2021年3月19日、国内最大級のマンガ専門の図書館「現代マンガ図書館」が、新宿区から明治大学駿河台キャンパスに場所を移してリニューアルオープンしました。さらに、リニューアルを記念して、企画展「現代マンガ図書館資料から生まれた書籍たち展」を開催しています。
実はこの現代マンガ図書館が新たにオープンしたのは、明治大学出身のマンガ評論家、故・米沢嘉博氏のプライベートコレクションからなる「米沢嘉博記念図書館」のある場所。つまり、米沢嘉博記念図書館に現代マンガ図書館が合体し、より充実したマンガ専門の図書館に生まれ変わったのです。
駿河台キャンパスの米沢嘉博記念図書館・現代マンガ図書館
リニューアルしたことで、どんな新しい魅力が生まれたのか? そして、「現代マンガ図書館資料から生まれた書籍たち展」とは、一体どんな企画展なのか? これらを探るために、実際に伺ってみました。
現代マンガ図書館と米沢嘉博記念図書館の違いって?
今回のリニューアルは少し変わっていて、場所は一つですが2つの図書館が複合運用され、2階に共同カウンターが設けられています。2つの図書館には以下の違いがありました。
米沢嘉博記念図書館…「コミックマーケット(コミケ)」創立者の一人としても知られる、米沢嘉博さんのプライベートコレクション約14万冊。マンガ単行本・雑誌のほかに関連書や同人誌が多いのが特徴。ちなみに、全国的に見ても雑誌が多い図書館というのは大変珍しい。
2018年に取材した記事は
こちら現代マンガ図書館…早稲田の鶴巻町で1978年開館。貸本屋を経営していた内記稔夫さんのプライベートコレクション。30万冊以上のマンガがそろっており、中には貸本専用の「貸本マンガ」も多数。2009年に明治大学にコレクションが寄贈され、「明治大学 現代マンガ図書館」として運営されてきた。
司書さんいわく、明治大学出身の米沢さんは「日本マンガ学会」で内記さんとともに理事を務め、自分たちのコレクションの行方を語る機会も多くあり、そういった縁もあってそれぞれが明治大学へコレクションを寄贈することにつながったそうです。
2つの展示でマンガの歴史にどっぷりハマろう!
建物内に入ると、まず常設展が出迎えてくれます。こちらでは、米沢さんと内記さんの功績や代表するコレクションの一部を紹介。内記さんが貸本屋時代に扱っていたマンガに、米沢さんが集めていた月刊マンガから雑誌まで、両図書館の違いがわかるだけでなく、所蔵されている本のジャンルの幅広さにも驚きです。
米沢さんと内記さんを紹介する常設展
扉を開けてすぐにたくさんのマンガに出会えるので、テンションが上がること間違いなしです! また、米沢さんが生涯をかけて注力した「コミックマーケット」に関する展示もあります。
今回の取材では、特別に許可をいただきましたが、常設展は撮影NGなので、その点だけ注意しましょう。一方、企画展は撮影OKということです(まれにNGのケースもあるそう)。
常設展の奥は、企画展「現代マンガ図書館資料から生まれた書籍たち展」スペースとなっています。こちらは名前の通り、現代マンガ図書館に収められているマンガを資料として、新しく生まれた書籍11作品(マンガやビジュアルブック、雑誌など)を紹介しています。
壁一面に透明なケースが並んでおり、左側に資料となった現代マンガ図書館に所蔵の本、右側にその本を制作資料として新たにつくられた本が対になって展示されています。解説をもとに2つを見比べながら、展示を見ることができます。
『金魚屋古書店出納帳』の2巻(右)と資料となった本(左)
例えば、小学館の『月刊IKKI』で連載していた『金魚屋古書店出納帳』の 2巻の表紙で説明しましょう。『金魚屋古書店出納帳』は、マンガ古書店の「金魚屋古書店」を舞台にした作品です。フラリと立ち寄った客が、抱えている悩みやモヤモヤをマンガ本と絡めて解決していくという人間ドラマが描かれた作品です。2巻の表紙は、主人公たちの働く古書店内をバックにしたもので、背後にある棚には、実際に現代マンガ図書館にあった古書たちがモデルとなって並んでいます。
