ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

木の音を通して森林と音楽の未来を考える。京都大学生存圏研究所の公開講座をレポート

2024年3月26日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

ピアノやギター、バイオリン。日本の琴や太鼓や琵琶。これらの楽器に共通しているのは、「木」が使われているということ。

なぜ多くの楽器に木が使われ、人はその音を心地よく感じるのでしょう。木の音を通して未来の森林を考えようという講座「⽊の⾳から⼈と地球の未来を考える」(オンライン配信)が京都大学生存圏研究所の公開講座「サステナブルな未来を創る新しい材料のはなし」の第4回として行われ、視聴してみました。講師は森林科学を専門とする仲井一志先生(京都大学⽣存圏研究所特定准教授)です。

楽器の適材適所

楽器の中でもピアノなどは身近で触れることが多かったのですが、何の木が使われているのか意識したことはほとんどありませんでした。どんな木が使われているのでしょう。

講座スライドより。今回の講座では、主にヨーロッパの楽器について紹介されました。

 

ピアノに使われているのはスプルース(トウヒ)、エボニー(黒檀)、マホガニー、メープル(カエデ)など。このほかにも、ギターにはローズウッド、リコーダーにはツゲやサクラなど、さまざまな木が使われています。

こうした木が使われるようになったことについて「もともとは身近で手に入りやすい木を鳴らし、響きのよいものが楽器に使われるようになったのでしょう」と仲井先生。ヨーロッパの楽器はヨーロッパで入手できる木材から作られていましたが、大航海時代の幕開けとともに使われる木材の構成ががらりと変わり、世界中の木が使われるようになります。

 

世界には約7万種の樹木種があり、そのうち楽器に使われている木の種類は約70種類。全体からみるとわずかなようですが、「これほど多くの種類を組み合わせて使っているのは楽器業界ぐらい」なのだそうです。

実際にどのように木を組み合わせているのか、バイオリンを例に見てみると……。

講座スライドより。画像はバイオリンの名器として知られるストラディバリウス。

講座スライドより。画像はバイオリンの名器として知られるストラディバリウス。

 

表板に使われるのはスプルースというマツ科の木(『ハリーポッター』でよく出てくる森林はこの木だそうです)。軽くてよく鳴るという特徴があり、バイオリンは表板から音を広げるため、鳴りやすい性質をもつスプルースは適材です。

裏側や側面に使われているのはメープル(カエデ)で、弦を張った黒い部分はエボニー(黒檀)。エボニーは水分を吸収してもふくらみにくいという特性があり、弦をおさえる演奏者の汗がつきやすいこの部分に適しています。

 

鳴りやすさや硬さなど、木の種類ごとの性質を表したのが下の2つの表(緑枠内)です。

講座スライドより。(枠内緑字は、ほとんど0円大学編集部による追記)

 

表には、クラリネットの管体などに使われるアフリカン・ブラックウッド、バイオリンの表板などに使われるヨーロッパスプルース、マリンバ(木琴)に使われるホンジュラスローズウッドなど6種類の木材の、音速(振動が伝わる速さ)や減衰のしやすさ、硬さなどが示されています。硬くて重く鳴りやすいアフリカン・ブラックウッド、軽くてやわらかく鳴りやすいスプルース、硬くて重いが鳴りにくいエボニーなど、それぞれの木の特徴が見てとれます。

 

「やわらかく、鳴りやすいスプルースは振動を伝える音響材として優秀と言えます。楽器用の木材と言うと硬くて重い木材が良いと思われるかもしれませんが、必ずしもそういった木材だけが楽器に使われているわけではなく、楽器がどのように音を発するかを考えたうえで、それぞれの特徴を生かすよう用途によって使い分けられていることがわかると思います」。適材適所というわけですね。

なぜ心地よい? 木の音色

木の音というと、やわらかみのある、心地よい音というイメージです。なぜ心地よく感じるのかを一言でいうと「木は異方性を持つからです」と仲井先生。

異方性とは聞きなれない言葉ですが、ある方向には強く、ある方向には大きくしなるというように、方向によって強度などが変わる性質のこと。木は森林の中で上に伸びていくため、タテ方向に強い性質があるのはわかりますが、この性質が、木の音色にどう関係しているのでしょう。

講座スライドより

講座スライドより

 

音色は、音が出た瞬間(「ポン」とか「コン」とか)がいちばん大事だと思っていたんですが、仲井先生によると「音がどのように消えていくか」も、非常に重要なのだそうです。

 

音が鳴るとはどういうことかというと、まず振動の入力(木をたたくなど)があり、木が振動し、鳴ります(振動が空気に伝わる)。

振動の大きさは入力したときがピークで、そのあとは減衰していきますが、減衰のしかたに注目すると、木は異方性があることにより振動時の音の損失が大きく、金属などと比べると高音が減衰しやすい性質があります。高音が消え、低音がよく響くと人はそれを「あたたかい音」ととらえ、心地よく感じるのだそうです。

クラリネットとごま油の意外な関係

楽器に使われる木は、当然、どこかの森林で育っているわけですが、これまで楽器と森林とを結びつけて考えたことはほとんどありませんでした。楽器と森林とはどのような関係があるのでしょう。

 

仲井先生によると、全世界の産業用木材(丸太原木)の生産量は年間約40億㎥(人口一人当たりに換算すると0.5 ㎥ぐらい)。消費される丸太原木は数億~20億㎥で、そのうち楽器製作に使われる量は、日本の楽器メーカーであるヤマハの場合、年間約8万㎥。全体からみると大きな量ではありませんが、なんの問題もないわけではなさそうです。

 

仲井先生が例として挙げたのは、クラリネットやオーボエの管体に使われるアフリカン・ブラックウッドという木です。タンザニアの森林で育つ硬く黒い木で、豊かな響きを生み出しますが、生長に時間がかかる貴重材で減少傾向にあり、国際自然連合のレッドリストで準絶滅危惧種に分類されています。

講義スライドより。仲井先生は数年前からタンザニアの森林保全モデル構築などに携わっています。

 

