左さん(ワッハ上方のレッスンルームにて、2011年ごろ)

染丸師匠(左)と。右は染丸師匠の8番弟子、林家染左さん(ワッハ上方のレッスンルームにて、2011年ごろ)

上方落語の研究者として

修行中を振り返り、「半分弟子、半分研究者」のようだったとマットさんは語る。間近で見る師匠の芸は、研究にとってこの上ない事例だっただろう。しかし上下関係が厳しい落語界に入り、師弟の関係となることで、むしろ研究対象である落語や落語家と距離を保つのが難しくなることはなかったのだろうか。

 

「弟子入りの前に文献などを通して客観的な視座を身につけていたことで、研究の客観性は維持できたと思います。また、日本以外の国や学界において、英語で落語を紹介し広めるという自分の役割も常に意識していました」

 

こうして文献と修行の双方を通して研究を進めていったが、落語の学術的研究は数が限られていたし、扱う対象にも偏りがあったようだ。

 

「英語で書かれた落語の研究書が1990年に出ていました(※1)。でも、いくら読んでも師匠の落語とは違うんですよ。『東京の落語』を念頭に書かれた本だったからです」

 

東京落語と上方落語は、道具、演目、階級制度の仕組みなど、異なる部分も少なくない。マットさんは「派手さ」の違いに触れる。

 

「東京と比べ、上方落語は派手で陽気です。噺の途中に演出としてハメモノ(鳴り物)が入ってきたり音も多い。着物も、東京では比較的渋い色が好まれますが、上方では紫やピンクなど、色とりどり。高座(舞台)に登場するときの歩き方からも陽気な雰囲気が伝わってくると思いますね」

 

江戸・東京の落語はお座敷という屋内空間を中心に発達したのに対し、上方落語は往来での興行だったため、行き交う人の注意をひく派手な芸になっていった、とも言われる。

マットさんは、東京落語中心だった落語研究の領域に、上方落語の研究で切り込んでいった。

 

「関心を持ったのはハメモノがふんだんに使われ、他の芸事もとり入れた落語。そして特に商人が出てくる噺の研究です。例えば『蛸芝居』という演目。舞台は大阪の商家で、旦那から丁稚までみんな歌舞伎好き。何をするにも役者の真似して、掃除ですら芝居がかっている。あげく、魚屋から買った『蛸』まで芝居をやり始めるという噺です。

これも東西落語の違いの一つだと思いますが、上方では商人中心の噺が多いです。しかし、そこに登場する商人・奉公人たちは、いわゆる『商人気質』――勤勉で、節約家で、悪所を避ける――とは逆のことをするんですね。無責任で、欲に勝てず、すぐお茶屋や芝居小屋に行ってしまう。こういう、商人に対する一般的なイメージと落語に出てくる商人との矛盾が生み出す、上方落語における滑稽さやユーモア、風刺の問題を扱った本を、近々出版予定です(※2)」

オーストラリアと落語の不思議な関係

ここで、落語好きの筆者は、手持ちの落語関係資料から、一枚のレコード盤を取り出し、画面越しでマットさんにお見せした。

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「おお、これは本物ですか?」――マットさんにお見せしたのは、1903(明治36)年、イギリスで働いていた録音技師フレッド・ガイスバーグが来日して制作した、日本最初期のレコードのうちの一枚。上の写真は、夏目漱石の『三四郎』にもその名が登場する落語家、三代目柳家(屋)小さんのレコードである。が、今回尋ねたかったのはこのレコードの中身ではなく、一連のレコード制作にあたって、ガイスバーグと日本の芸能人たちとの仲介・通訳を務めた、とある人物についてである。

 

「ヘンリー・ブラックについてですね。彼は1858年オーストラリアで生まれ、1865年、横浜で新聞記者・編集者をしていた父の後を追って日本へ行き、1891年から快楽亭ブラックの名で噺家として活動していました」

 

明治時代の日本で芸人になり、歴史に残る録音セッションに携わったオーストラリア出身の快楽亭ブラック。マットさんが住むオーストラリアは、ある意味で、近代落語の幕開けにもつながる場所、というと強引だろうか。

ところで、この快楽亭ブラックは、オーストラリアでよく知られた人物なのか、尋ねてみた。

 

「ちょうど先日、鹿鳴家英楽さんが、シドニーで英語落語会を開きました。英楽さんがブラックの写真をお客さんに見せて、『この人、知っていますか?』と。お客さんはほとんど誰も知りませんでした(※3)。オーストラリアにそんな人がいたんだねって、驚いていました」

 

そもそも、オーストラリア(やイギリス、アメリカ)では落語自体がそこまで認知されていないそうだ。

 

「大学でジャパノロジー(日本学)をやっている教員なら落語を聞いた経験もあるでしょう。学生たちも、マンガの『昭和元禄落語心中』から興味を持つ人が増えています。でもそれ以外の人は、教育、交流目的で行われる英語落語のイベントなどで落語を聴いたことがない限りほとんど知らないでしょうね。残念ながら日本といえば日本車・電気製品、という感じに思う人もまだまだ多いですから」

海外で落語を広める

落語は欧米において、外交や社会教育の一環で紹介される機会もある。しかし話し言葉を軸とする芸で、時代背景も江戸~昭和初期が多い。日本国外での上演は一筋縄にはいかなそうだ。

 

「爆笑王、桂枝雀師匠が得意とした英語落語という方法はありますね。ただし、英語を使って『こんな芸が日本にあります』という紹介に留まるのでは、魅力は伝わりにくい。私は、英語を使う落語家の方々には『英語落語の名人』をめざして欲しいと思っています。例えば枝雀師匠は、必ずしもネイティブのような英語を話すわけではありませんでしたが、しかし英語であっても『つかみ』や『間のとり方』などが素晴らしく、外国語を使っていることを忘れさせるような名人芸でした」

 

一方で、落語は視覚的要素も大切だ。

 

「『動物園』や『尻餅』のような仕草の多い落語は海外で人気です。コミカルな仕草が多いと、日本語で、しかも字幕なしでやっても結構ウケています。これはこれでいいんですが、ハメモノなどの入った大ネタもぜひ挑戦していただきたいですね」

 

今後マットさんは、研究者、教育者として「落語をもっと広めていきたい」と語る。その言葉には強い意志が感じられた。

 

「いまでも欧米の学問世界では、落語は研究対象としてちゃんと認識されているわけじゃありません。日本を語るとき、やはり古今和歌集や源氏物語のような価値の定まった古典が真っ先に参照されます。

それから、『落語は演劇なの?文学なの?』と聞かれます。欧米の基準では、落語は既存のカテゴリからはみ出すわけですよ。そして内容も不真面目で下品だと思われてしまうところがある。

でも私にとって落語はとても重要なんですよね。森永先生や文枝師匠に出会わなかったら、染丸師匠がいなかったら、今の私は存在しないでしょうしね。私は落語研究を続けますよ。研究を発展させて、落語家を招待して、世界に落語を広めていくのは自分の使命だと思っていますので」

高座でのマットさん。オレゴン州の実家で造った衝立(「膝隠し」)と机(「見台」)が設置され、拍子木も置いてある。上方特有のスタイル

高座でのマットさん。オレゴン州の実家で造った衝立(「膝隠し」)と机(「見台」)が設置され、拍子木も置いてある。上方特有のスタイル

 

注―――

※1. Heinz Morioka and Miyoko Sasaki, Rakugo: The Popular Narrative Art of Japan (Cambridge: Harvard Council on East Asian Studies, 1990)

また、2008年には新しい東京落語研究の洋書が出ている。Lorie Brau, Rakugo: Performing Comedy and Cultural Heritage in Contemporary Tokyo (Lanham, MD: Lexington Books, 2008)

 

※2. M.W. Shores, The Comic Storytelling of Western Japan: Satire and Social Mobility in Kamigata Rakugo (Cambridge University Press)[『西日本の滑稽話芸-上方落語における風刺と社会的移動』、ケンブリッジ大学出版から出版準備中]

マットさん初の単著。早ければ今年中に出版されるという。なお、マットさんが日本語で書いたものとしては、「落語は海外にどう見せるべきか」(早稲田大学演劇博物館・2016年度秋季企画展 図録『落語とメディア』所収)という論考がある。

マットさんの近況やこれまでの業績についてはウェブ・サイトやTwitterも参照してほしい。

・ウェブ・サイトURL: mwshores.com

・Twitter:@mw_shores

 

※3.このとき、マットさんのオーストラリアの友人で、作家・ジャーナリストのイアン・マッカーサー博士も一緒に高座を聴いていたそうだ。マッカーサーさんのライフワークとも言える研究テーマは快楽亭ブラックについてであり、もちろんブラックのことは知っている。マットさんが「ほとんど誰も」と言ったのはそのためだ。マッカーサーさんは2013年にブラックをテーマにした本〔Ian MacArthur, Henry Black: On Stage in Meiji Japan (Clayton: Monash University Publishing, 2013)〕を出している。日本語で読めるものとしては、イアン・マッカーサー著『快楽亭ブラック』(内藤誠・堀内久美子訳、講談社、1992)という伝記本もある。

 

科学・芸術・遊びの境界を揺さぶるミニチュア宇宙線モニタの開発秘話

2020年3月3日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

2月14日、Twitterにこんなツイートが投稿され、バズった。

 

 

果たして、これは何?