企画展では、特別に表紙の棚の上段に並んでいる実物を集めて再現。スタッフさんは「本棚が再現できたときは、とても嬉しかった」そう
ちなみに、この棚の並びはチラシの裏画像にもなっています。
企画展のチラシの裏面
ケースの左下にある解説は、本を制作した作家や編集者、研究者によるものです。現代マンガ図書館に保管してあるマンガのどういった部分が、本の資料になっているのかが具体的にわかるようになっています。
現代マンガ図書館の保管図書が特に活用されているのが、昭和の少年・少女マンガの歴史をふり返る『少年マンガの世界』 『少女マンガの世界』(平凡社)などのビジュアルブックです。紙面で紹介されている作品の、資料協力や撮影協力をしているそうです。
現代マンガ図書館の協力が欠かせなかったマンガのビジュアルブック
これらのビジュアルブックは、膨大な数のマンガが保管されている現代マンガ図書館がなかったら誕生していなかったと言っても過言ではないでしょう。
現代マンガ図書館の協力の元につくられた本のほかには、貸本屋時代に内記さんがつくっていた『漫狂(まんきち)』という冊子も展示されています。一緒に展示されている創刊号の生原稿には、1978年に現代マンガ図書館が設立された経緯や当時の利用案内などが書かれています。利用方法が今とは違うので、マニアックな人には楽しいかもしれません。
図書館設立への熱い想いが伝わる『漫狂』創刊号の生原稿
ほかにも、こんなお宝を発見しました!
手塚治虫先生のサイン色紙
実は、現代マンガ図書館の開館3日目に、手塚治虫先生ご本人が訪れたのだそう! 子どものころから手塚治虫先生の大ファンだった内記さんは感動して、サイン色紙をお願いしたそうです。まさか、こんな場所で手塚治虫先生のサイン色紙を見ることができると思っていなかったので、とても興奮しました。
アトムの形をしたトロフィー
ほかにも、「第1回手塚治虫文化賞」のトロフィーや内記さんの手書きの日報なども展示されています。1970~1980年代の貴重な資料が目白押しでした。
現代マンガ図書館で童心に戻ろう!
2階の閲覧室は、普通の図書館にはないマンガ・雑誌が盛りだくさん! マンガ好きが楽しめるのはもちろんですが、普段あまり読まないという人でも十分楽しめますよ!
小学生のころに友達とまわし読みをした月刊マンガ、好きな作家の初期の作品、戦後の貸本時代のマンガなど、懐かしい気持ちや驚きで胸がおどることでしょう。
ちなみに、一般の方がこの2階閲覧室を利用するには、有料会員登録と利用料が必要です。また、館内のマンガは館内閲覧のみで、貸出は行っていません。そして、目的の作品が館外の「保管庫」にある場合は、事前申し込みが必要です。一般的な図書館とは利用方法がやや異なるので、訪れる際にはあらかじめホームページで利用方法を確認しておくといいでしょう。
真ん中は、大人気マンガ『AKIRA』がスタートした号の週刊ヤングマガジン
今回の企画展にちなんだ関連資料コーナーもあります。1階に展示されている本の中身を見てみたいという人は、こちらで実物を手にとって見てみましょう。
企画展の関連資料コーナー
また、昔のマンガ・雑誌に加えて、最新のものや海外作品もそろっています。昔のマンガよりも新しい作品に興味がある方も楽しめます。
棚には韓国の大人気マンガ『女神降臨』も
所蔵作品がすべてこの建物内で保管されているわけではありませんが、1つの窓口で両図書館の本を閲覧できることで、さらに便利になりました。「レファレンスサービス」(たとえば、閲覧したいマンガのタイトルや発行号がわからなくても、覚えている特徴などから目的のマンガ探しを手伝ってもらえる)を強化したのに加え、今までになかった以下のサービスも開始したそうです。
◆郵送複写サービス(要会員登録)
読みたいマンガをコピーして、郵送で届けてもらえる。
◆事前予約サービス
データをリスト化していて、オンラインで閲覧の可否がわかるようになっている。
マンガの奥深い世界にたっぷり浸れる現代マンガ図書館。現代マンガ図書館のことがよくわかる「現代マンガ図書館資料から生まれた書籍たち展」は、5月30日(日)までです。ちょっと変わったマンガの世界を、あなたも覗いてみませんか?