タンザニアでは林業より農業の優先度が高く、意外にも私たちの食卓にも上るごま油ともかかわりがあります。世界有数のゴマ生産国であるタンザニアではゴマが高い値段で売れるため、ゴマの作付面積はここ15年で5倍に増加。ゴマ栽培のために焼き畑が進み、食糧需要が森林を圧迫しているのです。

 

森林資源を楽器にも、他の用途にも使いたい。でも、森林の近くで暮らす人たちの生活も大切です。

「食糧需要との共存がカギの一つ」と言う仲井先生は、「楽器の新しい材料開発や、手に入りやすい木材に置き換えるイノベーションも必要だと思います。ただこの講座では、高品質な木材が育つよう森を適切に管理し、伐採して有効に使い、産業として原産地域に利益をもたらす持続可能なモデルを推奨したい」。

 

木は50年、100年と、人間の経済活動とは異なる時間軸で生長します。仲井先生はタンザニアでブラックウッドの植林も計画的に進めていますが、これが楽器に姿を変え、音を響かせるのは50年以上先のことになります。

調査の様子

調査の様子

(左)育成中の苗木 (右)育てた苗木を植えつけ

(左)育成中の苗木 (右)育てた苗木を植えつけ

 

楽器の材料開発にも携わってきた仲井先生は「楽器の材料という観点でいうと、木は人工的に再現することが本当に難しい。楽器は木材の価値を最大限に高められるものなので、価値のある材料を次世代にも使ってもらいたい。楽器を通して木を見て森を見て、未来の森林を考えるきっかけにしてもらえたら」と語りました。

 

講座を視聴後、オーケストラの演奏を聞きに行く機会があり、今まで意識することのなかった楽器の「木」に意識を向けて聞いてみました。一目で木でできているとわかるバイオリンやチェロなどがずらりと並んだステージ。ホールの天井や壁を覆う木の反響板。耳を傾けていると、木や森が音を奏でているような心持ちがして、音楽は自然の恵みでもあったと気づきました。

 

今年の桜はどこで見る? 大学でお花見♪のススメ

2024年3月19日 / まとめ, トピック

そろそろ桜前線のニュースが気になる季節。近所の桜を愛でるもよし、有名どころに出かけるもよし。広い敷地で桜が観賞できる大学キャンパスにも、お花見の穴場的スポットが少なくありません。これまで「ほとんど0円大学」で紹介した大学の桜情報をふりかえってみました。

 

都内屈指の桜の名所・千代田区~大妻女子大学

千代田区が毎年開催している「千代田のさくらまつり」の一環として行われる大妻女子大学の「大妻さくらフェスティバル」。今年のさくらフェスティバルは3月16日に終了し、お花見ができるキャンパス開放が3月下旬に予定されています。キャンパス内のサクラ並木を自由に散策できるようですよ。

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キャンパスの自然を満喫~大阪公立大学

多様な樹木に野鳥、昆虫などの生物が生息する大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス。2024年はイベント(「花(さくら)まつり」)の予定はありませんが、みごとな桜並木は訪れる人の目を楽しませてくれそう。同大学の附属植物園(大阪府交野市)では、ヤエベニシダレなど枝垂れ桜のライトアップも予定されています。

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公家のお屋敷と枝垂桜~平安女学院大学

平安女学院大学京都キャンパスにある有栖館。京都御所に近い公家のお屋敷(有栖川宮旧邸)で、毎年春と秋に特別公開が行われる国登録有形文化財です。残念ながら2024年春の特別公開はありませんが、東に面した烏丸通りから、古都の風格のある枝垂れ桜を拝めそう。

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桜とお城と博物館展示~大阪青山大学

キャンパスの中にお城の建物があって、ちょっと驚く大阪青山大学の北摂キャンパス。お桜とお城のコラボは見ものです。建物の中は博物館になっていて、博物館の展示とお花見を同時に楽しめそう。今年は3月下旬に一般公開が予定されています。

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キャンパスの桜を地域の人に開放している大学は多く、皆さまのお近くでも見つかるかもしれません。日ごろのあれこれを忘れ、(アカデミックな場所なので、アルコールはなしで……)春の到来を満喫したいですね。

 

大河ドラマにちなんで特集 「源氏物語」を生んだ時代を知る記事5選

2024年3月7日 / まとめ, トピック

2024年の大河ドラマで注目の集まる「源氏物語」。主人公の紫式部(ドラマの中では「まひろ」)はどんな人生をたどり、やがて「源氏物語」を構想するのでしょうか。

当時の貴族社会は現代とはまったくちがう枠組みの中で動いていましたが、どんな時代や社会が「源氏物語」を生んだのか、今回はドラマの舞台となった平安時代を知る手がかりになりそうな記事を集めてみました。信仰、音楽、衣装など、興味のあるところをご覧になってみてください。

 

信仰と建築

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作者である紫式部の生没年ははっきりとわかっていませんが、40歳くらいで他界したとする説があります。源氏物語では光源氏が40歳で長寿のお祝いをするシーンが登場するなど当時は今よりはるかに平均寿命が短く、死との距離も近かったのではないでしょうか。

この頃さかんだったのが、死んで極楽浄土に生まれ変わるという浄土信仰です。シャカの死後2000年をへると世の中が乱れるという末法思想が広がり、末法の世に入るとされた年(永承7年(1052年))、あこがれの極楽浄土を具現化した平等院鳳凰堂が開創されました。

 

現世と極楽浄土を取り巻く風景はどのようなものか。それを解き明かす講義レポートです。

 

●記事はこちら!京都アカデミアウィークで学ぶ、平等院鳳凰堂「1000年の時空を超える、極楽浄土への憧れ」

 

音楽

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その平等院鳳凰堂の菩薩像がもつ楽器についてのセミナーレポートです。平等院というと純和風というイメージですが、楽器の由来は国際的。楽器をもつ菩薩像の優しい表情にも心が安らぎます。

 

