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  • date:2024.7.2
  • author:池田一城

動物やペットは民法でどう扱われてる?明治大学の法学入門講座を受けてみた

「あなたは犬派?猫派?」どちらでしょうか。2024年5月、明治大学で「動物から始める法学入門-動物に関する裁判例を読んでみよう- 文系も理系も集まれ!~法学部編~」と題された公開講座が開催されました。

3匹の猫と生活をしている筆者は、1匹目の捨て猫を育ててから猫の魅力に取り憑かれ、今では猫がいない生活など考えられない…となってしまった「猫派」。法律という視点から何が学べるのか!?と関心をもち、オンラインで視聴しました。

ペットを含む動物は「物」に過ぎないのか!?

「最近は、猫を飼う人が増えているみたいですね。2015年頃には空前の猫人気となり、『ネコノミクス』なんて言葉も流行りました。2017年には猫の飼育頭数が犬の飼育頭数を上回ったようです」

 

そう語るのは、明治大学法学部教授の吉井啓子先生。私たちにとって身近な存在である動物・ペットに法律がどう関わっているのか?ペットが関わる裁判とはどういった内容なのか?など現代のペット事情について、法律を切り口に、フランスなど諸外国の法律との比較も交えながら研究されています。

国民生活センターに相談が寄せられたペットに関するトラブルは、2022年で1500件を超えるという。「ちなみに我が家にも猫がいます」という吉井先生

 

しかし「ペットや動物に関わる事件と裁判」と聞くと、ちょっと痛ましい出来事を想像してしまう筆者です…。そういえば、今年1月に羽田空港で日航機の炎上事故がありましたが、事故後にテレビやSNSなどで取り上げられたのがペットの同乗に関する議論でした。ペットはスーツケースと同列化されるような「物」(モノ)ではなく、人間の「家族」であり「乗客」なのではないのか?そんな問いが提起されたわけです。この問いかけは法律ではどのように規定されているのでしょうか。

 

まず吉井先生が紹介したのは「動物愛護法」の場合です。動物愛護法では、「動物は命あるもの」であるため、虐待や遺棄した場合は、動物虐待罪として罰金または懲役刑に処されることや、生体販売される犬と猫についてはマイクロチップの装着・所有者情報の登録義務などを定めています。ちなみにここで規定される「愛護動物」には魚類や両生類は含まれていません。

「動物愛護法」において、愛護動物はスライドの④-一、二のように規定されている

 

さかなクンが愛する魚類が含まれてないのは考える余地があるものの、人間と動物の共生や命ある動物を守ろうねという意識は感じられます。「動物愛護法」だけ読めば、「動物は物に過ぎない」という考え方は法律には存在しないんじゃない?とも思えてきたりしますね。

 

次は「民法」の場合です。吉井先生によれば、社会における動物の見方や位置づけは時代と共に変化してきているといいます。それは、愛玩対象としての「ペット」という用語が、伴侶としての意味合いをもつ「コンパニオン・アニマル」に代わってきているという事実からもうかがえます。

 

しかし「民法」での動物の規定は、社会の変化に追いついていないようです。というのも以下のような規定があるのです。

 

・動物は人の権利の客体となる「物」である(85条)

・その他の無生物と同様に「動産」である(86条2項)

 

「日本の民法における動物の位置づけは起草当時のままなんです。つまり動物は人の権利の客体となる『物』であり、無生物としての『動産」に過ぎない、とされています」

 

起草当時とは、なんと明治時代(愕然)。ということは、日本における動物の法的な位置づけは100年以上放置されてきたともいえます。

 

一方、海外の法律についてもお話がありました。オーストリア、スイス、フランスの「民法」では動物を単なる「物」とは捉えていないといいます。例えばフランスでは、動物を「感受性を備えた生命」と定義し、動物を「物」から切り離して、特別視する条文を入れているそうです。なるほど、フランスが先進的なのか日本が遅れているのか、おそらく後者が正解なんでしょうけど、外国と比較することで浮き彫りになっちゃいますね。もはや「ヨソはヨソ、ウチはウチ」では済まなさそうな話です。

 

少し残念ではあるけれど、日本の「民法」では未だに「動物は物・動産に過ぎない」という現実を知ることができました。では、そのような法律のもとで動物を巡る裁判にはどのような事例があって、結果はどうなるのか?さらに興味が湧いてきました。