 

この素朴な質問を抱えて、ツイートの投稿主である、理化学研究所の理研白眉研究チームリーダー、榎戸輝揚さん(X線天文学/高エネルギー大気物理学)にインタビューを敢行した。

理研の榎戸さん

理研の榎戸さん

宇宙から到来する粒子に反応する、「おもちゃ」

まず、これは何であり、何がどうなって光っているのだろうか?開発した榎戸さんは、手のひらに収まるモニタの実物を持ちながら装置の仕組みを語ってくれた。「これは宇宙線モニタです。宇宙線があたると光る、特殊な、透明な物質、結晶シンチレータが内部に入っています。その結晶シンチレータからの弱い光をセンサーで検知して、LEDを光らせるという仕組みです」。

手のひらサイズの宇宙線モニタ。電源をオンにして使う

手のひらサイズの宇宙線モニタ。電源をオンにして使う

中身。「試作段階なのでまだ改良予定です」とのこと

中身。「試作段階なのでまだ改良予定です」とのこと

 

宇宙線。コズミック・レイ。それは宇宙空間を飛び交う放射線で、地球にも高速で到来してくる。大気圏に突入してきた宇宙線は、大気中の窒素や酸素などの原子核とぶつかって核反応を起こし、大量の粒子を生み出して、見えないシャワーのように地上に降り注ぐ。「この宇宙線のシャワーを二次宇宙線と呼びます。宇宙空間を飛んでいる一次宇宙線の、子どもたちみたいなものです」。宇宙から来ていると聞くと不思議な気分になるかもしれないが、「普通の自然現象です。人体への害も、特に心配する必要はありません」。

宇宙線が来た

宇宙線が来た

 

インタビュー中も、時々思い出したようにLEDがビカビカ光り輝く。そんななか榎戸さんは続ける。「宇宙線は、地上から上空に行くと、ある高さまでは量がだんだん増えていきます。1936年にヘスという物理学者が発見してノーベル賞を取りました。僕らが普段生活している、建物の内部や地下室にも結構来ていますよ」。確かに、また目の前で光っている。

 

飛行機に持ち込むと地上よりも頻繁に光る。ある高さまでは宇宙線量がだんだん増える、というのがよくわかる

飛行機に持ち込むと地上よりも頻繁に光る。ある高さまでは宇宙線量がだんだん増える、というのがよくわかる

 

とても身近な宇宙線。普段は目に見えないが、LEDを点滅させて人間にもわかるようにしたのが、このモニタだ。

 

というと、これは、榎戸さんの調査研究で使われている最新の観測機器か何か?とも思い用途を尋ねた。しかし、榎戸さんは言う。「このモニタはおもちゃとして作りました」。

 

さらに続ける。「この装置自体は、珍しいものではありません。物理学をやっている人なら誰もが触れたことのあるような装置の一種。でも、それをただ光ってるだけの『おもちゃ』にする人はこれまでいませんでした」。

 

ただ光っているだけのおもちゃ――。何か他の目的を達成する手段として価値を持つものを道具と呼ぶとすれば、対極的な価値を持っているのがおもちゃだ。それは、何かの役に立とうと立つまいと、ただ動かして眺めているだけで楽しい。実際このモニタを見ているうちに、私たちの都合などお構いなしに光る、その偶然のリズム自体が面白くなってくる。

 

このモニタ自体の使いみちを尋ねたのは無粋だったかもしれない。しかし今度は、光るだけのおもちゃを作ろうと思ったその動機が気になってくる。

「本格的な実験に使おうと思えば転用も可能ですが、今回のモニタはおもちゃ、遊びのようなものです」と榎戸さん

「本格的な実験に使おうと思えば転用も可能ですが、今回のモニタはおもちゃ、遊びのようなものです」と榎戸さん

 

外を覆うケースには100円ショップのお風呂用ライトの容器を用いたという、このモニタ。榎戸さんの狙いはどこにあるのだろうか。

科学をゲームする

もともと宇宙の研究をしていた榎戸さんは、宇宙観測の技術を応用すると、雷や雷雲を研究できることに気づいた。雷も雲も馴染み深いものだが、わかっていないことがたくさんあるという。例えば、雷が何故発生するのか、雷雲の中で何が起こっているのか。榎戸さんたち研究チームはクラウドファンディングで研究資金を確保。雷が大気中で原子核反応を起こすことを突き止め、2017年に『ネイチャー』誌で論文を発表するなど、研究を進めてきた。

 

榎戸さんらが進める雷雲の研究プロジェクトのサイト:https://thdr.info

 

研究プロジェクトの概要がわかりやすくまとめられた動画も公開中。榎戸さんも出演している

研究プロジェクトの概要がわかりやすくまとめられた動画も公開中。榎戸さんも出演している

 

謎多き雷だが、雷雲の内部で、電場と宇宙線が相互作用して強い放電を手助けしているのではないかとも言われている。「そうしたことを明らかにするには、多地点での観測が大切です。でも、研究者が一箇所ずつまわって観測装置を置いていくのは限界があります」。

 

そこで榎戸さんは市民と協働しての科学実験を重視する。「すでに地域の学校に装置を置いてもらうなどの協力は得ていますが、今後の夢としては、例えば1,000人に装置を配って、冬の雷雲のもとで宇宙線量の変動を調べるような実験もやってみたいんです。そのとき『科学の研究です』と言っても皆さんノッてきてくれないと思います。面白い、共感できる、楽しめるという要素が大切だと考えています」。

 

今回のモニタも、この構想と関係している。「物理研究のプロセスの一部分を切り出してゲーム化し、多くの人に参加してもらう科学のかたちがあってもいいのではないか。このモニタは、シンプルで親しみやすいおもちゃとして、そうした試みに関心を抱いてもらうきっかけになると思います。今は試作段階で、さらに小型化してブローチなどにするといったことも考え中です」。

 

ブローチのように…。少し想像して欲しい。あなたは、宇宙線をキャッチするブローチを付けて、夜の公園に向かう。電源を入れてしばらくすると、ブローチが輝きはじめる。宇宙線があなたの元に到来したのだ。ふと目をやると、近くのベンチに座っていた見知らぬ人物――私だとしよう――の胸もぴかぴかしている。"あの人も、宇宙線を捉えている…" ドラマが始まる予感しかしない。もし科学雑誌の付録に宇宙線モニタ組み立てキットがついていたら、買うしかあるまい。

アートプロジェクトやりませんか?

さらに榎戸さんは、他領域とのコラボレーションにも関心があるという。「実験とか調査とか関係なく、夜に光ってしゃべるとか、風呂に100個くらい浮かべるとか、機能を付けたりして色々できると思うんです」。

 

機能を付ける。もう一度想像して欲しい。あなたと私は宇宙線モニタを頭や胸に付けて、夜の公園に向かう。SNSで呼んだ同志も数名集まっている。電源を入れると、戦隊ヒーローかアイドルのメンバーカラーよろしく、色とりどりの光が放たれる。そして、各々のモニタからピーヒャラピーヒャラと陽気な音が鳴りはじめ、夜の公園にコズミックちんどん楽団が誕生する…かもしれないのだ。ついつい様々な想像を巡らせてしまうが、それも実用性には還元されない「おもちゃ」ならではの余白を持ったモニタだからだろうか。

 

最初のツイートにもあった通り、榎戸さんは、例えばアート作品とのコラボレーションを楽しみにしているという。宇宙線を用いたアート作品は既にいくつか存在しているが、作品の位置づけ方や表現の仕方には、まだまだ色々な可能性がある。「宇宙線自体はあくまで素材のようなものですから」と榎戸さん。「アートやデザインの専門家がこのモニタを使うことで、想像もしていなかった面白い表現が生まれるかもしれません。興味があったら、Twitterでダイレクトメールをください」。

「私自身が最終的に求めているのは、科学的なデータです」。と同時に「科学、アート、社会運動、色々なものが渾然一体となることにも興味がある」とも

「私自身が最終的に求めているのは、科学的なデータです」。と同時に「科学、アート、社会運動、色々なものが渾然一体となることにも興味がある」とも

 