●記事はこちら! → 平等院鳳凰堂に響く天上の音楽を聴く――京都市立芸術大学 オンラインセミナーをレポート

 

衣装

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宮中の人々がまとう華麗な衣装も、ドラマの見どころのひとつ。主人公が舞を舞う場面がありましたが、衣装の重さは相当なもので、見た目の優美さとはうらはらにかなり体力を使いそうです。衣装を着つけたり、糸を染めたり織ったりしていた人たちの存在も感じる展示のレポートです。

 

●記事はこちら! → 千年続く物語――女子宮廷装束の華、京都産業大学ギャラリー企画展をレポート

 

文字

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歌会などで平安貴族がさらさらーっと書いている文字。「何が書かれているのか知りたい」という意欲的な方には、こんなアプリがあります。

 

●記事はこちら! → 大学アプリレビューvol.24 撮影するだけ!いつでもどこでもくずし字を認識してくれるAIアプリ「みを(miwo)」

 

平安京

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VRで平安京の景観を現在の京都によみがえらせるというアプリ。町を歩いていて「このあたり、むかしはどんな景色だったのかな」と思ってしまう歴史好きな方、京都にお出かけになる予定があればぜひダウンロードを。意外な景色が広がりそうです。

 

●記事はこちら! → 大学アプリレビューvol.18  AR技術でタイムスリップ!?平安京を歩けるスマホアプリ「バーチャル平安京AR」

 

ドラマではこれからどんな物語が紡がれていくのでしょうか。当時の人々の考え方やくらしを知りながら、稀有な女性の生き方を見守りたいと思います。

 

見た目が派手なだけじゃない! 芸と気配りの宣伝業『ちんどん屋』に大阪大学総合学術博物館で触れる

2024年2月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

画像:ちんどん通信社 (有)東西屋のみなさん

 

鉦(かね)や太鼓を「チンチン、ドンドン」と打ち鳴らし、街を練り歩く「ちんどん屋」。音楽や派手な衣装で人目を引き、店のオープンや売り出しなどを宣伝する人たちです。

「映画やドラマの中で見たことはあるけど……」という方が多いかもしれませんが、令和の今も各地で活動しているのをご存じでしょうか? SNSやWebなどさまざまなメディアがあふれる今、昔ながらのアナログな宣伝方法が生きつづけているのはちょっと不思議な気もします。大阪大学総合学術博物館で開かれている『ちんどん屋』展(2024年2月17日まで開催)を見に行き、企画担当の山﨑達哉さん(大阪大学中之島芸術センター特任研究員)の解説を伺ってきました。

時代の激動期、新旧の芸能が集積

ちんどん屋の先駆者があらわれたのは江戸時代末期の大坂。寄席で宣伝用のビラを撒くのが禁じられ、「ビラがだめなら声で」と、売り声の上手な飴(あめ)売り「飴勝」が客寄せを請け負ったのがはじまりだそうです。

 

客寄せの売り声というと、映画『男はつらいよ』で「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又……」と寅さんが朗々と述べるシーンを思い浮かべてしまいますが、「寅さんが自分の商売の宣伝をしているのに対し、ちんどん屋は人の商売の客寄せを請け負っています」と山﨑さん。道行く人の注目を集めるため、さまざまな楽器を使うのも特徴のひとつです。

ちんどん屋で使われる楽器の一部。鉦や太鼓、ちんどん太鼓(中央)など。

ちんどん屋で使われる楽器の一部。鉦や太鼓、ちんどん太鼓(中央)など。

 

もともとは一人で拍子木などを鳴らし口上を述べるシンプルなものだったようですが、後進が続き、そのスタイルは多様になっていきます。浄瑠璃や芝居の口上を語る人、三味線や太鼓など和楽器で楽隊をつくる人、トランペットやサックスなど西洋楽器で楽隊をつくる人。トーキー映画の登場で仕事を失った無声映画の楽士(伴奏音楽の演奏者)、はたまた旅回りの役者や芸人が転身してきたりと、さまざまな人と芸を取り込み、昭和の初めごろに今のちんどん屋の形ができてきたそうです。

展示の映像資料より

展示の映像資料より

 

上の資料では和洋の楽器と衣装が入り混じり、さらに右手のちょんまげ姿の人はだれかを背負っているような芸を披露しています。カオスを感じますが、この混然一体ぶり、江戸末期から昭和にかけての時代の激動を映していたんですね。

 

戦後もちんどん屋は活躍します。メディアの多様化などにより一時は急激に数を減らしましたが、各地で新しい世代の担い手が現れ、街頭での宣伝のほかイベント出演などで活動。年に一度、「全日本チンドンコンクール」も行われています。

 全日本チンドンコンクールPR動画 30秒Ver (youtube.com)

 

ちなみにちんどん屋が演奏する曲は、寄席の音楽や演歌、歌謡曲やJポップのヒット曲、アニメの曲などさまざま。最新のものを常に取り入れるところは、草創期と変わらないようです。

ちんどん屋(的な人)は、海外にも存在する?

以前、大阪の観光地でちんどん屋に出会ったことがあり、日本人も外国人も足を止めて笑顔で見入っていたのが印象に残っていました。日本以外でも、こうした手法で集客を請け負うような人たちはいるのでしょうか。

山﨑さんに聞くと、「ちんどん屋のように街頭で、集客目的で演奏する楽隊の存在は日本以外ではあまり聞かないですね」とのこと。

 

路上パフォーマンスは欧米などで盛んですし、海外版のちんどん屋があってもよさそうなものですが……。では音楽そのものの性質、または音楽のとらえ方のようなものが海外(特に欧米)とは違うのでしょうか?

