みなさんは「シュールストレミング」という缶詰をご存じでしょうか?
ニシンを発酵させたものなのですが、世界一臭い食べ物として知られています。そんな「シュールストレミング」の開封を大阪大学が主催する「ラボカフェ」で行われるとのことで行ってきました!
「ラボカフェ」とは、京阪中之島線のなにわ橋駅構内にあるコミュニティースペース「アートエリアB1」で大阪大学が開催しているレクチャー&対話イベント。 大阪大学の教員らがカフェマスターとなり、平日夜を中心に、哲学、アート、科学技術、鉄道など多岐にわたるテーマで、ゲストや参加者のみなさんで語り合うカフェプログラムを提供しているものです。
「シュールストレミング」ができるまで
今回のイベントは「シュールストレミング開封祭~スカンディナヴィアの食文化~」と題され、行われました。ただの開封祭だけではなく、食文化も学べるというところに大学らしさを感じますね。
今回、スカンディナヴィアの食文化を教えて下さるのは、古谷大輔先生(大阪大学大学院言語文化研究科)。
シュールストレミングのふるさとであるスウェーデンの食文化を中心に講義がスタートしました。
スウェーデンという国は、非常に食べ物が乏しく限られた食材・調味料での料理が求められてきました。
まず19世紀に入るまで、原料が育たず砂糖が作れませんでした。そのため糖分の補給には木の実やサトウダイコンを使っていました。
そして塩。これまた中々採れずに苦労したそう。塩田は日照不足で干上がらない、岩塩も採れない。効率は悪いですが、海水を煮沸し、塩を採るしか方法が無かったんです。そんな中で海草を焼いて塩を作ることに成功したそうです。日本で言うところの「藻塩」ですね!
お次はお酢。スウェーデンではお米が採れません。ぶどうも採れないのでぶどう酢も作れません。そこでヤギのミルクから「ホエー」と呼ばれるものをお酢の代わりに使用していました。ヤギミルクから作るお酢…、癖がありそうです…。
最後に食材。
主食はパンでした。でも小麦が採れないので、普通のパンとは少し違ったものを食べていたようです。
それが、ライ麦を使ったパンと、大麦を使ったパン。
ライ麦パンは今でも見かけることがあるかと思います。少し黒いパンです。
しかし大麦を使ったパンはあまり見ないかも。大麦は発酵しづらく、なかなか膨らまないため、鹿のツノ(!)を膨らし粉として混ぜ込み食べられていました。それでもあまり膨らまないので「紙のようなパン」と呼ばれていたようです。
もちっとしていて美味しいらしい。具を巻いて食べるのが一般的
タンパク源として食べられていたのが豚、サケ、そして今回の主役であるニシンだったそうです。
森林面積が国土の68.7%を占めるスウェーデン。そんな森の中に住んでいる豚は貴重な食料でした。スウェーデンでクリスマスにあたる「ユール」という日には、塩漬けされた豚肉が必ず食卓に並びます。
そしてサケや、ニシン。特にニシンは300年前の書籍にも大量に捕れる絵が描かれるほど、とにかく漁獲量が多いんです。
300年前の絵本に描かれるニシン漁
そんなニシンを腐らせないように塩漬け加工されたのがシュールストレミングのルーツです。塩は調味料として使用されるよりも、保存料として使用されることの方が多いらしく、その塩味をごまかすために甘いジャムやディルという香辛料を使うんだそう。
スウェーデンを代表するブランド、IKEAのミートボールにはコケモモのジャムが添えられていますが、これはこの時代の名残かもしれませんね。
IKEAのミートボール。コケモモのジャムが添えられています
ついに世界一臭い缶詰開封!
80分ほどの講義が終わり、ついに「シュールストレミング」を開ける時がきました。
「もしこの場で開ければ異臭騒ぎとしてニュースになっちゃいますので、屋外に移動します!」と会場を出て、向かったのは中之島公園の端っこの方。人気のない場所です。
開封前の缶を少し持たせていただきましたが、持っているのが怖くなるほど缶はパンパンに膨らんでいました。一次発酵を済ませたニシンを缶に詰め、中で二次発酵をさせるため、缶が膨らむそうです。なので空輸では破裂の可能性があるとされ禁止されています。飛行機の中でにおいが広がっては大変ですもんね…。
開封は飛沫を防ぐため水の中で行うことが推奨されています。今回も用意されていたバケツの中で開封作業が行われました。
水の中で開封作業を進めていきます
ついに開きました!開いた瞬間、缶から泡が吹き出てバケツの中でゴポゴポ音を立てています。
「あれ? 臭くないかも?」なんて思った次の瞬間、きました。臭いです。あまり手入れのされていない公衆ト○レのようなにおいです…。とても臭いです。
「今回のは、においがマイルドな方だね」と古谷先生。え! これでマイルド!? …信じられません。なぜこれを食べようとしたのか、本当に不思議です。
これが開封後。発酵が進み、身がほとんどなくなっていました。骨は硬く食べることは出来ないため、缶の底に残った身を少しずつ分けることに。
ライ麦入りのパンにサワークリーム、スライスオニオン、ポテトサラダ、ディル、そしてシュールストレミング。現地での食べ方とほぼ同じです。
わたしはシュールストレミングの身ではなく、残ったエキスを数滴垂らしていただきました。
数滴のエキスでは味を感じることは出来ませんでしたが、口の中に異臭が広がります。その臭いをディルやサワークリームなどが消してくれますが、やはり臭いです。数滴で充分の存在感でした。
現地の方でも嫌いな方は多く、日本でいうと「くさや」のようなポジションだそうで、日常的に食べられている訳ではないとのこと。年に一回、お祭り気分で開けるのなら楽しいかもしれませんね!
一人で来ていた参加者の方が多かったですが、においのおかげで和気藹々としたムードでした!