いま榎戸さんは、京都のティーエーシー社と共同で、宇宙線に反応してボールが飛び出す装置も作っている。そのボールを、ライトセイバーのようなバットでかっ飛ばすという出し物として、2020年4月18日に理研の一般公開イベントでお披露目予定である(2020年度和光地区一般公開※詳細は3月下旬更新予定 https://openday.riken.jp/)。その他にも理研では、さまざまな公開の取り組みが4月以降どんどん盛んに行われる見込みとのこと。少しでも気になったら、理研のウェブサイトや榎戸さんのTwitterなどをチェックしてみてほしい。

世界の大学!第4回:ヒップホップで外交する。ターンテーブルで授業する。ノースカロライナ大学、マーク・カッツ博士インタビュー

2020年2月27日 / コラム, 海外大学レポート

今、最も人気と影響力のある音楽文化の1つ、ヒップホップ。発祥の地アメリカでは2017年に音楽消費のトップが「ヒップホップ・R&B」となり、初めて「ロック」を超えました(※1)。日本のアイドルがラップをするのも珍しくなくなりましたし、K-POPもヒップホップ抜きには語れません。

 

この現代を代表する文化・ヒップホップを独自の視点で研究しているのが、音楽学者のマーク・カッツ(Mark Katz)博士です。全米最古の州立大学であるノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)音楽学部の教授を務めています。

 

これまでカッツ氏は、ヒップホップを含むさまざまな音楽とテクノロジーの関係について研究し、ヒップホップDJの歴史書を出版するなどして話題を呼んできました。また、大学の授業で「DJプレイ」を教えているといいます。

 

カッツ氏はさらに、外国との関係を構築するためにアメリカのヒップホップアーティストと世界各地の若者との交流の機会を設けるアメリカ政府の外交プログラム「ネクストレベル(Next Level)」のディレクターを務め、世界中を飛び回ってきた経験を持っています。そして2019年には、その経験をもとに『ビルド――分断された世界におけるヒップホップ外交の力』を出版したばかりです(※2)。

 

「世界の大学!」シリーズ第4回目は、現代の音楽研究の先端を走る研究者の一人、マーク・カッツ氏へのメールインタビューを敢行。ヒップホップ外交の意義とは?DJの授業とは?気になる話題について語ってもらいました。

 

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マーク・カッツ氏と近著の『ビルド』[Photograph by Kristen Chavez]

 

――まず、これまでの研究について教えてください。研究テーマのどういった点に関心を持たれたのでしょう?

 

私の研究は主に、音楽テクノロジー、特に録音テクノロジーに焦点を当てています。私の仕事は、シンプルですが重要な観察がもとになっているんです。つまり、録音(recording)は単に記録する(record)のではないということ。録音は、それが記録するものに影響を及ぼすということです。

 

フォノグラフ(蓄音機)、CDプレイヤー、カラオケ、音楽ストリーミングといったテクノロジーは、私たちがどんな風に聴いたり、演奏したり、曲を作ったりするのかを左右します。これが、私の最初の本『音を捕まえる――テクノロジーはいかに音楽を変えてきたか』で書いたことです(※3)。

 

のちに出版した『グルーヴ・ミュージック――ヒップホップDJのアートと文化』では、スクラッチやミキシングといった、ヒップホップの要素として発展したテクニックの歴史と美学について掘り下げています(※4)。

 

――大学でもDJを実践する授業をしているそうですね。

 

ノースカロライナ大学チャペルヒル校で「DJのアートと文化」という授業を行っていますかなり専門的なコースのように思われるかもしれませんが、学生たちとたくさんの、幅広い重要なトピックを話し合うことができています。例えば、アートへのデジタルテクノロジーの影響だとか、起業精神の話題とか、性暴力について(というのも、DJが演奏する場であるクラブで、たびたび発生するからです)、そして音楽の歴史におけるLGBTQ(※5)コミュニティの貢献について、などです。また、この授業では音楽の作り方や選曲の組み立て方も学びます。学生たちは創作の機会を楽しんでいますね。

 

――ヒップホップと外交の関係を扱った新しい著書『ビルド』について教えていただけますか。

 

『ビルド』では魅力的な事象について考察しています。つまり、ヒップホップアーティストを、アメリカ政府代表で世界中を周る文化大使として起用するという事象です。この本の根っこにあるのは、人々を出会わせ、理解を促し、平和を促進するアートの力についての話です。

 

ですが、ヒップホップ外交はとても危ういものでもあります。やり方を間違えれば、ミュージシャンを搾取し、人々やその国を誤って表象し、不和の種をまく可能性があります

 

私はアメリカ合衆国国務省が設けたヒップホップ文化外交プログラム「ネクストレベル」のディレクターとしての経験をもとに、この本を書きました。ヒップホップ外交はコミュニティを築きあげ(build)、傷を癒す力がある。けれども、それはかなりの慎重さ、自分自身に関する知識、効果的な行動への注意力を必要とします。

チュニジアでのネクストレベルの活動。現地のDJと、ネクストレベルのメンバーであるDJ(右)がコラボレーション[Photograph by Mark Katz]

 

――今、さまざまなところで敵と味方の対立が作り出され、分断されていく状況が見られる一方、経済はグローバルな規模でつながっています。そうした時代に、ヒップホップ外交はどんな意義を持つのでしょうか?

 

ヒップホップは普遍的(universal)ではありませんが、しかし今、世界で最も普及しているアート、文化です。今日ヒップホップが重要ではない国はありませんし、ネクストレベルが訪ねた場所(30カ国以上)ではどこでも、ヒップホップを通じて人々が強いつながりを作り出せることを見てきました。

 

世界には(私のいるアメリカ国内にも)厳しい分断があり、人間はますます共通の土台を見つけるのが難しくなっていると思います。

 

異なる国、文化、宗教、人種などの人々が協力し得る一つの方法を、ヒップホップは示しています。だからこそ、ヒップホップ外交には非常に期待できると考えています。

ネクストレベルという外部の視点が介入することで、普段は接触しない人々同士が出会うきっかけにもなるという。写真はインドネシアでのプログラム[Photograph by Mark Katz]

 

――カッツさんは、ネクストレベルのディレクターとして、さまざまな地域を巡ってこられましたよね。何か印象に残っている出来事はありますか?

 

ネクストレベルの旅で、実にたくさんの意義深い体験をしてきました。それは小さな、個人的な瞬間のこともよくあります。例えば、お互い言葉が通じない人たちが、一緒にダンスをしたら友達になったのを目にしたときとか。ラッパーと、バングラディシュの民謡歌手が、知り合ってすぐに素晴らしい歌を即興で作ったこともありましたね。

 

ネクストレベルを通して、対立する集団が連携するようになったという状況に居合わせたこともあります。ウガンダでのことでしたが、いがみ合っていた2つのラッパーグループが、ネクストレベルのワークショップで一緒にやる機会を経て、互いにもっと理解し合うようになりました。

海外へ行くだけでなく、海外からもミュージシャンを招く。ノースカロライナ大学チャペルヒル校でのサイファー(複数人で行う即興ラップ)の様子[Photograph by Mark Katz]

 

――『ビルド』には、ヒップホップ外交というものの曖昧さや、「ヒップホップ」と「外交」との相容れなさのことも書かれています。ヒップホップ外交の難しい点はどういったところでしょうか?

 

2つの特に難しい点を挙げたいと思います。1点目は、訪れる場所や出会う人々のことを充分に知ることは決してできないなかで、相手を誤解しないように、相手の言葉や行動を間違って解釈しないようにするということです。こういうわけで、私はヒップホップ外交を「両義性の領域」と呼んでいます。

 

もう1つの難しい点は、自分たち自身に関する知識です。アメリカ人の多くは、自分たちの国と世界中の国々との関係についての歴史を知りません。アメリカ合衆国が、帝国であり、自国の利益のために他の人たちの静かな暮らしを害するべく、権力を行使してきたということがわかっていません。私たちは、アメリカ人として、海外を旅するときに、自分たちの特権性と世界の中での位置づけをなかなか意識できないことがよくあります。この自分たち自身に関する知識の欠如が、別の地域の人たちと付き合うときに、誤解をしたり、攻撃を加えたりすることにつながることがあります。

 

――カッツさんは、ヒップホップが、バラバラになった世界をつないだり、他者への理解を深めたり、心の傷を癒やしたりする可能性について書いています。ヒップホップ以外の文化についてはどう思われますか。そうした可能性を持ちうると考えていますか?