山﨑さんは「ちんどん屋の音楽は『音楽』というより、『音』を楽しむことに近いかもしれません。もちろん純粋に音楽として楽しむ方も多いと思いますが、遠くから聞こえるお祭りのお囃子などを嬉しく思う感覚に近い気がします。音そのものを聞くことに喜びを見出している方々もいるのではないでしょうか」。

 

なるほど、お祭りのお囃子に近いというのはわかる気がします。私が見たちんどん屋の演奏も人の注意を引きつつ、まるで環境音のようにうまく周りに溶け込んでいました。場所に合わせて音量を調節するのはもちろんのこと、演奏する曲も季節に合うものを選んだり、リクエストに応えたり。街全体の雰囲気をつかみ、目に見えるところ以外の状況にも気を配りながら演奏をしているそうです。

ちんどん屋の未来

多くの宣伝メディアがひしめく中、ちんどん屋はこれからどうなっていくのでしょう。山﨑さんは「ちんどん屋は爆発的に多くの人に届く宣伝方法ではありませんが、地元密着型のお店には効果的です。SNSとも相性がいいので、これからも可能性はあるのではないでしょうか。ちんどん屋は今もあって、だれでも宣伝を依頼できることを知ってほしい」と話してくれました。

 

自分がちんどん屋に出会った体験から言うと、出会うとなぜかうれしくなる存在です。異世界からやってきたかのような外見に、細やかな気配りで人の心をつかむちんどん屋。またどこかで、ばったりと出会いたいものです。

 

年末大特集 2023年 TOP10記事発表

2023年12月26日 / まとめ, トピック

新型コロナが5類感染症に移行した2023年。「3年ぶり」「4年ぶり」という言葉を耳にすることも多く、大学でも対面の活動が本格的にもどってきました。「ほとんど0円大学」でも、昨年より対面イベントや学食の取材が増えたと感じます。そんな2023年によく読まれたのはどんな記事でしょう? 年末恒例の年間ランキング<トップ10>をお届けします。

※年間PV数(閲覧回数)によるランキング

10位|関東学院大学×有隣堂コラボのカフェ「BACON Books & cafe」がオシャレすぎる!

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関東学院大学が横浜の老舗書店・有隣堂とコラボしたブックカフェ。有隣堂の選書チームが選んだ本が並ぶおしゃれ空間で、パティシエが作ったスイーツや良質なお肉を使った料理、さらにクラフトビールなどのお酒も味わえるそう。これはパラダイス。

 

記事はこちら!→ 関東学院大学×有隣堂コラボのカフェ「BACON Books & cafe」がオシャレすぎる!

 

9位|カラフルに光る新種鉱物、実は見過ごされてきた存在だった? 「北海道石」研究チームの石橋隆さんに伺った。

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2023年5月に発見された新種鉱物「北海道石」。紫外線を当てると、きれいな蛍光カラーを放ちます。鉱物の新種とはどういう概念か、なぜこのような色になるのか? 研究チームのお一人に話を伺いました。

 

記事はこちら!→ カラフルに光る新種鉱物、実は見過ごされてきた存在だった? 「北海道石」研究チームの石橋隆さんに伺った。

 

8位|日本最大級の偽文書「椿井文書」とは? 大阪大谷大の特別展で実物を見てみた

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生成AIが一瞬で作る画像や文章に「ここまでうまくできるの?」「著作権はOKなの?」と驚くやら、モヤモヤするやら。一方、こちらは気軽にコピペなどできない時代のニセモノを展示しています。ニセモノと指摘された時の抜け道づくりも、ぬかりなし。

 

記事はこちら!→ 日本最大級の偽文書「椿井文書」とは? 大阪大谷大の特別展で実物を見てみた

 

7位|ピアノは“女子のたしなみ”? フェリス女学院大学でジェンダーの観点からクラシック音楽を考える。

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モーツァルトやベートーベンなど、クラシック音楽の作曲家と聞いて思い浮かべるのは男性ばかり。男性がクラシックの主役だった背景には、どんな理由があったのでしょう。そして今はどうなっているのでしょうか。見過ごされてきたクラシック音楽とジェンダーとの関連に切り込みます。

 

記事はこちら!→ ピアノは“女子のたしなみ”? フェリス女学院大学でジェンダーの観点からクラシック音楽を考える。

 

6位|東京駅直近の博物館「インターメディアテク」で骨格標本作りについて聞いてきた

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東京大学総合研究博物館と日本郵便株式会社が協働運営する博物館、インターメディアテク(IMT)。この一角で骨格標本を製作している中坪啓人さんへのインタビュー記事です。なかなか知る機会のない骨格標本づくりの工程やこだわり、この仕事との出会いまで、くわしくお聞きしました。

 

記事はこちら!→ 東京駅直近の博物館「インターメディアテク」で骨格標本作りについて聞いてきた

 

5位|東大駒場Ⅱキャンパスに誕生した新たな形の学食「ダイニングラボ・食堂コマニ」

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食材へのこだわりはもちろんのこと、ランチタイムに15分ほどの研究紹介が行われることもあり、居合わせた誰もが参加可能とのこと。一般の人も気軽に参加できる大学ならではの取り組み、とても魅力的です。

 

記事はこちら!→ 東大駒場Ⅱキャンパスに誕生した新たな形の学食「ダイニングラボ・食堂コマニ」

 

4位|“カワイイ”と感じる音がある? 音とイメージが結びつく「音象徴」という現象について、関西大学の熊谷学而先生に聞く

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パ行はカワイイ感じがするなど、音が何らかのイメージを喚起することってありますよね。なぜ音からそうした印象を受けるのでしょう? 音とイメージのつながりについて、言語学の先生にお聞きしてみました。

 

記事はこちら!→ “カワイイ”と感じる音がある? 音とイメージが結びつく「音象徴」という現象について、関西大学の熊谷学而先生に聞く

 

3位|使い勝手抜群の大阪公立大学のカフェ&レストラン「野のはなハウス」で優雅なランチタイム

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2022年4月に誕生した大阪公立大学内のカフェ&レストラン。運営する社会福祉法人は農業も手がけていて、収穫した野菜がこのレストランでも使われているそう。野菜たっぷりでこのお値段。近隣の方がうらやましい!