動物をめぐる裁判例でみえた民法との狭間

吉井先生曰く、ペットに関する裁判や裁判例について、まず私たちが知っておくべきことは「損害賠償」にも、「慰謝料」「財産的価値」「治療費」「葬儀費」などがあることです。「慰謝料」とは、飼い主が受けた精神的苦痛に対して支払われる金銭的賠償であり、「財産的価値」とは、ペットの金銭的価値となります。

 

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【裁判例1】飼い主への慰謝料の事例

トリミング中に起きた猫の尻尾切断事故 2012年、東京地方裁判所

 

概要:ペットの猫をトリマーに連れて行ったところトリミング中に誤って尻尾を切断されてしまった。

   結果、猫は人を恐れるようになり、飼い主は精神的な苦痛を受けた。

判決:「動物は生命を持たない動産とは異なる、飼い主との間で愛情関係を育みうる」存在であり、

   損害賠償(慰謝料)の請求が認められた。

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判決では、慰謝料が認められましたが、財産的価値は争点にもなりませんでした。なぜかというと、当時、その猫は命に別条がなかったことに加えて、9歳を経過していたからです。わかりやすい例で言えば、新車、中古車でしょうか。10万キロも走っている車の財産的価値は特殊な場合を除いて算出するのが難しい。同様に、ペットもまた時間の経過と共に財産的価値は下がってくるとのこと。

 

 

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【裁判例2】ペットの財産的価値の事例

盲導犬の交通事故死をめぐる慰謝料と財産的価値 2010年、名古屋地方裁判所

 

概要:盲導犬育成団体から無償で貸与されていた盲導犬が車の交通事故で死んでしまった。

   盲導犬育成団体は事故を起こした運転手に対して損害賠償請求を行った。

判決:団体に生じた損害賠償(財産的価値)として260万円の請求が認められた。

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ニ…ニヒャクロクジュウ万円!?!とも感じてしまいますが、盲導犬の飼育、育成には、相当な時間、費用、労力がかかることは想像に難くないですね。これはまさに動物の財産的価値が評価された事例といえます。

 

 

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【裁判例3】ペットの治療費に関する事例
フレキシリード(伸び縮みするリード)の欠陥により飼い犬が重度の障害を負った 2011年、名古屋高裁

 

概要:買主は販売業者に対して「製造物責任法3条」に基づき損害賠償を請求した。

判決:慰謝料30万、治療費42万、リードの欠陥調査等のため支出した72万円余の損害賠償請求を認めた。

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この判決で注目すべきは治療費42万円。この額は犬自体の価値(財産的価値)を大きく上回ると考えられる、と吉井先生。このような治療費を損害として認める判決が出てきたことは画期的だったそうです。

 

 

 

以上、いろいろな裁判例をみてきましたが、民法の規定がありながらも、動物は通常の「物」とは異なる扱いを受けていることがわかりました。「物」とは異なる動物の性質について言及したり、それに基づいて判断したりする裁判例が増えてきているのが実際のところのようです。

 

「しかし、民法においては相変わらず動物は動産扱いです。近い将来、紹介した海外のような条文を日本も置くことになるのかもしれません。ただその点に関する議論はまったく熟していない状況です」

動物と法、今後の課題とは? 

吉井先生によれば、動物と法に関する問題は、今後も増加する可能性があるといいます。

例えば、「ペット」の安楽死については、誰がそれを選択・決定できるのかといった問題。動物の飼い主には、その動物が亡くなるまで養う終生飼養義務があるけれど、ペットと飼い主双方の高齢化も進んでいるそうです。さらに今後増えていく可能性のある老犬、老猫介護ホームに関わる動物の保管環境と飼い主との契約上の問題など。

なるほど、動物と法、飼い主とペットの問題は、社会問題にも深く根差しているんですね。

 

筆者が飼っている1頭目の猫は捨て猫だったのですが、今回の講義を聞いて「無償で譲り受けた猫や犬の財産的価値はないと考えてもいい」ということもわかってしまいました。

「でも、無償で譲り受けた猫や犬が、トリミング中に尻尾を切断されたら、財産的価値はないにしても、精神的損害に対する金銭的賠償である慰謝料に含めて補填される可能性はある」というお話も聞き、少し安心。人生の伴侶としての大切さを、法学という新たな視点から感じることができました。

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