 

ええ、多くのタイプのアートや文化が人々をつなぐ可能性を持っていると思います。実際、どんなタイプのアート、あるいは文化もその力を持っています。ヒップホップだけではありません。ヒップホップは、世界的に大変人気があるという意味で珍しいですけど。例えば、日本ではブルーグラス(※6)の音楽が人気だと思いますが、こういう音楽や文化は、アメリカの人々と日本の人々がつながりを持つための手段になると思いますね。

 

――ありがとうございました。

 

DJターンテーブルの前に立つカッツ氏[Photograph by Johnny Andrews]

 

************************

 

今回、ヒップホップのような文化と外交との関係について、また他の国の誰かと接するときのことについて、興味深いお話を伺うことができました。DJの授業も、一度受けてみたいものです。

 

 

註――――――――――――

※1 ニールセンのレポート参照。

 

※2 『ビルド』…原題:Build : The Power of Hip Hop Diplomacy in a Divided World. (New York: Oxford University Press, 2019). アメリカ政府の文化外交の歴史(ジャズミュージシャンを起用したジャズ外交など)を踏まえた上で、カッツ氏自身も携わってきた近年のヒップホップ外交の取り組みが論じられています。この本のコンセプトなどは今回のインタビューでカッツ氏が語ってくれています。

 

※3 『音を捕まえる』…原題:Capturing Sound: How Technology has Changed Music. (Berkeley and Los Angeles: University of California Press, 2004, rev. ed. 2010). 特定のジャンルに限らず、さまざまな側面から録音テクノロジーと音楽の関係を論じた、カッツ氏の初の著書。例えば、現在のクラシック音楽でバイオリンを弾くときに欠かせないビブラートですが、この技法が多用されるようになった重要な背景として、20世紀前半の録音テクノロジーの存在を指摘。レコードに音が固定されて繰り返し聴かれるようになったとき、バイオリニストたちがビブラートをかけて音の高さの不安定さを隠そうとした、また、体の動きが見えないので音だけで感情表現を行おうと試みた、といったいくつかの理由を挙げています。まさに「録音は単なる記録ではない」というわけです。

 

※4 『グルーヴ・ミュージック』…原題:Groove Music: The Art and Culture of the Hip Hop DJ. (New York: Oxford University Press, 2012). 『音を捕まえる』でもDJについて1章を割いていたカッツ氏による3冊目の単著(2冊目はバイオリンに関する本)。ヒップホップが誕生した1970年代から、2011年までの、ヒップホップDJの歴史を描いています。たくさんのインタビューを交えた、ヒップホップ好きにはたまらない本です。

 

※5 LGBTQ…Lesbian(レズビアン)Gay(ゲイ)Bisexual(バイセクシュアル)Transgender(トランスジェンダー)Questioning(クエスチョニング)あるいはQueer(クィア)の頭文字で、様々な性のあり方を言い表す言葉。クエスチョニングは性のあり方が定まっていない(またはあり方を定めていない)こと。クィアは元々「変態」といったニュアンスの蔑称でしたが、規範的な性のあり方とは異なる複雑なアイデンティティを指す言葉として肯定的に捉え直されるようになりました。

 

※6 ブルーグラス…アメリカ南部の音楽スタイルの一つ。ギターやバンジョー、マンドリンなどの生楽器を主に使います。日本では1960年代ごろから人気となり、数多くの大学でブルーグラスのバンドが結成されました。現在マスメディアなどではあまりピックアップされませんが、多くの愛好家たちに支えられ、日本全国各地でブルーグラス・フェスティバルが開催されている、熱い音楽です。

【第2回】ほとゼロ主催「大学と社会とのつながりを考える勉強会」のレポート

2020年1月16日 / ほとゼロからのお知らせ, トピック

ほとんど0円大学主催『大学と社会とのつながりを考える勉強会』の第2回目を、2019年12月18日に開催しました(第1回目のレポートはこちら)。

 

今回は「大学の今を伝える、大学発オウンドメディア」がテーマ。以下の4大学のオウンドメディア担当者がサイト誕生の経緯や運営の仕方について発表するという、盛りだくさんの内容でした。また、ほとゼロ編集部も記事づくりで心がけているポイントについて紹介しました。

 

・近畿大学 『Kindai Picks』

・関西大学 『「関大研究力」研究まとめサイト』

・京都産業大学 『Re:世の中』

・京都造形芸術大学通信教育課程 『アネモメトリ』

KANDAI Me RISEにはカフェや本屋が入っており、一般の方にも人気

KANDAI Me RISEにはカフェや本屋が入っており、一般の方にも人気

 

会場は前回と同じ関西大学梅田キャンパス「KANDAI Me RISE」。参加者は12大学から25名と、前回以上に多くの方にお越しいただきました。

大学の取り組みを、どうやって紹介する?

はじめに、ほとゼロの編集長・花岡が「ほとんど0円大学の記事づくりの心得」と題し、記事を書く際に意識している点(&もっと意識したい点)、学問・研究・教育を紹介するときの工夫についてなどを発表しました。

ほとゼロ編集長の花岡

 

例えば、学問を身近に感じ興味をもってもらうためにはどうすればいいか、という話では、「学問は研究や教育に比べて、柔軟な取り上げ方ができる」と言い、日常の疑問や今日的な話題と掛け合わせて取り上げてはどうかと提案。一例として、ほとゼロと京大のコラボ企画「なぜ、人は○○なの!?」を紹介しました。

人が協力をするのはなぜか、過去を知りたくなるのはなぜかなど、素朴な疑問を京大の研究者が回答

PV至上主義。現代を映し出す大学発サイト

『Kindai Picks』https://kindaipicks.com/

 

続いての登壇者は、近畿大学広報室の村尾さん。ニュース・サイト『Kindai Picks』の運営についてお話いただきました。

 

『Kindai Picks』には、ネット上にある近大関連の記事をキュレート(収集、整理、紹介)するとともに、大学のリソースを用いたオリジナル記事を発信するという2つの顔を持っています。エンタメ要素満載の記事も多く、受験生や大学関係者以外にも人気な大学発サイトとして、マスメディアにもしばしば取り上げられています。

近畿大学の村尾さん

近畿大学の村尾さん

 

発表は、誕生の経緯からスタート。広報活動が話題になることの多い近大ですが、ウェブの領域でも時代に合った独自のものを作ろうと、企画が立ち上がったとのこと。そして、「サイトのデザインや構成、名称は『NEWS PICKS』を(あくまで)参考に」して、2015年に『Kindai Picks』を開設しました。

 

コンテンツ作成の指針は非常にわかりやすく、「とにかくバズらせろ」。瞬発的で爆発的な盛り上がりを起こしてアクセスを獲得する、「PV至上主義」を掲げています。

話題のウェブコンテンツ制作会社、株式会社人間とともに記事制作をしている

話題のウェブコンテンツ制作会社、株式会社人間とともに記事制作をしている

 

PV獲得のために具体的に意識していることは3つ。スマートニュースなどの他メディアに取り上げられやすい記事を作ること、拡散力のあるライターを起用すること、トレンドにうまく乗っかることだと、村尾さんは言います。

ハロプロ好きで有名なタレント「ぱいぱいでか美」や、炎上しがちなブロガーなどもライターに起用

ハロプロ好きで有名なタレント「ぱいぱいでか美」や、炎上しがちなブロガーなどもライターに起用

 

とはいえ、思ったようにいかない場合も多いようで、PVが伸びなかった「失敗事例」なども紹介。他の人気ウェブメディアとのコラボも現在模索中だそうです。

 

***感想***

 

「とにかくバズらせろ」という、"いまここ"での爆発力を重視する『Kindai Picks』。思わずタップしたくなる「エモさ」が求められたりする現在のネットと、とても親和性が高いと感じました。『Kindai Picks』のような思い切った運用方針を掲げられる大学は限られるとは思います。でも、運用方針が明確だからこそ、記事にエッジを立たせることができるし、やるべきことが明確になる。結果として、大学関係者だけでなく、社会全般が注目するサイトになっているのだと感じました。

散らばった研究情報を集約。研究まとめサイトの意義

『「関大研究力」研究まとめサイト』http://www.kansai-u.ac.jp/research/researcher.php

『「関大研究力」研究まとめサイト』http://www.kansai-u.ac.jp/research/researcher.php

 

3番目の発表では、関西大学の上級リサーチ・コーディネーター、舘さんに登壇してもらいました。舘さんは、研究活動を企画、マネジメントするURAとして、関大の研究関連の情報をウェブ上に集約する『「関大研究力」研究まとめサイト』(以下、『関大研究力』)を企画。今回は、このサイト制作の背景や仕組み、制作してよかった点などを紹介してもらいました。

関西大学URAの舘さん

 

研究推進部、広報課、入試広報グループ、学部、附置研究所など、関大には研究関連の情報を扱う部署が多くあり、情報発信の手段もパンフレットやSNSなど30以上存在しています。以前は、各部署がそれぞれ情報発信しているのみの状態でした。

さまざまな部署がさまざまな手段で研究に関する情報を各々発信している

さまざまな部署がさまざまな手段で研究に関する情報を各々発信している

 

舘さんは、各部署の情報発信だけでなく、関大の研究のことが一望できる場も必要だと感じ、多彩な研究への玄関口となるウェブサイトの制作を提案しました。そうして整備されたのが『関大研究力』です。このサイトは独自の記事を掲載するのではなく、関大のウェブサイトやデータベースに散らばった、研究活動に関わるニュース、インタビュー記事、論文などへのリンクによって構成されています。