 

記事はこちら!→ 使い勝手抜群の大阪公立大学のカフェ&レストラン「野のはなハウス」で優雅なランチタイム

 

2位|珍獣図鑑(18):省エネだけど意外に大胆! ナマコの生き方「なまこも~ど」のススメ

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海の底でのったりと横たわっているイメージのナマコですが、ストレスを感じると自分の内臓すら捨てて逃げるそうです。マネすることはできませんが、ストレス対処の心得として、ある程度参考にできれば……。

 

記事はこちら!→ 珍獣図鑑(18):省エネだけど意外に大胆! ナマコの生き方「なまこも~ど」のススメ

 

1位|中央大学の学食「ヒルトップ食堂」でご当地グルメ・八王子ラーメンを食べてきた!

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いや~、おいしそう。表面に浮いている天かすのようなものは、背脂だそうです。「ヒルトップ食堂」は4階建ての建物で、1階から4階までの全フロアが飲食店。食べ盛りの学生さんの胃とココロをがっちりつかんでいるようです。

 

記事はこちら!→ 中央大学の学食「ヒルトップ食堂」でご当地グルメ・八王子ラーメンを食べてきた!

 

*  *  *

 

今年は、学食レポートがトップ10に復活したのが特徴的。学食レポート4記事がランクインし、1位はラーメン! やっぱり食はすべての基本ですね。来年もおいしく食事がいただけますように、そしていろんな活動を楽しめますように。どうぞよい新年をお迎えください!

 

<ご参考> 過去のランキング

2022年版2021年版2020年版2019年版2018年版

 

阪大ワニカフェで体験! 自分らしい人生を送るための「演劇で考える人生会議」

2023年11月9日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

全人口の4人に1人が70才以上という日本。老いを身近に感じている人は多いかもしれません。

今回注目するのは、人生の「もしも」のときの医療やケアなどの希望を前もって考え、身近な人と共有するという「人生会議」。これを、演劇を通じて考えるという大阪大学発の対話イベント「阪大ワニカフェ『演劇で考えるACP(人生会議)』」が行われ、足を運んでみました。人生会議というテーマに加え、それを演劇で考えるという点も気になります。どんな内容なのでしょう。

 

「阪大ワニカフェ」は、大阪大学の研究者・専門家が地域の方々と対話し、様々なトピックについて一緒に考えるというイベントです。今回参加したのは20代~80代の約30名。ワニは大阪大学のマスコットキャラクターにちなんでいます。

「阪大ワニカフェ」は、大阪大学の研究者・専門家が地域の方々と対話し、様々なトピックについて一緒に考えるというイベントです。今回参加したのは20代~80代の約30名。ワニは大阪大学のマスコットキャラクターにちなんでいます。

カフェの名の通り、参加者にはお茶やコーヒーが振る舞われてリラックスした雰囲気。

カフェの名の通り、参加者にはお茶やコーヒーが振る舞われてリラックスした雰囲気。

「縁起でもない!」波乱の幕開け

この日は寸劇から始まり、ミニレクチャー、演劇の手法を使ったメインワークと対話という流れです。ゲストは劇作家で演出家、京都大学経営管理大学院特定准教授の蓮行(れんぎょう)さんと、蓮行さんが率いる劇団衛星のみなさん。蓮行さんは演劇公演のほか、演劇教育、コミュニケーションデザインの専門家として、企業や学校などで演劇の手法を用いたワークショップを多数行っています。

蓮行さん(中央)。寸劇を演じるのは劇団衛星の黒木さん(左)と紙本さん(右)。

蓮行さん(中央)。寸劇を演じるのは劇団衛星の黒木さん(左)と紙本さん(右)。

 

寸劇はこんな内容です。家で編み物をしている母親のもとに、娘が仕事から帰宅。娘は、職場の人のお母さんが急病で倒れ、人工呼吸器をつけるかどうかなど重大な判断を迫られて大変だったらしいと話し、「人ごとではないから、お母さんにもしものことがあったときのことを話したい」と持ちかけます。

すると母親は「縁起でもない!」と拒否反応。言い合いになってしまい、ついには「もういい! そうなったら、その時に考える、それがお母さんの人生や」「早く寝なさい」と話を打ち切ってしまいます。

 

いかにもありそうな展開に会場は大笑い。ここで演じていた2人はいったん役を離れ、なにやら話し合いをはじめます。「『人生会議』って、人生の終盤のことばかりではなく、好きなことや今大切にしていること、もしものときのことを身近な人に話しておこうってことよね」。

寸劇を演じた二人

寸劇を演じた二人


そして、再び親子の会話にもどります。「今、お母さんの好きなことって何?」と娘に聞かれた母親は、好きな編み物のことや、家族と美味しいものを食べたいこと、これからのことなど穏やかに話して会話が進んでいきます。リアルで自然なやりとりに引き込まれているうちに「へぇ、人生会議ってそういうことか」ということがわかる内容です。

人生の「まさか」に備える

続いてはミニレクチャー。人生会議について解説してくれたのは箕面市立病院 病院長の岡義雄先生です。外科医としてがん患者の治療にあたってきた岡先生は人生会議の大切さを痛感して、こうしたイベントや講座などで人生会議の普及に取り組んでいます。

岡先生

岡先生

 

人生会議はもともとアドバンス・ケア・プランニング(ACP;Advance Care Planning)といい、日本ではより親しみやすいよう、人生会議という愛称がつけられています。

 

人生のもしものとき、例えば手術で救命が困難になったときなど、本人の意思を確認できないまま人工呼吸器をつけるかどうかの選択を家族が迫られるような場合があります。家族の意向で延命したとしても本人はそれを望んでいなかったかもしれず、家族は「この選択でよかったのか」と長く引きずる可能性もあると岡先生は言います。

また別のケースで、ピアノを弾くことを生きがいとしている人が病気の治療によって指のしびれが出るとしたら、生きがいを失うことになりかねません。

「『まさか』はまだまだ先のことと考えがちですが、それは突然やってくること。防災でふだんの備えが大切なように、生きがいや希望すること、してほしくない治療などについてもふだんから身近な人と話して共有することで、望んでいた医療・ケアを受けることができます」(岡先生)。

