タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキング2020が発表されました。これは英国の教育専門情報誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが、研究のインパクト、国際性などの点から世界各国の大学を評価したランキングです。
もちろん中立で絶対的な順位なんてものはありえません。でも、本ランキングの上位に位置する大学が、大きな影響力を持ち、優れた研究を多く発表しているのもまた確かでしょう。
そこで今回注目したのは、ランキングの上位にある著名な海外の大学が行う、市民向けの取り組みです。これらの大学は、普段どんな内容の研究成果や過程を、どんなかたちで市民に伝えているのでしょうか。トップクラス大学の市民向けの取り組みの一端を覗いてみましょう(講師が当該の大学の教員でなかったりするかもしれませんが、大目に見てください…)。
世界ナンバー1!オックスフォード大学
まずは英国のオックスフォード大学。THEのランキングでは第1位でした。設立は11世紀末。なにせ英国が近代国家として成立するよりもはるかに古い大学です。とてつもない歴史です。
そんな伝統校、オックスフォード大学で行われるイベントを見てみましょう。
展覧会:ポンペイの最後の晩餐 (2020年1月12日まで)
ポンペイの食事をテーマにした展覧会。日本でもよく知られたポンペイがテーマだったのでピックアップしました。
西暦79年にヴェスヴィオ山が噴火したことで埋没してしまった古代都市ポンペイですが、周囲に果樹園があったり、水も豊富だったりと、食の豊かな場所だったそうです。噴火したときも、ポンペイの人々は飲食をしたり、食事を作ったりしていたようで、テーブルの上で炭になってしまった食べ物も残っているのだとか。そんな貴重な史料を通して、ポンペイの人々の食生活を伝える展示になっているようです。
写真右が、火山噴火とともに炭になってしまったパンだそうです。
ヴェイパーウェイヴとオフモダン (11月12日)
さて、うってかわってごくごく最近の現象がテーマのこちらの公開イベント。2010年代初頭にネットで興り、今も注目される音楽や画像のムーブメント「ヴェイパーウェイヴ」と現代社会との関係についての講座です。
ヴェイパーウェイヴは、山下達郎や竹内まりやをはじめ、80~90年代の日本のシティ・ポップを引用している曲もあり、日本に住む者から見ても興味深い動向です。
代表的な曲の動画をあげておきましょう!(音が出ます)
こうした最近のネットの流行も公開講座でとりあげているんですね。
このようにオックスフォード大学ではかっちりとしたテーマから最新のカルチャーまで、バリエーションのあるイベントが開催されているようです。
少数精鋭のカリフォルニア工科大学
続いてランキングでは第2位だった米国のカリフォルニア工科大学。1891年設立。規模はそれほど大きくはありませんが、最新の研究を発表し続ける理工系の名門私立大学です。
天体観測レクチャー (10月4日)
レクチャー+質問タイム+天体観測がセットになった連続シリーズの一環。10月の回は「どうして夜空は暗いのか?」というキャッチフレーズがついています。“夜空の暗さは、宇宙が無限の大きさを持ち静的であるという仮定と矛盾する”というパラドックスをテーマに開催されるそうです(天文学では有名なパラドックスとのこと)。
他の回を見ても「銀河系の考古学」(8月)とか「星たちの音」(11月)とか、面白そうなテーマが続いています。天文学でも有名なカリフォルニア工科大学らしい、ロマンのあるイベントです。
カリフォルニア工科大学では、他にも理工系のレクチャーはもちろん、コンサートや読書会など小規模大学ながら盛んにイベントが行われていますね。
英国の伝統校ケンブリッジ大学
次はランキング第3位だったケンブリッジ大学。オックスフォードと並び称される英国の伝統校です。設立は13世紀初頭。ケンブリッジ大学では「犬は飼っちゃだめだけど、猫はよい」という古いルールがあるとも聞きました。そんな昔ながらの大学ではどんなイベントを行っているのでしょうか。
ビバ、キューバ! (10月24日)
クラシコ・ラティーノというラテン音楽のグループの演奏のもと、歌って踊るという家族向けのワークショップ。ケンブリッジ大学ラテン・アメリカ研究センターの研究者とのトークも行われるんだとか。音楽が好きな人にはたまらないイベントになりそうですね。
私の微生物と私 (10月23日)
バクテリアが私の健康にどんな影響を与えているか…。私達のなかに住んでいる微生物が肥満や糖尿病、アレルギー、うつ病にどう関係しているのか…。切実かつ身近なテーマを扱う公開講座です。タイトルもキャッチーですね。
微生物叢が自分の健康に与える影響に対して、何か打つ手はあるのでしょうか!?そんなことも気になります。
ケンブリッジ大学は、少なくとも最近のイベント情報を見る限り、わりと堅実かつ親しみやすいテーマのイベントが開催されている印象です。
アメリカ西海岸の超名門スタンフォード大学
アメリカの東海岸にある名門大学の1つといえばハーバード大学ですが、西海岸カリフォルニアにはスタンフォード大学があります。1891年設立で、現代ではコンピュータや情報ネットワーク関係の優れた研究を行ってきたことでも知られます。
一遍聖絵の五輪の塔の図像と実践に関する考察 (2020年5月14日)
ちょっと先のイベントですが、学校の日本史の授業でも習った、浄土宗の一派である時宗の開祖・一遍を描いた「一遍聖絵」の研究に関する公開講座だそうです。
これに限らず、今回とりあげた大学のなかでは、スタンフォード大学は日本に関する講義が結構目立ちます。最近のものだけでも下記のようなものが行われる予定です。
- ・日本の宮廷音楽と舞(雅楽のパフォーマンス)
- ・日本の即位の儀式について
- ・瀬戸際の日韓
- ・古代日本の道路、神社そして精神
どんな視点で日本は論じられているのか。少し気になりますね!
ノーベル賞受賞者多数のMIT
ランキング第5位となったのは、1865年に設立された米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)。コンピュータやメディア・アートの分野にとても強い大学ですね。
サウンド、学ぶこと、民主主義 (9月19日)
タイトルのみだとよくわかりませんが、日本のポップ・カルチャーを題材にした講座です。テクノ、ボーカロイド「初音ミク」、AKB48などを事例に、社会や文化を読み解いていくという主旨だそうです。
MITは一日に30、40のイベントが行われているみたいで、どんなイベントがあるのかチェックするだけでも一苦労です。
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THE世界大学ランキング上位5校の最近のイベントを見てきました。ここに出したのはごく一部。とりあえずこれらの大学はイベントの数が多い…。講座、演奏会、映画、展示などなど、日に何十件も、そしてさまざまなゲストを招いてイベントが行われています。
また、伝統校だから古いことばかりやっている、なんてこともなく、ヴェイパーウェイヴのような新しい話題から、オーソドックスな話題まで、何でもござれという印象です。この柔軟性はむしろ長い時代を生き抜いてきた伝統校だからこそなのかもしれません。
いくら有名大学とはいえ、所属でもしていないと、海外の大学がどんなイベントをやっているかなど意識する機会はそうそうありません。今回は5つの大学の最近のイベントだけをピックアップしましたが、もう少し長い目で、どんなイベントをやっているのかを追っていけば、アメリカやイギリスにおける公開講座の傾向なんかも見えてくるかもしれません!
ということで、海外の大学のイベント紹介でした。