さまざまな学部、研究所の情報をまとめて見やすく提示

さまざまな学部、研究所の情報をまとめて見やすく提示

 

このまとめサイトを作ってよかった点として、舘さんは「学内でよく使われている」ことを挙げました。「大学内で、誰がどんな研究をしているのか、組織間でほぼ情報が共有されていない」。自分たちが自分たちの研究を手早く知る場として、役立っているようです。また、知財情報などに、企業からのアクセスも多くあり、これもよかった点だと教えてくれました。他方、課題としては、運営体制の整備、他メディア掲載記事へのリンクの整備を進めていく必要があるとのことでした。

 

***感想***

 

大学教員同士は、互いの研究を漠然としか把握していない場合も多く、「最終講義を聴いて、隣の研究室の先生が何をしているのか知った」という声を耳にしたこともあります。「大学の外」だけでなく、「大学の内」でも研究情報を共有することが、刺激的な研究を生み、世の中に影響を与えていくかもしれない。そんな可能性を、『関大研究力』から感じました。

 

教育業界で注目される、『ナショジオ』とのコラボサイト

『Re:世の中』https://ksu-re-world.jp/

 

休憩を挟んで後半がスタート。京都産業大学広報部の増村さんによる発表は、ウェブサイト『Re:世の中』についてです。ほとゼロでも以前紹介した『Re:世の中』(こちらの記事参照)。高校生に向けて、「世の中を変えていこう」というメッセージを発信しています。

京都産業大学の増村さん

京都産業大学の増村さん

 

『Re:世の中』の特徴は、世界的な人気を誇る『ナショナル・ジオグラフィック』とコラボしていること。『ナショジオ』は、地球で起こるさまざまな出来事を印象的な写真と文章で紹介する雑誌&ウェブマガジンです。

 

この『ナショジオ』のブランドイメージやコンテンツに、世界水準の研究を推進する京産大のコンテンツを組み合わせることで、高校生が未知の世界に触れ、関心を見つけるきっかけになるのではないか。そんな思いのもと、京産大の独自記事と『ナショジオ』の記事が並ぶ、他にはないサイトが誕生しました。現在は、毎月1回8本(京産大記事2本+『ナショジオ』の記事6本)のペースで記事が更新されています。

高校生には進路選択の参考にもして欲しいと語る増村さん

 

増村さんはこのサイトのポイントをいくつか挙げます。例えば"Today's PICK UP!"。『Re:世の中』の更新ペースは月1ですが、過去記事の中から、おすすめ記事を日替わりでトップに表示させることで、サイトに動きをもたせつつアーカイブを活用しています。

 

また、『ナショジオ』の記事は高校生にとっては難しく感じる場合があるかもしれません。そこで、「京都産業大学による見どころチェック!」と題して、読むときのガイドを記事本文の前に掲載しています。さらに、#宇宙 #環境など、ハッシュタグを用いて記事を分類。SNSをよく使う高校生たちが馴染みやすい表現を取り入れています。

『ナショジオ』からの引用記事のはじめに、京産大の視点で見どころを解説

 

『Re:世の中』は学外、特に教育関係者の評判が上々で、高校の授業で使いたいといった問い合わせもあったとのことです。

 

***感想***

 

「大学が蓄積してきた豊富な研究実績×ナショナル・ジオグラフィック」というコラボサイト。こんなサイトが用意されている今の高校生が羨ましいですね。もちろん、このサイトは高校生だけでなく大人にとっても読み応えがあるなと感じました。京産大の創立者・荒木俊馬の専門である「宇宙」をイメージしたというトップ画面のデザインも印象的でした。

教材としてのウェブマガジン。リアルタイムに、しかし射程は長く

 

最後の登壇者は京都造形芸術大学通信教育課程の清水さん。ウェブマガジン『アネモメトリ』についてお話くださいました。

 

『アネモメトリ』は、芸術に関する記事を掲載した大学発ウェブマガジン、なのですが、実は通信教育課程の「教材」という位置づけで運営されている珍しいサイトです。一体どういった経緯で生まれたのでしょう?

 

「デザインのように変化の激しい分野では、例えば最新のスマホのデザインを教科書に載せても、たった数年で『古く』なってしまう。固定された教材ではなくリアルタイムに更新される教材があったほうが良いのではないか…」。芸術教養学科が開設される時に、そんな議論が学内で起こり、ウェブマガジン形式の教材が生まれたのだと、清水さんは説明してくれました。

京都造形芸術大学通信教育課程の清水さん

 

2012年に開設した『アネモメトリ』は、現在も毎月、芸術の最前線を伝える特集記事を更新しています。その特集記事を題材に、記事でとりあげられた事例の背景をまとめたり、身近にある類似事例と比較して論じたりする課題が、通信教育課程の授業で出されています。

 

さらに『アネモメトリ』には、各地に住む卒業生による地域レポート「風信帖」や、卒業生が自身の活動を報告する「風を知るひと」のように、卒業生が執筆する連載コンテンツが充実。卒業生とのつながりを維持、開拓する役割も、このサイトは担っています。

通信教育のため、いろいろな地域に卒業生が点在しており、地域レポートはバリエーション豊か

 

「リアルタイムの教材」。それが『アネモメトリ』の開設理由ですが、時折思わぬ読まれ方もするといいます。例えば「ホームスパン」という毛織物が、最近メディアに取り上げられて話題になり、『アネモメトリ』に掲載されていた数年前の「ホームスパン」の記事が、今また読まれるようになったのだそう。清水さんは、「リアルタイムの教材として作っています。でも、あらゆる芸術がそうであるように、今投げたボールが10年後、20年後に届くこともある。それが面白い」と語りました。

 

***感想***

 

常に更新されるという画期的かつ実用的な「教材」として作られている『アネモメトリ』。しかし、長い時間を経て、当初の意図とは違ったかたちで読まれるという偶然の出来事も。そんな思わぬ出来事も大切にしているところに、芸術大学が作るオウンドメディアとしての矜持を見た気がします。

 

質疑応答~フリートーク(大学が開発したお菓子を食べつつ)

質疑応答では「記事の転載許可について」、「予算について」、「クオリティ・コントロールについて」など、フロアを交えた意見交換が活発になされました。

時間いっぱいまでフロアからたくさんの質問が投げられた

 

その後は、大学が開発に携わったお菓子を食べながらの、フリートークの時間を設けました。

質疑応答の時間には収まりきらなかった話題などで大変盛り上がったフリートーク

質疑応答の時間には収まりきらなかった話題などで大変盛り上がったフリートーク

 

この日は以下のお菓子を用意しました。遠方の大学の商品が多めです。

 

1:椙山女学園大学「名古屋ベルころん」

2:大阪大学「大阪大学ワニ博士の頭脳グミ」

3:北海道大学大学院水産科学研究院「北大がごめ昆布飴」

4:北陸先端科学技術大学院大学「もちもちカステラ」

甘酸っぱい初恋の味がする気がする「ベルころん」、硬さが心地よい「頭脳グミ」、優しい味がする「がごめ昆布飴」、本当にもちもちの「もちもちカステラ」

甘酸っぱい初恋の味がする気がする「ベルころん」、硬さが心地よい「頭脳グミ」、優しい味がする「がごめ昆布飴」、本当にもちもちの「もちもちカステラ」

 

フリートークの後は、場所を移動して懇親会を開催。こちらも情報交換の場として有意義な機会になったのではないかと思います。

 

第2回目となった今回の勉強会。たくさんの方にご参加いただき、大いに盛り上がりました。ご協力ならびにご来場ありがとうございました。今回も参加者アンケートを実施したところ、他大学の活動の背景を知ることができた、他大学とつながりができた、といった感想をいただきました。勉強会は、今後も開催を予定しています。どうぞよろしくお願いいたします!