 

どのような医療やケアを受けたいかは、その人が「どう生きたいか」ということでもあります。そのため人生会議(ACP)で話し合うことは医療のことばかりではなく、生きがいや、その人が大切にしていることなども含みます。

 

配付資料より

配付資料より

 

「行きたいところ、お金の心配、飼っているペットをどうしようといったことなど、お茶を飲みながら気軽に話をしてもらえたら。なにげない日常会話でも、または人が集まるお盆や正月などで話すのもいいですね」。

 

考え方は変わっていくことがあるため、人生会議は一度きりではなく、くり返し話してアップデートすることも大切だそうです。「元気なときから、まずは気楽に始めてほしい」と岡先生は強調しました。

 

配付資料より

配付資料より

 

メインワーク お茶の間「人生会議」

うーん、人生会議ってそういうことだったんですね。理解が深まったところで、いよいよ演劇のメインワークです。

舞台は自宅のお茶の間。家族の一人が「もしものことを相談したい」と人生会議をついて切り出す設定です。

配付資料より

配付資料より

 

配付資料より。ご先祖様は現世の二人には姿が見えないという設定。

配付資料より。ご先祖様は現世の二人には姿が見えないという設定。

 

上の資料のように3人一組で人生会議を行おうという内容。全員が3つの立場すべてを体験できるよう、役を替えながら合計3回行います。

 

登場人物の年齢は各チームでカードを1枚引いて決めます。人生会議を切り出す人は引いたカードの数字の8倍、切り出される人は4倍の年齢というルール。例えば写真(7のカード)の場合、(7の8倍で)56才、(7の4倍で)28才という組み合わせになります。

登場人物の年齢は各チームでカードを1枚引いて決めます。人生会議を切り出す人は引いたカードの数字の8倍、切り出される人は4倍の年齢というルール。例えば写真(7のカード)の場合、(7の8倍で)56才、(7の4倍で)28才という組み合わせになります。

 

ちょっと緊張してしまいそうですが、参加者どうしで視線や言葉をかわすアイスブレークも行われ、和気あいあいとした雰囲気。

1分間の役づくりの後、「ピンポンパンポーン♪」「極楽放送局なんじゃ~。君たちの孫やひ孫が大事な話をしようとしてるんじゃ~」と、思わず力の抜けてしまいそうな蓮行さんのアナウンスでワーク開始です。

はてさて、どんな会話が繰り広げられるのか?

「ただいま~」「今日は何してたの?」。冒頭の寸劇は、このワークのひな型にもなっていたようです。

「ただいま~」「今日は何してたの?」。冒頭の寸劇は、このワークのひな型にもなっていたようです。

 

身を乗り出して真剣な表情で聞き入ったり、笑い声が上がったり。自分自身のこと、身近な人のことを思い浮かべながら、話し合いが進んでいる様子です。

ワーク後は「まさに自分の現実そのままだった」「もしものことがあっても、延命治療などせずに天命を全うしたい」「まだ早いと思っていたけど、準備をしておかないといけないと思った」などの感想が交わされました(中には「じいさんと同じ墓には入りたくない」などの発言も……)。

 

3つの立場すべてを体験した後は「若い方から話を切り出すのは難しいけど、年齢の高い方にとっては身近で起こっていることなので切り出しやすい」「改まってというよりも、日常の延長のような感じで話すと若い人も受け入れやすいのでは」などの声が聞かれました。人生会議をシミュレーションすることで、さまざまな気づきがあったようです。

「介護のことなど、なるべく細かく決めておいた方がいい」など、体験にもとづいたアドバイスも交わされていました。

「介護のことなど、なるべく細かく決めておいた方がいい」など、体験にもとづいたアドバイスも交わされていました。

 

話は尽きない様子でしたが、メインワークと対話はこれにて終了。「今回は三者(話をする人、される人、見る人)のロールプレイング。ぜひ家庭や職場、地域にこのやり方を持ち帰って、やってみていただければ」と蓮行さんがしめくくりました。

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蓮行さん

 

取材前はテーマの内容から「ちょっと重い話になるのでは」と想像していましたが、実際に見てみると率直で前向きに話し合える場になっていて、自分も参加者として話に加わりたいと思うほどでした。

日本ならではの親子関係

この後、質疑応答ではこんなやりとりがありました。80代の両親が老老介護だという参加者から「自分らしい死に方って何でしょうか」という質問があり、「自分の両親には自分らしい死に方を選んでほしいけど、それは子どもの立場からみると面倒なことかもしれない。自分自身は最期まで家で暮らしたいけど、自分の子どもに対しては(自分は)病院でいいと話している。自分らしい死に方と言いつつ、子どもにとって世話のしやすい死に方を選んでいるのではないか」という内容です。

これに対し、もと大阪大学の哲学の教授で現在は「哲学相談おんころ」の代表理事をつとめる中岡成文さんは「日本では自分の意思と誰かの意思とが融合してしまっているけれど、自分の意思の輪郭をもっとはっきりした方がいいのでは」と話し、「子どもに迷惑をかけたくないのはわかるけど、それが子どもにとってもいいことかどうかはわからない。子どもに聞いてみてはどうか」と提案。

別の参加者からも「親の子どもに対する遠慮は愛情からくるものだと思うが、本当の気持ちを伝えてもらった方が娘としては嬉しい」という意見が出ました。

 

また、大阪大学で ACP を研究している大学院生で看護師という参加者は「ACPが発祥したアメリカでは自己決定や自立を重んずるが、日本には異なる親子関係や家族の文化があり、それを切り離して自己決定、自立とは、なかなか言い切れないところがある。日本の文化に合ったACPがあっていいし、子どもに迷惑をかけたくないというのも自分の意思。家族でしっかり話し合って決めていくことが大切ではないか」。

 

親と子それぞれの思い、個人の意思を重視する考え方、さらに日本に特有の親子関係にも踏み込まれていて、とても共感できるやりとりでした。

* * *

 

