7月13日(土)~9月8日(日)、明治大学博物館にて、特別展『見えているのに見えていない!立体錯視の最前線』が開催されました。「立体錯視」とは、人の目の網膜に映った2次元の画像を脳が3次元の立体として知覚する際に、脳が足りない情報を勝手に補おうとして間違える状態のこと。そして、錯視は私たちが気づいていないだけで、意外と身の回りの色々な所に潜んでいるのです。
特別展の入り口
社会や自然に関する現象の数理的解析を研究している「明治大学先端数理科学インスティテュート」では、明治大学研究・知財戦略機構の杉原厚吉研究特別教授が中心となり、錯視をテーマに掲げ、長年研究をしてきました。そして、立体錯視のしくみを解き明かす数理モデルに行きつき、次々にユニークな錯視研究作品を生み出しました。
杉原教授の錯視研究作品は、台湾の博物館に展示されるなど、海を越えて注目を集めています。そんな 立体錯視の世界を見てみようと、たくさんの人が訪れました。
たくさんの作品が並ぶ博物館内
今回の特別展では、錯視研究が始まったきっかけや錯視が一体どんなものなのかを紐解くと同時に、杉原教授が発見した立体錯視の具体的な方程式を提示し、シミュレーションによって生まれた数々の作品が展示されました。
まず目に飛び込んで来たのは、一般的に広く知られている錯視の展示です。同じ長さの横棒なのに、斜めの棒がプラスされることで横棒の長さが違って見えたりするもので、来場者からは「見たことある」「これは知ってる」という声が聞こえました。
一般的に知られている錯視の代表
その後は、杉原教授が立体錯視の不思議に気づいたきっかけや錯視の説明、錯視を研究する社会的意義などの解説をはさみながら、色々なパターンの立体錯視が続きました。
生活の中に潜んでいる錯視の一例
錯視は人が作り出した作品だけではなく、私たちの生活の中に潜んでいるそう。一直線の道路や床のデザインなど、身近な所に錯視があると知ってビックリ!
杉原教授が発見した立体錯視とその方程式
中には、立体錯視を作る方程式が一緒に展示してあるものも。ひとつの立体錯視を作るために、気の遠くなりそうな方程式が使われていることがわかります。同時に、数学の無限の可能性も感じます。
もっとも注目を集めていたのが「変身立体」。本来の立体と鏡に映る立体の違いに、たくさんの人が驚いていました。
鏡に映ると形が変わる不思議な「変身立体」
円柱の立体が鏡の中では星型に見えたり、泳いでいる魚が蝶々に見えたりして、子どもから大人までマジマジと作品を見ていました。個人的に気に入ったのは、泳いでいる魚が鏡に映ると蝶々に見えるものです。鏡とセットでインテリアとして、玄関に飾りたいくらいカワイイ!
他にもいろいろな楽しい作品が続きました。
そして最後は、実際に自分の手で動かして錯視を体験できる「軟体立体」です。
非対称な形の立体を180度回転させても元の形に戻る作品で、たくさんの人が作品をまわす様子を撮影していました。
杉原教授インタビュー「危険な錯視を減らして安心できる暮らしへ」
見学に訪れた8月23日(金)は、杉原教授によるギャラリートークも行われました。ギャラリートークでは、杉原教授が行っている錯視の研究の詳細、これまで発見してきた錯視の紹介を、動画を交えながら説明されました。また、なぜ錯覚が起こるのかなどのメカニズムに加えて、上り坂なのに下り坂に見えてしまう「お化け坂」を例にして、私たちのまわりの色々な場所で錯視が起こっていると話をして、集まった人たちを大いに驚かせていました。
そして、大盛況のうちに終了したギャラリートークのあと、杉原教授に錯視についてのインタビューを行いました。
杉原厚吉研究特別教授
「私は、大学卒業後に所属した研究所ではロボットの目の開発に携わっていました。その中で、不可能図形が立体になるということを発見して、人間の目の錯覚や脳の誤解などに興味を持ちはじめ、錯視を研究するようになりました。
今回の特別展で錯視作品を見て、みなさん驚いていらっしゃいましたが、錯視は私たちが気づいていないだけで、生活の中のいろいろな場所に潜んでいます。例えば、ものを取ろうとしたときに距離感を間違えて取り損ねてしまったことはないでしょうか?
実は、それも立派な錯視です。こういった小さな錯視もあれば、事故につながる危険性の高い錯視もあります。今ある錯視をなくすことはできませんが、将来的には私たちの生活を脅かす危険な錯視を減らすサポートができるよう、今後も力を入れて研究を進めたいと思います」
ただただ楽しい特別展かと思いきや、意外にも錯視が事故などにつながる可能性を持っていることがわかりました。また、錯視以外にも、まだ解明されていない人間の目と脳とのメカニズムなどの不思議にも触れられ、予想以上の学びも。私も、見慣れた街の風景を新たな視点で見つめてみようと思いました。