世界の大学!第3回:中国の大学について知りたい

2020年1月7日 / コラム, 海外大学レポート

中国の大学と日本の大学

名前の通り世界の大学の様子を紹介する「世界の大学!」、第3回目は中国の大学をテーマにした。

 

中国の大学の授業はどんなスタイルなのか?学食はどんな仕組みなのか?やはりスマホ決済は大学内でも用いられるのか?等々。日本の大学でよくある光景とも照らし合わせながら見てみたい。

 

今回、中国は江南大学の田村恭平先生(日本語教育)にメールでインタビューを敢行した。田村先生は日本での学部時代に南京大学へ留学。教員としては、淮海工学院(現・江蘇海洋大学)を経て、江南大学外国語学院(学部)日本語科へ。留学時代も含めれば10年以上中国の大学に在籍している。そんな田村先生に、江南大学、そして中国の大学について教えていただいた。

太湖のほとりの大きなキャンパス(ディズニーランド4つ分)

大きな図書館がそびえる江南大学

大きな図書館がそびえる江南大学

 

江蘇省無錫(むしゃく)市。ある世代にとって「無錫」といえば、THE MATATABIこと尾形大作が歌うメガヒットご当地ソング〈無錫旅情〉(1986年)である。130万枚を売り上げ、カラオケでも大人気の曲になった。

 

その歌詞にも出てくる「太湖」という、琵琶湖の3倍くらいある湖の北岸付近にキャンパスを構えるのが江南大学だ。中国政府の教育部が指定した重点大学「211工程(Project 211)」にも選ばれた、国立の総合大学である。

 

キャンパスは広く、「北門から南門まで歩いて30分くらいかかる」という。面積208ヘクタール。東京ディズニーランド4つ分くらいと考えると相当大きい(TDLは51ha)。移動が大変なので、校内をバスが走行している。

キャンパス内にはコンビニやスーパーマーケット(超市)もある

キャンパス内にはコンビニやスーパーマーケット(超市)もある

 

18の学院(部)があり、学生数は3万人以上(学部生約2万人、大学院生約9千人、留学生約1千200人)。ほとんどの学生は4人部屋の寮に住んでいるそうだ。

江南大学公式ウェブサイト(https://www.jiangnan.edu.cn/)

江南大学公式ウェブサイト https://www.jiangnan.edu.cn/

 

熱心に勉強する学生たち

さて、田村先生にはまず授業のスタイルについて伺った。日本なら講義かゼミが一般的だが、似たような形式なのだろうか?

 

「講義形式が中心です。いわゆるゼミは無く、先輩後輩が一緒に同じ教員の授業に参加する機会はありません」。その意味で「高校の延長線上にあると言えるかもしれない」そうだ(自然科学系なら実験や実習があるとのこと)。

 

ただし江南大学外国語学院では今年度から、教員・2年・1年が講義外の時間に集まる機会が新たに設けられるようになった。大学としては今後ゼミのような場に近づけたいと考えているとのことである。

講義を受ける学生たち。日本の大学でもよく見かける造りの教室

講義を受ける学生たち。 日本の大学でもよく見かける造りの教室

 

授業の数、勉強時間のことも伺った。

 

「授業数は学年によっても違いますが、週13コマほど」(前半45分+休憩+後半45分が1コマ)。日本と比べて特別多いわけでは無いが、授業時間外の勉強が結構多い。「課題やテストがたくさんあるので復習に忙しいんですね」。

 

さらに、「江南大学の場合、1年生の時は『晩自習』制度があります。日曜から木曜の週5日間は、毎晩18:30から21:00まで教室に残り、必ず自習をすることになっています」。日本以上に学歴社会だという中国では、大学院に進み、より給料の良い仕事に就きたいと考え、勉強をがんばる人が多いそうだ。

サークル、バイト、「軍訓」

勤勉な学生たちが多いことが窺えるが、日本の大学ではおなじみのサークル活動やバイトは行うものなのだろうか?

 

「サークルは盛んです。ただ、多くのサークルにおいて日本と違うのは、1年生が主な構成メンバーだということです。2年生になると、部長・副部長といった役割を担当する人以外は、ほぼ参加しません」。つまり、サークルで先輩後輩が交流する機会はあまり無い。日本のサークルは3、4年でも参加している場合が多々あり、先輩と後輩が交流する場にもなっているだろうから、サークルの担う機能に異なる部分があると言えそうだ。

 

また、バイトはそんなに盛んではない。「給料が安いし、勉強も大変だからでしょう。やるとしたら家庭教師が目立ちますね」。

 

ちなみに短期的なものだが、中国の学生は皆、日本には無い行事に参加する。「1年生のときに軍事訓練があります。学内で3週間ほど行います」。これは「軍訓」と呼ばれ、どの大学でも行われている。

刀を持っている学生もいるが、これは軍訓ではない。日本語専攻の演劇大会

 

学食は安いが学生カードが必須。出前も人気

江南大学第1食堂

江南大学第1食堂

 

学食の仕組みについても尋ねた。

 

「江南大学には4つの食堂があり、すべて2フロアにわかれています。1階では肉まん、ラーメン、ハンバーガーなどを売っています。2階は、一枚の大きなお皿に、自分が好きな料理を選んで入れてもらうスタイルです」。

江南大学食堂2階では自分でご飯とおかずを選ぶ。これで約10元(日本円で160円くらい)というからだいぶお得感がある

江南大学食堂2階では自分でご飯とおかずを選ぶ。これで約10元(日本円で160円くらい)というからだいぶお得感がある

 

値段は安い。一食あたり10~15元(200円前後)程度だという。ただ、食事代の支払いはチャージ機能付きの学生カードを使うそうなので、学外の人は誰かにカードを借りるのでもないと購入できない。

食堂1階の人気料理「麻辣香锅(マーラーシャングオ)」(二人前で約30元)。汁なし火鍋という感じか

食堂1階の人気料理「麻辣香锅(マーラーシャングオ)」(二人前で約30元)。汁なし火鍋という感じか

 

また、「中国は食事のデリバリー"外売(ワイマイ)"が発達しています。安くて速い。もっぱら外売という学生もけっこういます」。学生が大学に外売(出前)を呼ぶというのは、日本だとあまり無いように思う。寮生活が中心の中国では、大学=居住空間という感覚もあるのかもしれない。

独自のネット生態系と、スマホ決済のシェア自転車

中国と日本で異なるといえばネット・サービスの生態系だろう。中国ではグレート・ファイアウォールと呼ばれる情報管理システムが作動していて、特定のサイトにはアクセスできないことになっているからだ。

 

学生たちも「検索エンジンは『百度』、SNSはLINEに似た『微信』やTwitterに似た『新浪微博』などを使っている」そうだ。動画は「优酷」「bilibili」(それぞれYouTube、ニコニコ動画に近い)で視聴する学生が多いという。

 

筆者もbilibiliや微信(の海外版WeChat)のユーザーだが、役割はニコニコ動画やLINEに近い一方、例えば微信には既読機能が無いなど、設計思想が少し異なっている。学生たちの使い方を細かく観察すれば日本と中国で何か違いが見えてくるのかもしれない。

 

また学内には、スマホ決済が進んでいる中国らしいサービスもある。「学内の移動には、自分の寮の近くにあるシェア自転車を使う学生も多いです。自転車のバーコードをスマホでスキャンして支払う仕組みで、日本の従来の『レンタル自転車』とはちょっとイメージが違いますね」。

キャンパス内のシェア自転車。日本の大学では見かけない光景

キャンパス内のシェア自転車。日本の大学では見かけない光景

 

ということで今回は、中国の大学の細かな日常についても、貴重なお話を聞くことができた。早まった一般化はできないが、中国の大学と日本の大学の似たところ、違うところ、色々と発見できた。今回書けなかった話もあるので、またの機会があれば紹介したい。

食堂の購買部。日本とも近い雰囲気

食堂の購買部。日本とも近い雰囲気

年末大特集 2019年 TOP5発表

2019年12月26日 / まとめ, トピック

あっ、と言うてる間に2019年も暮れとなりました。

ほとゼロでは今年も大学の魅力をいろいろな側面から取り上げた記事をお届けしてきました。

はっとするような研究やマニアックな展覧会の紹介、オリジナル商品の開発秘話にオシャレな学食のレポート…そんななかでもどんな記事が人気だったのでしょうか?

今日は2019年に公開したほとゼロの記事から、年間ランキングトップ5の記事をご紹介します(昨年度までのランキング:2015年版2016年版2017年版2018年版)。

 




世界の大学!第2回:THE世界大学ランキング上位5校の公開イベントをチェック。英米の有名大学はどんなイベントを行っている?