この日は参加者の意欲の高さに加え、ワークの内容や全体の進行がとてもうまく組み立てられていたという印象を受けました。終了後、蓮行さんにお聞きしたところ、今回はテーマがデリケートなだけに話が深刻になりすぎて参加者にトラウマが残ったりしないよう、寸劇やワークの内容、進行などに細心の注意を払っていたとのこと。人生会議をテーマとした演劇ワークを行うのは今回が初めてで、半年もの準備期間があったそうです。

「演劇は完成した作品を楽しむだけではなく、演劇を作るプロセス自体が今回のような場や教育の場面でも非常に有用」と蓮行さん。そのことが実感できるイベントだったと思いました。

岡先生は「演劇というスタイルがいろんな世代の人にうまくかみ合ったのでは」とふりかえり、「今回のワークを通じて ACP を理解し、少しでもやってみようと思っていただけたら今日の目的は達成されたと思う。ぜひお茶の間に広まってほしい」と語りました。

 

筆者も身近な人の老いに直面する場面が増え、戸惑うことや心配ごとが多くなりました。今、大事にしたいことや、これから先どう暮らしたいかなどについて、気軽に、でも今までよりも少し意識して話してみたいと思いました。

 

大学発広報誌レビュー第32回 東京理科大学「東京理科大学報」

2023年11月7日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

洗練された装い、中身は直球。

全国の大学が発行する広報誌をレビューする「大学発広報誌レビュー」。今回とりあげるのは、東京理科大学が発行する『東京理科大学報』です。

東京理科大学は、自然科学の教育を行う高等教育機関のうち、日本の私立大学としては最古の歴史を持つ理工系総合大学(1881年(明治14年)創立)。『坊っちゃん』(夏目漱石)の主人公が卒業した学校(東京理科大学の前身・東京物理学校)としても知られます。

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『東京理科大学報』最新号(2023年10月号)

 

最新号の表紙は色とりどりの糸を使ったアートワーク。この号の特集テーマは「社会課題の解決に挑む」で、「いろいろな分野、視点が寄り合わさって問題解決の形になっていくことを糸かけアートで表現しています」と同大学の広報担当者。

 

表紙を開くと、糸かけアートの全体像が現れます。数学的な図形、または植物の断面のようにも見える?

 

特集で紹介されているのは、北海道・長万部キャンパスを拠点に、住民の方々と未来を構想し実践する経営学部の授業。「コ・デザインプロジェクト」というものです。

課題解決とは昨今よく耳にする言葉ですが、「コ・デザインプロジェクト」では「問題」「解決」と簡単に言ってしまわないところが面白い。ここで大切なのは「問題」や「解決」ではなく、対象に向かう姿勢や態度なのだとか。

 

下の見開きページでは、理工学部が「創域理工学部」と改称し、分野横断的な講義や、学科の異なる学生どうしの協働が行われていることが紹介されています。

キャプチャ

 

大学の教育の特長やめざすものが前面に打ち出された特集テーマですが、過去の号でもその姿勢は共通しています。例えば前号(2023年7月号)の特集テーマは、ズバリ「教養のススメ」。

2023年7月号の特集ページ

 

東京理科大学では2021年に教養教育・研究のため「教養教育研究院」を設立。上の特集ページでは院長が教養教育について語っています。

「専門教育を受けてきた人にとっての教養を『知の伴走者』ととらえる」という院長のメッセージが同研究院の公式サイトに掲載されていますが、その意義がよく伝わってくるのが下の記事です。

 

ジェンダー、社会学を専門とする教授のインタビューで、「問題が生じた時に、それがどんなに個人的な問題に見えようとも、社会的な行動との関係において捉える力を身につけることが大切」「それによって、いたずらに自分を責めたり、自己責任論によって他者を非難して終わることは避けられるのではないか」という言葉が紹介されています。広い視野でものごとの全体像をとらえる、まさに「知の伴走者」にふさわしい内容と感じます。

 

2023年4月号の特集テーマは「新しい実力主義」。東京理科大学を象徴する言葉の一つが「実力主義」とされますが、「入学試験もなく、入るのは楽だけど厳しい教育を受けて一人前になって社会に出ていくというのが『坊っちゃん』の時代の実力主義」(井手本副学長)。昨今の社会情勢から新たにとらえなおした「新実力主義」について、学長と副学長が語り合っています。

2023年4月号「新しい実力主義」

 

教育の特色を正面から伝える特集テーマと、それを包む洗練された表紙デザイン。手に取ると、「ああ、東京理科大学ってこんな大学なんだな」と、その中身と感性の両方を感じ取ることができそうです。

学生の活動や研究紹介、卒業生インタビューなどのページも充実。2023年7月号の卒業生インタビュー(写真左ページ)で紹介されているのは、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を立ち上げた山口拓己さん。広報関係者にはおなじみのサービスです。

 

「本当の意味でのコラボレーションができる人」 京都芸術大学で聞く追悼シンポジウム 「坂本龍一の京都」

2023年7月18日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

今年3月に亡くなった作曲家・坂本龍一さんは、たびたび京都を訪れ、京都とゆかりの深いアーティストらと作品を作り出していました。その活動をふりかえる追悼シンポジウム「坂本龍一の京都」が6月18日、京都芸術大学の京都芸術劇場 春秋座で開かれ、学者やアーティストらが登壇。坂本さんとの思い出を語りました。

世界を舞台に活躍した坂本さん、京都とどのような関わりをもっていたのだろうと思い、足を運んでみました。

万能のヘルパー

シンポジウムは、浅田彰さん(批評家/ICA京都所長/京都芸術大学大学院教授)による坂本さんの活動についてのレクチャーから。YMOが “散開”した翌年に坂本さんと出会い、40年来の親交があった浅田さんは「クラシック音楽の土台と、古典的な教養のある人。勉強が好きな人だった」とふりかえり、映像もまじえてその音楽活動を紹介してくれました。