2019年9月26日 / コラム, 海外大学レポート

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキング2020が発表されました。これは英国の教育専門情報誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが、研究のインパクト、国際性などの点から世界各国の大学を評価したランキングです。
もちろん中立で絶対的な順位なんてものはありえません。でも、本ランキングの上位に位置する大学が、大きな影響力を持ち、優れた研究を多く発表しているのもまた確かでしょう。


そこで今回注目したのは、ランキングの上位にある著名な海外の大学が行う、市民向けの取り組みです。これらの大学は、普段どんな内容の研究成果や過程を、どんなかたちで市民に伝えているのでしょうか。トップクラス大学の市民向けの取り組みの一端を覗いてみましょう(講師が当該の大学の教員でなかったりするかもしれませんが、大目に見てください…)。

世界ナンバー1!オックスフォード大学

まずは英国のオックスフォード大学。THEのランキングでは第1位でした。設立は11世紀末。なにせ英国が近代国家として成立するよりもはるかに古い大学です。とてつもない歴史です。


そんな伝統校、オックスフォード大学で行われるイベントを見てみましょう。

 

展覧会:ポンペイの最後の晩餐 (2020年1月12日まで)

ポンペイの食事をテーマにした展覧会。日本でもよく知られたポンペイがテーマだったのでピックアップしました。


西暦79年にヴェスヴィオ山が噴火したことで埋没してしまった古代都市ポンペイですが、周囲に果樹園があったり、水も豊富だったりと、食の豊かな場所だったそうです。噴火したときも、ポンペイの人々は飲食をしたり、食事を作ったりしていたようで、テーブルの上で炭になってしまった食べ物も残っているのだとか。そんな貴重な史料を通して、ポンペイの人々の食生活を伝える展示になっているようです。

1LAST SUPPER IN POMPEII Ashmolean Museum

写真右が、火山噴火とともに炭になってしまったパンだそうです。

写真右が、火山噴火とともに炭になってしまったパンだそうです。

http://www.ox.ac.uk/event/last-supper-pompeii

 

ヴェイパーウェイヴとオフモダン (11月12日)

さて、うってかわってごくごく最近の現象がテーマのこちらの公開イベント。2010年代初頭にネットで興り、今も注目される音楽や画像のムーブメント「ヴェイパーウェイヴ」と現代社会との関係についての講座です。

 

ヴェイパーウェイヴは、山下達郎や竹内まりやをはじめ、80~90年代の日本のシティ・ポップを引用している曲もあり、日本に住む者から見ても興味深い動向です。

 

代表的な曲の動画をあげておきましょう!(音が出ます)

こうした最近のネットの流行も公開講座でとりあげているんですね。

http://www.ox.ac.uk/event/vaporwave-and-modern

 

このようにオックスフォード大学ではかっちりとしたテーマから最新のカルチャーまで、バリエーションのあるイベントが開催されているようです。

少数精鋭のカリフォルニア工科大学

続いてランキングでは第2位だった米国のカリフォルニア工科大学。1891年設立。規模はそれほど大きくはありませんが、最新の研究を発表し続ける理工系の名門私立大学です。

 

天体観測レクチャー (10月4日)

レクチャー+質問タイム+天体観測がセットになった連続シリーズの一環。10月の回は「どうして夜空は暗いのか?」というキャッチフレーズがついています。“夜空の暗さは、宇宙が無限の大きさを持ち静的であるという仮定と矛盾する”というパラドックスをテーマに開催されるそうです(天文学では有名なパラドックスとのこと)。

 

他の回を見ても「銀河系の考古学」(8月)とか「星たちの音」(11月)とか、面白そうなテーマが続いています。天文学でも有名なカリフォルニア工科大学らしい、ロマンのあるイベントです。

fall2019 key

https://www.caltech.edu/campus-life-events/master-calendar/stargazing-lecture-86260

 

カリフォルニア工科大学では、他にも理工系のレクチャーはもちろん、コンサートや読書会など小規模大学ながら盛んにイベントが行われていますね。

英国の伝統校ケンブリッジ大学

次はランキング第3位だったケンブリッジ大学。オックスフォードと並び称される英国の伝統校です。設立は13世紀初頭。ケンブリッジ大学では「犬は飼っちゃだめだけど、猫はよい」という古いルールがあるとも聞きました。そんな昔ながらの大学ではどんなイベントを行っているのでしょうか。

 

ビバ、キューバ! (10月24日)

クラシコ・ラティーノというラテン音楽のグループの演奏のもと、歌って踊るという家族向けのワークショップ。ケンブリッジ大学ラテン・アメリカ研究センターの研究者とのトークも行われるんだとか。音楽が好きな人にはたまらないイベントになりそうですね。

What s On What s On

https://www.admin.cam.ac.uk/whatson/detail.shtml?uid=041a7c7b-d615-4397-8a54-fe4c8e7723c0

 

私の微生物と私 (10月23日)

バクテリアが私の健康にどんな影響を与えているか…。私達のなかに住んでいる微生物が肥満や糖尿病、アレルギー、うつ病にどう関係しているのか…。切実かつ身近なテーマを扱う公開講座です。タイトルもキャッチーですね。

 

微生物叢が自分の健康に与える影響に対して、何か打つ手はあるのでしょうか!?そんなことも気になります。

What s On What s On2

https://www.admin.cam.ac.uk/whatson/detail.shtml?uid=b4fcff85-1293-44ff-bfbd-baa1b8ffe520

 

ケンブリッジ大学は、少なくとも最近のイベント情報を見る限り、わりと堅実かつ親しみやすいテーマのイベントが開催されている印象です。

アメリカ西海岸の超名門スタンフォード大学

アメリカの東海岸にある名門大学の1つといえばハーバード大学ですが、西海岸カリフォルニアにはスタンフォード大学があります。1891年設立で、現代ではコンピュータや情報ネットワーク関係の優れた研究を行ってきたことでも知られます。

 

一遍聖絵の五輪の塔の図像と実践に関する考察 (2020年5月14日)

ちょっと先のイベントですが、学校の日本史の授業でも習った、浄土宗の一派である時宗の開祖・一遍を描いた「一遍聖絵」の研究に関する公開講座だそうです。

Hank Glassman Thoughts on the Iconography and Practice of the Five Cakra Stupa in Ippen hijiri-e

https://events.stanford.edu/events/848/84801/

 

これに限らず、今回とりあげた大学のなかでは、スタンフォード大学は日本に関する講義が結構目立ちます。最近のものだけでも下記のようなものが行われる予定です。

  • ・日本の宮廷音楽と舞(雅楽のパフォーマンス)
  • ・日本の即位の儀式について
  • ・瀬戸際の日韓
  • ・古代日本の道路、神社そして精神

どんな視点で日本は論じられているのか。少し気になりますね!

ノーベル賞受賞者多数のMIT

ランキング第5位となったのは、1865年に設立された米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)。コンピュータやメディア・アートの分野にとても強い大学ですね。

 

サウンド、学ぶこと、民主主義 (9月19日)

タイトルのみだとよくわかりませんが、日本のポップ・カルチャーを題材にした講座です。テクノ、ボーカロイド「初音ミク」、AKB48などを事例に、社会や文化を読み解いていくという主旨だそうです。

Ian Condry “Sound Learning and Democracy The Curvature of Social Space-Time through Japanese Music from Underground Techno to Pop Idols” - MIT Events

http://calendar.mit.edu/event/ian_condry_sound_learning_and_democracy_the_curvature_of_social_space-time_through_japanese_music_from_underground_techno_to_pop_idols

 

MITは一日に30、40のイベントが行われているみたいで、どんなイベントがあるのかチェックするだけでも一苦労です。

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THE世界大学ランキング上位5校の最近のイベントを見てきました。ここに出したのはごく一部。とりあえずこれらの大学はイベントの数が多い…。講座、演奏会、映画、展示などなど、日に何十件も、そしてさまざまなゲストを招いてイベントが行われています。

 

また、伝統校だから古いことばかりやっている、なんてこともなく、ヴェイパーウェイヴのような新しい話題から、オーソドックスな話題まで、何でもござれという印象です。この柔軟性はむしろ長い時代を生き抜いてきた伝統校だからこそなのかもしれません。

 

いくら有名大学とはいえ、所属でもしていないと、海外の大学がどんなイベントをやっているかなど意識する機会はそうそうありません。今回は5つの大学の最近のイベントだけをピックアップしましたが、もう少し長い目で、どんなイベントをやっているのかを追っていけば、アメリカやイギリスにおける公開講座の傾向なんかも見えてくるかもしれません!

 

ということで、海外の大学のイベント紹介でした。

 

世界の大学!第1回:ハーバード大とMITが運営するオンライン講座プラットフォームedXで、スーパーヒーローの歴史を学んだ。

2019年8月29日 / コラム, 海外大学レポート

新企画スタート!

さて、今回からほとゼロの新しい企画がスタートします。題して『世界の大学!』。この企画では、海外(主に英語圏)の大学に焦点をあて、その興味深い取り組みやイベントなど、編集部がこれはと思ったことを紹介していく予定です。


海外の大学が何をやっているのか、なかなか知ることはありません。しかし海外の大学も何かおもしろい、ハッとするような試みをやっているかもしれない!やっているでしょう!そこで、そういえば海外の大学ってどんなことをやっているのだろうか?日本にいながら海外の大学を活用できないだろうか?といった視点で記事をお届けしたいと思っています。


第1回目となる今回は、まさに自宅にいながら海外(主にアメリカ)の大学・研究機関の講座を体験できるedXというサービスの体験記をお届けします。


ちなみに今回の講座の題材は、バットマンやスパイダーマンなどの「スーパーヒーロー」。楽しげなテーマを入り口に、学びの世界に飛び込んでみよう!ということで、やってみました。


ちなみに語学学習にも良いと思うので、外国語にちょっと興味があるんだよなあという方にもおすすめしたいです。

edXとはなんだ。

さて、今回登場するedX(エデックス)について簡単に紹介します。ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)によって2012年に開設されたedXは、アメリカを中心とする大学や研究機関の講座をパソコンやスマホアプリから受講できる、オンラインの教育サービスです。


こうした「ネットを使って大規模に公開の講座を提供するサービス」全般のことをMOOCs(Massive Open Online Courses)と言います。MOOCsについては過去に記事を配信しているので、そちらもぜひ読んでみてください!

edXのサイト

edXのサイト

たくさんの講座がほとんど0円。

edXでは、ハーバード大学とMITはもちろん、プリンストン大学やオックスフォード大学、ソウル大学校、清華大学、そして日本の東京大学、京都大学といった各国の大学が講座を開いています。マイクロソフトのような企業や、研究機関の講座もあります。大学が整備したプラットフォーム上で、いろいろな機関が独自の講座を設けているのです。
講座は興味のあるキーワードで検索することも、分野から絞り込むこともできました。分野はコンピュータ・サイエンス、数学、ビジネス&マネジメント、哲学・倫理学など、他にもいっぱいあります。もちろん機関名から選ぶこともできます。

講座の検索画面。受講可能な講座数は膨大

講座の検索画面。受講可能な講座数は膨大

 

どんな講座があるか、いくつかあげてみましょう。

 

  • 「グローバルな視点からの香港映画」(香港大学)
  • 「生物学入門:生命の秘密」(マサチューセッツ工科大学)
  • 「ビデオゲームデザイン:チームワーク&コラボレーション」(ロチェスター工科大学)
  • 「動物倫理学入門」(京都大学)
  • 「19世紀のオペラ:マイアベーア、ワーグナー、そしてヴェルディ」(ハーバード大学)
  • 「ライフスタイル医学の基礎」(ドーン大学)
  • 「デジタル世界における評判管理」(カーティン大学)

 

最近注目のテーマから古典的なテーマまで、実に多彩です。やさしめの講座から大学院レベルの講座まで難易度もさまざまなので、ちょうどよい難易度のものから選ぶのもありかもしれません。

 

かくも多彩なedXの講座は、なんとほとんどが無料で受講できます。「修了証」を発行する場合はお金がかかりますが、発行は任意。受講するだけなら無料という講座が多いです(有料の講座もありますので事前に確認してください)。

 

ちなみに言語は英語が圧倒的に多いですが、スペイン語や中国語、フランス語などの講座もあります。それほどたくさんはありませんが、日本語の講座もあるようです。

日本の大学も講座を開いている。言語は英語が多い

日本の大学も講座を開いている。言語は英語が多い

スーパーヒーローの歴史を学ぶ。

ということで、何か楽しそうな講座は無いだろうかとフィルタリングをかけてみます。とりあえずArt & Cultureで絞り込んでみました。

オペラやスタートレックに混じって、スーパーヒーローという文字を発見した(左下)

オペラやスタートレックに混じって、スーパーヒーローという文字を発見した(左下)

 

すると、「スーパーヒーローの興隆とそのポップ・カルチャーへの影響(The Rise of Superheroes and Their Impact On Pop Culture)」という講座を見つけました。主催しているのは、アメリカのワシントンD.Cやその周辺にある大規模な博物館群「スミソニアン博物館」を運営するスミソニアン協会です。難易度は最も平易な「入門レベル(Introductory)」。聴講だけなら無料、修了証を発行したい場合は50米ドルです。

 

ここ数年『アベンジャーズ』などのスーパーヒーロー映画が公開され、日本でも大変な人気ですね。この講座では、そうした映画の下敷きにもなったコミックスもいろいろ登場するようです。


たまたま発見したこちらの講座ですが、おもしろそうなので挑戦してみます(以下、若干ネタバレになる記述があるかもしれません)。

「スーパーヒーローの興隆とそのポップ・カルチャーへの影響」

「スーパーヒーローの興隆とそのポップ・カルチャーへの影響」

 

ユーザー名やメールアドレスを入力してアカウントを登録すればすぐに受講できるようなので早速試しました。今回は聴講だけ(無料)で受講します。

メールや名前などを入れるとアカウント登録できる

メールや名前などを入れるとアカウント登録できる

字幕付きのビデオと超豪華な講師陣。

こちらの講座は、基本的には動画で講座を見て、補足テキストを読むという流れ。ときどきクイズ・ゲームがあったり、掲示板を使ったディスカッションのコーナーがあったりします(書き込まなくても次に進めます)。

 

動画は英語音声ですが、今回の講座は入門レベルだからなのか(?)、それほど難しい言葉は出てこないし、字幕表示もできるのでわかりやすいです。再生速度を変えることもできます。

 

動画に登場する講師陣も非常に豪華です。ガイド役を務めるインディアナ大学のマイケル・ウスラン氏は、映画『バットマン ビギンズ』の製作総指揮も担当したプロデューサーで、大学教育にコミックスのカリキュラムを導入した先駆者です。

 

そして、スタン・リー氏。コミックスの原作者として、スパイダーマンやハルク、マイティ・ソー、Xメンなど絶大な人気を誇るキャラクターたちの誕生に貢献した、アメコミ界の巨匠です。残念ながら2018年に亡くなられましたが、動画では生前のスタン・リー氏がスーパーヒーローについていきいきと語ってくれています。

『アベンジャーズ』など、たくさんのマーベル映画にも出演していたスタン・リー氏が登場

『アベンジャーズ』など、たくさんのマーベル映画にも出演していたスタン・リー氏が登場

 

主な講師陣。ゲストスピーカーを含めるとより多くの方が登場

主な講師陣。ゲストスピーカーを含めるとより多くの方が登場

スーパーヒーローから社会を読み取る。

講座は全6パートにおよぶ、盛りだくさんの内容でした。私は記事の締め切りもあって急ぎ足で受けましたが、そうでなければ1パートあたり合計で1、2時間くらいでしょうか。もちろん10分だけやって中断するなど、細切れに受講してもOK。サイトには、1週間で1パート分進め、全部で6週間かけて受講するのが目安として書かれています。

 

さて内容ですが、1930年代のコミックス台頭の理由、第二次世界大戦期のキャラクター描写、戦後に人気凋落しウエスタンやホラーに取って代わられたことの背景、マッカーシズムやコミック排斥運動の影響、スーパーヒーロー復活のプロセスなどなど…スーパーヒーローがアメリカ社会の鏡のように展開してきたことがよくわかる講座でした。

※Photo by Hermes Rivera on Unsplash

※Photo by Hermes Rivera on Unsplash

 

ウスラン氏はスーパーヒーロー・コミックスを「今日の神話」「現代アメリカの民話」と表現していました。自分たちの暮らす世界を理解するために神話や民話が必要とされてきたのと同じく、スーパーヒーローは現代アメリカ社会を理解する鍵となるのですね。

※Carlos Gabriel Morales ToroによるPixabayからの画像

※Carlos Gabriel Morales ToroによるPixabayからの画像

 

もちろん昔の話ばかりではなく、講座の後半では最新の話題も出てきます。
例えば映画『アイアンマン』と『キャプテン・アメリカ』のように、「別々の作品なんだけど同じ世界を共有している」という映画がたくさん作られ、コミックス単体ではなし得なかったような世界規模での反響を呼んでいることについて、その多彩なメディア展開が紹介されています。

 

また最近のスーパーヒーロー・コミックスでは、多様性が重視されているといいます。Ms.マーベルは、パキスタン系移民のムスリムの女子高生(カマラ・カーン)だし、新しいスパイダーマンはアフリカ系アメリカ人の父とプエルトリコ人の母を持つ中学生(マイルス・モラレス)だったりするのだと、そんなことが紹介されています。

最近たまたま『Ms.マーベル』を読んでいるところだったのですが、確かに、自分はどんな人間orスーパーヒーローになっていくのか、という多様なアイデンティティのことをしっかりと描いていました。

 

日本のマンガについての動画講座もありました。日本ではコンビニや本屋など割とどこでもマンガが買えるが、アメリカではコミックスはコミックショップという専門店で買うものであるという話など、日米のマンガ/コミックスの比較が語られていました。

※Photo by Lena Rose on Unsplash

※Photo by Lena Rose on Unsplash

 

という感じで、無料でこんなにたっぷりと講座が受けられるのかと、結構得した気分です。この講座を受けてからコミックスや映画を見れば、より楽しめるのではないかと思いました。

好きなテーマで楽しく学ぶ。

edXでは、今回試したようなポップなテーマから、バリバリのビジネス系の講座、硬派で伝統的なテーマの講座まで、とにかく幅広いテーマを扱う本格的な講座を、好きな場所好きな時間に受けることができます。

 

海外の大学や研究機関ってどんなことを教えるのかな?と気になる人、英語に挑戦してみようかな?と思っている人など、何か学びの場に飛び込んでみようと思う人には、こうしたオンライン講座という選択肢もよいのかもしれません。

 

ちなみにedX以外にもオンラインの学校はあるので、機会があればそちらも挑戦してみようと思います。

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