浅田さん(右)。坂本さんについて、語っても、語っても、語りつくせない様子でした。左はアーティストの高谷史郎さん。(撮影:顧 剣亨)

浅田さん(右)。坂本さんについて、語っても、語っても、語りつくせない様子でした。左はアーティストの高谷史郎さん。(撮影:顧 剣亨)

 

「坂本さんは『自分の音楽を聴け』というタイプではなく、ジャンルを超え、求められる音楽を完璧に作ることができる万能のヘルパーのような存在だった。テクノ・ポップや、『ラストエンペラー』のような音楽を作ることもできたが、近年は自然の響きそのものを音楽にするところまで突き抜け、『世界がすでに音楽を奏でているのだから、それを配置するだけで音楽になる』というところに至った」と語りました。

 

印象的だったのは、坂本さんが大学時代に作った『分散・境界・砂』という曲を聴けたこと。メロディもハーモニーもない、ピアノの弦やフタを直接たたくような音の入った前衛的な曲で、浅田さんは「YMOや映画音楽などで多くの人に受け入れられる楽曲を作る前に、こういう曲を作っていたことは非常に面白い」とコメント。まったく同感です。

「京都会議」

坂本さんは1999年にオペラ作品『LIFE』を企画・作曲し、この作品でアドバイザーをつとめた浅田さんは、アーティストの高谷史郎さんを坂本さんに紹介。高谷さんはこれを機にコンサートやインスタレーション(※)など、多くの作品を坂本さんと共作しました。(※インスタレーション…現代美術の手法の一つ。様々な装置やオブジェを配置・構成した空間全体を作品として体験する芸術。映像、音、パフォーマンス、コンピュータによるインタラクティブ性のあるものなども構成要素となる)

 

坂本さんは「お寺で、5人くらいで庭を眺めながら音楽を聴くライブをしたい」「茶碗の割れる音を録音したい」などと高谷さんに話していたそうで、それぞれ実現したエピソードなどを紹介(さすがに5人でのコンサートは難しく、70人ほどを入れたそうですが)。

坂本さんは、作品づくりのために浅田さん、高谷さんらの顔ぶれで京都に“合宿”することを「京都会議」などと呼んで楽しんでいたそうです。

大徳寺でのライブ(2007年/撮影:國崎晋)をふりかえる高谷さん。

大徳寺でのライブ(2007年/撮影:國崎晋)をふりかえる高谷さん

 

高谷さんとのインスタレーション作品では、霧の動きを音に変換したり、樹木が出す電位を音に変換して、世界中の木による森のシンフォニーをつくったり……。自然の営みの中に音楽を見出すような意識の働かせ方は、京都という場所とも相性がよかったのではないかと感じます。

遊園地の子どものようだった

ところで、下は本シンポジウムのちらし画像です。この写真で坂本さんが触れている物体は何なんだろう、と思ったのですが……。

坂本さんが触れているのは、1970年の大阪万博でフランスのバシェ兄弟(兄:音響技師、弟:彫刻家)が作った「音響彫刻」です。たたいたり、こすったりしてさまざまな音を出すことができるもので、万博閉幕後に解体された作品の一部を2015年に京都市立芸術大学が復元。その話を目ざとく(耳ざとく?)聞きつけた坂本さんが同大学を訪れ、演奏したときの一枚です。

 

「無心の子どものように音を鳴らしていた」と、このときの坂本さんをふりかえるのは、復元に携わった岡田加津子さん(京都市立芸術大学教授)。「遊園地の子ども状態で、いつまでたっても帰らない。演奏のしかたも、楽器を叩くのではなく『君はどんな音がするの?』と尋ねるような感じ。触り方が音楽的だった」と話すのは岡田暁生さん(京都大学教授)。

坂本さんが演奏・録音した音響彫刻の音は、坂本さんのアルバム『async』(2017年)に収録されています。通常の楽器以外の音がたくさん使われているアルバムで、どれが音響彫刻の音かを判別することは難しいそうですが……。

本当の意味でのコラボレーションができる人

坂本さんとの出会いで大きく運命を動かされたのが、写真家のルシール・レイボーズさんです。ルシールさんは、坂本さんのオペラ『LIFE』で坂本さんと出会い、「日本人と初めて一緒に仕事して、そのクリエイティビティに触れた。驚くべき体験だった」と回想。

日本に魅了され、日本に住むようになったルシールさんは、照明家の仲西祐介さんとともに「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」を2013年に創設。以来、毎年春に京都で行われるイベントとして定着しています。

ルシールさん(左)は、坂本さんのことを語ろうとして声を詰まらせる場面も。右はKYOTOGRAPHIE共同創設者で共同プロデューサーの仲西さん。

ルシールさん(左)は、坂本さんのことを語ろうとして声を詰まらせる場面も。右はKYOTOGRAPHIE共同創設者で共同プロデューサーの仲西さん。

 

このほか、公開講座などで坂本さんと対談を行った京都精華大学のウスビ・サコさんや、坂本さんのアナログ盤ボックスで唐紙のアートワークを手がけた唐紙職人の嘉戸浩さんらも登壇。どの方の話しぶりからも坂本さんへの敬愛がうかがえて、改めてその影響力の深さと広さを感じました。

 

「坂本さんはいろいろな人との関係の中で音楽を作り、本当の意味でのコラボレーションができる人だった。京都は、気軽に声をかけあう付き合いの中で、刺激しあえる場所だと思っていたのではないか」(浅田さん)。

その活動は、サコさんとの対談で「対立をおそれていては自分の表現はできない」と言いきるような、譲れない部分をもつものでもありました。

約4時間におよんだシンポジウムは、まるで坂本さんが目の前にいるかのような和気あいあいとした雰囲気。

「坂本さんが亡くなったということがまだ理解できていない。今も刺激をもらっている」(高谷さん)、「私も同じ。巨大な仕事からまだ学ぶべきものがある」(浅田さん)。この言葉を聞いて、坂本さんは今も現役だ、と思いました。

 

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